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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第12章 残滓が消えぬ間に

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441.憧れの廃工場

「よう。久し振りだな、キクル」


 古城遺跡ぶりの再会となる俺達。


『随分馴れ馴れしいな、お前。別に構わないが』


 第二十四ステージ、腐葉土村の祭壇下にて、キクル達一向と合流を果たした。


 昨夜連絡を貰い、偶然俺達の近くにいたため、一先ず行動を共にすることになっていたのだ。


「まあ、気にすんな」


 リョウの奴はイマイチ好きになれねーが、コイツは悪くねぇ。


『ならさっそく、今後の打ち合わせと行こうか』



●●●



「なんか……不気味なんだが」


 “吸血皇の城”の見学にやって来た俺達だけれど、空が赤暗くておっかない。


 昨日、十八時頃もこんな空の色だったような。


 八人で門扉をくぐり、昨夜駆け抜けた庭を通って城の前へ。


挿絵(By みてみん)


「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」


 門が勝手に開いてすぐに、十二人のメイドに頭を下げられた?


「……素晴らしい」


 リューナが感動している。


「彼女達はこの城専属の使用人NPCだ。掃除から食事まで、大抵のお願いは聞いてくれる。ただ、例のチップの対象外だからな」


 エルザの説明。


「一人一人デザインが違うようだけれど、エルザが自分で作ったの?」


 チトセさんの質問。


「いや、あらかじめ設定されていた物だ。一応、新たに追加する事も出来る。容姿も変えられるが、種族は吸血鬼に限定されているからな」


 見た目では分からないけれど、吸血鬼なのかよ。


「そう言えば、ナターシャの種族は只人を選んだけれど……只人って、こっちの世界の俺達みたいな種族って事か?」

「そういう種族が、昔は居たという話は聞いたことがあります」


 答えたのはクオリア。


「昔は?」


「只人は進化し、私達の祖となったと言われています。鳥人、獣人、人魚、エルフ、竜人、ホーン、ドワーフ、フェアリーなど、その他様々な種族の元となったのが只人です」


「進化……」


 実は、異世界人が一番弱い種族とか? だとしても不思議じゃないか。


「まあ、諸説ある中の、もっとも有力とされている説に過ぎません。あのデルタが行っている歴史教育ですし」


 クオリアは、元から歴史に対して懐疑的だったのかな? ちょっと親近感。


「一通り案内する前に、取り敢えずは客室に案内するか」


 そう言われ、エントランスの階段を登っていく俺達。


 そこから更に階段を登って辿り着いたのは、七階。


「このフロアが客室になる。それぞれにトイレや風呂などの水回りが用意されている。なにか食べたり飲んだりしたければ、ベルを鳴らして注文しろ。お金を払えば、メニュー内の物は幾らでも用意してくれる」


「まるでホテルだな」


 取り敢えず入った客室は十二畳くらいあり、天蓋付きのキングサイズベッドや棚がある。


「ベランダまであるのか」


 テーブルやイスまでベランダに置いてあり、景色を見ながらティータイム……は、この空の色だとちょっとな。


「というわけで、好きな部屋を使ってくれ。作りは同じだが、壁の色や家具のデザインくらいならある程度選べるから」


「それより、あの空ってどうにかならない?」


 チトセさんがエルザに尋ねた。


「ああ、自由に変えられるぞ。今は初期設定のままになっているだけだし」


 チョイスプレートを操作し、青空に変えてくれるエルザ。


 コンソールでじゃないんだ。


「実質、この城ってエルザの物なのか」

「レギオン戦では、マスターであるチトセの物として扱われるけれどな。ちなみに、チトセ自身は別に魔法の家と契約が可能だ」


 チトセさんが無事でも、エルザが倒された時点で使えなくなってしまう城か。


「それと、最上階は強制的に私のプライベート空間になっているからな」


「それより、調合室ってどこ!」


 チトセさんが尋ねる。


「そ……六階に設定することが出来る。コンソールは最上階にあるから、先にそっちへ行くか」


 なんかショック受けてるし……雰囲気がだいぶ柔らかくなったな、エルザ。



●●●



「ここ……なんか、今までのステージと違う」


 ルイーサ達と一緒にボス戦を終わらせた私達の目の前に広がっていたのは……暗い空に淀んだ空気……廃墟と化した工場って感じの場所。


挿絵(By みてみん)


 周りは黒い木々に覆われていて、不気味な雰囲気に包まれているけれど……高速道路みたいなのが工場地帯の真ん中から祭壇の反対側へと、遠くまで伸びていた。


「村や町じゃなくて、工場地帯って感じか」

「なんか、嗅ぎ慣れない匂いが……鼻が効かなくなって来たっす」


 山猫獣人であるサンヤには、ここに充満している薬品っぽい匂いはキツいらしい。


「メルシュ、先に私達だけで下に向かいますか?」

「ま、麓で先に様子を探るのは悪くないか」


 ヒビキに促され、私達は三パーティーで下に下りることに。


「そう言えば、ヒビキってここにも来たことあるのよね? どういう場所なの?」


 メルシュに訊いた方が正確とは思いつつ、この不気味な雰囲気を紛らわせる意味でも尋ねてみる。


「退廃的な場所と言いますか、個人的には肌に合わない場所ですね。一部の男性には、堪らない物があるそうですが」


「このならず者のための場所っていう雰囲気、秘密基地感が良いのかね」


 ルイーサには、なんとなく解るらしい。


「以前来たときは多くの男性プレーヤーが居ましたが、今はどうなのか」


「なんか、嫌な予感がしてきた」


 祭壇の下に到着して辺りを見渡してみると、建ち並ぶ建物はボロボロ。


 壁や屋根が崩れて、中が丸見えになっている場所もある。


「本当、1980年代から90年代の、近未来SF映画に出て来そうな場所ね」

「ああ、分かる!」


 私の言葉に同調してくれたのは、意外にもナオ。


「ナオって、洋画とか見るの?」

「まあ、それなりにね。あれとかって、モーテルって言うんでしょう?」


 ナオが指を指したのは、車の駐車スペースとホテルの個室が直通になっているタイプの……建物?


「て、なんで車があんのよ!」


 デザインは近未来的で、一目で壊れてると分かるくらい酷い有様だけれど。


 前々から思ってたけれど、このゲームの世界観っていったいどうなってんの?


「今の所、人の気配は……あの建物からするな」


 メグミが指摘したのは、比較的マシな建物。


「私達で様子を探って来よう」

 

 ルイーサの提案により、五人で建物に近付いて、ガラスドアから中を覗いて……み……。


「ああ、今日も最高の揉み心地だぜ~」

「ガーターベルト、サイッコー!」

「おい、今日は俺がキスしていいか?」

「ふざけんな! 汚ーだろうがよ!」


 派手なナースのNPC達が……五人の男達にセクハラされまくっていた。


「……サイッテー」

「女の目が無いからって、下品な奴等だ」


 ルイーサの言葉に同意しようかと思ったけれど、実は筋骨隆々のNPCの胸板とかお触りした事あんのよね、私って。


 戦士村の時だって、皆が居なかったらいっぱいお触りしたかった!


「……へ?」

「……あ」


 男の一人と、目が合ってしまう。



「……ほ――本物の女だぁーーー!!!」



「「「なにぃーーーッ!!?」」」


 男達全員がこっちを見て……血走った目をしている。


 ……なにはともあれ、モモカとバニラを連れて来なくて良かった。


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