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44.英知の街

「……本当に街だ」

「凄い……これが英知の街」


 俺達が立っている場所は、第一ステージの時と同じ祭壇のような物の頂上。


 けれど、眼下に広がる光景は全くの別物。


 積み上げた石で出来た巨大な建物が並ぶ、中世の大都市のようだ!


 現代なら、間違いなく観光都市に指定されているだろう程の壮観。


「……もうすぐ夕方になるし、まずは宿を探そうか。正直クタクタだ」

「そ、そうですね」


 トゥスカは、目の前の光景に萎縮しているようだ。


「メシュ……この街のどこかに居るでしょうか?」

「……さあな」


 居て欲しいとは思っているけれど、居るとは断言できない。


 そんな状態で、「きっと居るさ」なんて無責任な事は言えなかった。


「明日から、街の隅々まで探してみよう」


 正直、メシュが居ることに期待している自分が怖い。


 メシュが居なかった場合に、強く動揺してしまうかもしれない事が怖いのだ。


 ジュリーとの一件があるから、尚更そう考えてしまうのかもしれない。


 メシュに会えなければ、ジュリーを傷付けてまでこの”ワイズマンの歯車”を守った自分の行いが……途轍もなく重い罪に感じてしまいそうで。


 あの時のジュリーの泣き叫ぶ声が、今も耳にこびり付いている。



             ★



 黄土色の石段の終わりが見えてくると、チンピラのような空気感を醸し出した三人の男達が階段を塞ぎ始めたのが見えた。


「なんだ?」

「嫌な視線を感じます」


 トゥスカがそんな風に言うって事は――


「ヒュ~ー♪ 今回は当たりじゃね?」

「あの獣人、めっちゃイカす!」

「ハメまくりて~!」


 殺してやる。


 様子からしてプレーヤーだな……一人は獣人かよ。


 問題があるとすれば、目の前の三人が俺達よりも格上かもしれないということ。


 口振りからして、ここを縄張りに新人を食い物にしているようだ。


 三人の男達の装備、どこかで見た覚えがある気が……どこでだ?


「男の方は?」

「ぶっ殺すに決まってんだろう」

「待て待て、女の方はまだ奴隷かもしれねー。男は奴隷契約を解除させた後だ」


 聞こえるように言ったら、あんまり意味ねーよな?


「ご主人様、私が始末してきます」

「油断するなよ」

「当然です!」


 トゥスカが空高く跳び上がる!


「「「は?」」」


「インフェルノバレット!」


「うわあああああ!!?」

「なんだ、この魔法は!!?」

「あちーーーーー!!?」


 トゥスカに気を取られ、俺の魔法にろくに対処してこない?


 魔法陣を出さずに放ったとはいえ、油断しすぎだろう。


「爆裂脚!!」


 一人の男の顔面にトゥスカの蹴りが炸裂し、上半身が爆ぜた。


「て、テメー、よくも俺の仲間を!」

「クズでも仲間意識があるんだな」


 両手に同じ片刃の大剣を装備していた男の右腕を――切り落とす!


「……嘘だろ、コイツら新人じゃねぇのかよ!!? ふざ――――」

「喋ってばっかで、隙だらけなんだよ」


 “強者のグレートソード”で、右腕の次は首を刎ねた。


「バカな奴等が! ”ホロケウカムイ”!!」


 さっきトゥスカが倒したボスが使った、謎の青い光を纏う獣人の男。


「今の俺は無敵だ! くたばりやがれ!」


 男がステップを刻んで、俺に蹴りを放つ。


「”拒絶領域”」

「おわーーーー!!?」


 勝手に弾かれて、地面を転がっていく筋骨隆々の獣人。


「コントでもやってるのか、コイツらは?」


 バカにされている気分だ。


「ハーッハッハッハッハッハッハッハ!! 今の俺は無敵! あらゆるダメージが軽減されるのさ!!」


 ダメージが軽減?


「本当か?」

「それだけじゃねー!! 速さも攻撃能力も、発動の間は全てが上昇しているのさ!!」


「なるほど、一時的に身体能力を上げる能力なのですね」


 トゥスカのスピードに反応出来ず、獣人の男は拳を鳩尾に決められた。


「爆裂拳」


 男の上半身が肉片と化す。


 それにしても……コイツら弱い。


 一応、手を合わせておく。

 ごめん、全然気持ちを込められないや。


「さっさと宿に行こう」

「そうですね、早く身体を洗いたいです」


「あんたらは冒険者だね!」


 今度は、NPCのオッサンが声を掛けてきた。


「ここは英知の街。金さえあれば、様々な知識を得られる」


「知識?」


 色んな攻略情報が手に入るって事か? 


