436.第四階層に墜ちる裁き
「ここは、朝でも第二階層より暗いわね」
“砂漠の四層都市”の最上階に位置する第一階層の地面と違って、第二階層の地面には穴があまりないため、その下の第三階層は端の方くらいしか明るくない。
更に、第三階層は民家や畑が広がっているばかりで、これといった物が無いらしい。
日の当たる端の大部分が畑で、畑の内側に民家が密集しているような立地。
多分、野菜を育てるためにこういう作りになった、ていう設定なんでしょうね。
「それじゃあ、今から第四階層に降りるよ。準備は良い?」
メルシュが、全員に確認を取る。
「四階層からは、モンスターが出るんでしたね」
「この都市の人間達は、第四階層にモンスターが入り込んで繁殖したために、四層で作物や家畜を育てられないっていう設定だからね」
クマムの言葉に、より詳しく説明するメルシュ。
「下に行った直後、千体のモンスターが襲ってくる。そのモンスターを全て倒さないと先に進めないから、パーティーごとに手分けして第四層のモンスターを駆逐して」
「それで、半日は道を自由に行き来できるんだっけ。誰かが数を減らしててくんないかな」
ナオは、相変わらず楽をしたがるわね。
まあ、私もだけれど。
「それはそれで困るんだけれど……」
「まあ、ナースの隠れNPCは既にカオリが契約しているらしいし、一レギオンだけで討伐する事に拘らなくても良いだろう」
ジュリーが、当たり前のように隠れNPCの情報を自分から口に!
「良いの、ジュリー?」
「私が情報源なのはバレているらしいからね。もう、あやふやにする意味もない。この前の大規模突発クエストの景品で、隠れNPCのほとんどが契約されてしまっただろうし」
クエストに参加した者で生き残った人数の多い上位三つのレギオンに、隠れNPC引換券を渡すってあれか。
あのクエストには三十六体参加していて、景品のチケットはおそらく二十一枚。
単純計算だけれど、未契約の隠れNPCは十体から二十体って事になるから、もうほとんど残っていないと考えるのが妥当。
――今、クリスティーナから不穏な気配がしたような……気配って、私はアニメキャラじゃないんだから。
でも最近、どんどんそういう物に敏感になっていっている感覚はある。
剥き出しの刀身の状態で、自分が世界に晒されているような感覚。
今まで、分厚い歪な鞘越しに、世界を見ていたような気さえしてくる。
まるで、テレビの映像を見ただけでその映像で語られた事の全てを知った気になっていたような……バカみたいな勘違いをしていたんだなって。
そうこうしているうちに例の滝へと辿り着き、水と一緒に流れてくる足場に乗って下――第四階層へ。
「う、眩しい!」
二階層から三階層よりも長い滝を降りていくと、熱気と光に包まれた第四階層が見えてきた!
「これ……砂漠?」
「それに、第三階層の裏側が、鏡か硝子のように光を反射しているみたいだな」
私のあとに来たルイーサの指摘。
「……本当だ」
上からの光が鬱陶しい。
「元はここが畑を耕す場所だから、光を効率的に取り込む必要があるからね。端から入る光を、中心点まで届かせるための工夫だよ」
再び解説してくれるメルシュ。
私達が乗ってきた滝のエレベーターはこの第四階層で終わっているようで、ちょうど反対側から上へと足場付きの滝が上がっていく。
「千体のモンスターか」
さっそく、四方八方からモンスターが砂煙を上げながら近付いてくる!
「ここのモンスターの大半は、水属性が弱点だから!」
そうこうしているうちに砂煙の中から姿を現したのは、黒っぽいトカゲとやせっぽっちの灰色ウサギの群れ!?
「デザートラビットとデザートリザードだ! どっちも弱点は水! 奴等は素早いから気を付けろ!」
フェルナンダが、敵について色々教えてくれる。
「やってやろうじゃない!」
“凶兆片翼の銀鳳凰”に、神代文字を三文字刻む!!
「“聖水魔法”、セイントバイパー!! “水銀魔法”、マーキュリーバイパー!!」
白水と銀水の巨蛇を、正面から獣共の群れへと食らいつかせる!
「私を殺そうなんて――生意気よ」
神代文字を六文字刻み、二体の海蛇に力を流し込んで――二体の蛇の猛攻を避けて近付こうとした奴等を、尾の一振りにより殲滅!!
「……フン」
他のパーティーも、上手く撃退したみたいね。
「それじゃあルイーサ、フェルナンダ、サンヤ、ヒビキ。さっさとモンスター狩りに行くわよ!」
「「「お、おう」」」
それにしても、ここは本当にあっついわね。
○”砂漠ウサギの毛皮”×8を手に入れました。
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「“災禍刃”」
砂の中から飛び出してきたサンドシャークを、縦に振った指先より放った黒紫の斬撃で――真っ二つに切り裂いた。
「フ、この雑魚共が余」
石の大刀で、同じくサンドシャークを倒したナノカが粋がっている。
「ねぇ、なんかヤバいのが来てるんですけど!!」
慌てるナオの視線の先には、さっきの群れよりも巨大な砂塵を巻き起こすなにかが。
「ナノカ、アレでぶっ放しちゃって」
「良いだろう! 余に全て任せるが良い!」
魔神子の隠れNPCは尊大で寂しがり屋という設定があるため、若干ウザい。
まあ、子供らしい性格という意味では扱いやすいけれど。
「――野蛮な神霊!!」
ルイーサのパーティーが手に入れたレア装備、“野蛮な神霊の指輪”を用い、大砲付きの神輿を出現させるナノカ。
担ぐ人間かなにかが居ないと宝の持ち腐れだけれど、それでも威力に関しては折り紙付き。
デカい的に一発当てるだけなら、運用になんの支障もない!!
「くたばるが良い余!!」
神輿に乗り込んだナノカにより、TPの四分の一を注ぎ込んで放たれた大砲の弾は、見事に砂塵の前部分に命中――砂漠の中から巨大な”サンドシャーク”、“デザートハンマシャーク”がダメージを負った状態で飛び出す!!
「クマム、トドメをよろしく」
「わ、分かりました!」
まだまだ発展途上なクマムかナオに、出来るだけ経験を積ませないとね。
「“天使法術”――ヘブンジャッジメント!!」
頭上からの巨大な光の裁きにより、ダメージを負っていた頭から一気に崩壊――消失させるクマム。
「……凄い威力」
大規模突発クエストで手に入れた隠れNPCのサブ職業の一つ、“大天使”には、天使系の威力や効能を高める“大天威”のスキルが含まれているため、天使系中心のクマムの戦闘能力は一気に増大したと言える。
「“隠れNPCシャドウ”なんて物がクエストに組み込まれていると知ったときは、どうなる事かと思ったけれど」
むしろ、私達にとって良い戦力アップになってくれたようね。
○”サンドシャークのスキルカード”×3を手に入れました。
○“砂漠鮫の頭骨”を手に入れました。
○“パサパサのフカヒレ”×17を手に入れました。