「ん? 君、”ワイズマンの歯車”を持っているようだね! ならば、英知の学園の庭に行くと良い! そこに、ワイズマンの時計が置かれているからね。その歯車があれば、あの古びた時計もきっと直る!」


「英知の学園? それって……」

「ここは英知の街。金さえあれば、様々な――」


「……行こうか」

「そうしましょう」


 NPCと会話すると、時折虚しい気分になる。



             ★



 すぐに宿が見付かったため、304の鍵を受け取って()()()()()()()()()()()()()()()()()


 シャワーを浴びたのは、黒鬼や突発クエストが起きた日の早朝ぶり。


 シャワールームでアレをしたのもあの日ぶり。


 日が落ち始め、窓から入ってくるそよ風が、潤った肌を撫でる。


「最高だな」

「最高ですね♡」


 ベットの上で、トゥスカが肩を寄せて頭を預けていた。


 トゥスカの心地良い柔らかさとぬくもりが、左側から伝わってくる。


 俺とトゥスカは今、白のバスローブのような簡易な寝間着に身を包んでいた。


 部屋を借りる際、一着20000Gで売ると言われたため、二着買ったのだ。


 うん、買って良かった。


 部屋は始まりの村の宿よりも広く、壁は石で囲まれている。


 設備そのものは特には変わらないけれど、地味に良い物になっていた。


 値段も、俺とトゥスカ合わせて4500Gと、始まりの村の宿よりもかなりお高め。


 向こうではたったの30Gだったからな。


「もう少しこうして居たいですけれど、ご飯を作らないとですね~♡」

「俺は、手持ちのアイテムを確認するか」


 軽くキスをして離れていくトゥスカ。


 気怠い身体に心地よさを感じつつ、チョイスプレートを開く。



○戦士.Lv18になりました。装備セット機能が使用可能になりました。



「Lvが上がっていたのか。装備セット機能ってなんだ?」


 少し操作してみると、すぐに分かった。


「セットしておけば、装備を一瞬で変えられるわけか。武具や指輪、その他装備のセットが出来るんだな」


 敵によって、装備を大きく変えたいときなんかに便利そうだ。


「でも、どうやって装備を一瞬で変えられるんだろ?」


 相変わらず、知りたい情報をもたらしてくれない!



○戦士.Lv19になりました。スキルセット機能が使用可能になりました。



「またLvが上がった!?」


 18になったのはボス戦を終えた時だろう。


 だとすると、あの強姦魔達だけでLvが上がった事になる。


 それだと、アイツらのLvが高かった事にならないか?


 ……先手を打てなかったら、負けていたのは俺とトゥスカだったのかもしれない。


「実は危なかったのかな……」


 やっぱり、ダンジョンよりも街や村の方が危険だ。


 人間が一番怖い。


「今回は装備のスキル版か」


 戦術の幅を広げられそうだ。


「ただ、大きく戦術を変えられるだけの装備やスキルがあるわけじゃないからなー」


 そういえば、あの三人からはどんな物が手に入ったのかな?



○”四本腕の大湾刀”×4を入手しました。

○”四本腕の石鎧”×2を入手しました。

○”転剣狼の甲脚”×2を入手しました。

○“転剣狼の竜巻ブーメラン”×3を入手しました。

○”拳闘士の衣服”を手に入れました。

○“ホロケウカムイ”のサブ職業×2を入手しました。

○”大転剣術のスキルカード”×4を入手しました。

○“氷炎魔法のスキルカード”×2を入手しました。

○”暴風魔法のスキルカード”を入手しました。

○“万雷魔法のスキルカード”×2を入手しました。

○“氷塊魔法のスキルカード”を入手しました。

            :

            :



「色々持ってるな……」


 一人一つしか手に入れられないはずの、ボス討伐報酬アイテムが複数。


 どういう方法で手に入れたのか考えると……胸糞悪くなる。


 今気付いたけれど、あの三人の防具、ボスの姿に似ていたんだ。


 ……第二ステージに挑んで、よく分かった。


 俺とトゥスカだけでは、この先に進むのは難しい。


「仲間が必要だ。特に、魔法使いで上級の回復手段を使えるサポート役が…………でも……仲間を探すのは……嫌だな」


 俺が、トゥスカ以外の人間を信用できる気がしないから。


このゲームは、人を腐らせる要素で溢れている。


理由はいずれ

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