434.弾劾の意志
「“大地讃頌”!!」
その巨体に、足元からダメージを入れる!
「……なんて再生能力だ」
大地の唄で裂けた赤い皮膚が、一瞬で元通りに。
ネレイスの強力な魔法によるダメージも、既に癒え掛けている。
「面倒だな」
生半可なダメージじゃダメなうえ、身体の中心にはエルザが取り込まれた核……あの部分を傷付けないように攻撃しないと。
『『“咒血竜技”――カースブラッド・ドラゴンフレーーイム!!』』
双頭の頭から、赤黒い巨炎が放たれた!!
「――“飛王剣”!!」
「“霙竜技”――スリートドラゴンブレス!!」
俺とネレイスで、二つの呪いの炎を消し去る!
「エルザを返して!!」
チトセさんが、かつてないほど感情を顕わにしている。
『返せ? この子は、初めから私のためにこの世に産み落とされたのだ』
『母たる彼女も、我が血肉の一部となるべく、呪われた存在たる我と子を成したのだ!』
復讐のために生み出された子供……か。
『『つまり、生まれ出でる前から――この子は私の物なのだぁぁぁ!!』』
「子供は――親の所有物なんかじゃないッ!!!」
チトセさんのその言葉には、強い信念と悲痛が込められているように思えた。
『だぁまるがいぃぃ!!』
「“大地剣術”――グランドブレイク!!」
チトセさんに迫る腕を、六文字刻んだ“サムシンググレートソード”で消滅させる!
「“瘴気魔法”――“直情の激発”!!」
反対の腕も時間差で迫っていたが、背後のクオリアが対処してくれた。
けれど、あれは使用した魔法の五倍のMPを消費するという大技。これ以上は頼れないと思った方が良い。
「チトセさん。コイツは、一定以上のダメージを蓄積させれば、あとはイベントで倒せます。そうすれば、エルザも取り戻せる。ただ、回復能力が高いため、畳み掛ける必要があります」
この説明をしている間も攻め立てたい所だけれど、冷静さを欠いているチトセさんを落ち着かせないと。
『この子は渡さなぁぁい!! この力で私はぁ、全人類の望みぃぃ――全てを滅ぼすという願いを叶えるのだぁぁぁぁ!!!』
人類その物が……滅びを望んでいる?
て、NPCの設定に、なにを呑気に考え事を!
「――オールセット2」
チトセさんの背後に機械のバックパックと、そこから右腕側に伸びる……ガトリングを装備した?
もしかしてこれが、チトセさんの本来のバトルスタイル?
「――親ガチャ失敗した子供の――――怒りを思いしれぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」
ガトリングからの一斉掃射が、双頭の吸血竜へと浴びせられる!
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ムカつく――ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!!
「世間体を押し付ける、世間体にそぐわない生き方をしているクズ親共が――――私達の心を無視して、勝手なことばかり抜かしてんじゃねぇぞぉぉぉぉおおおッッッ!!!!」
どいつもこいつも、どいつもこいつもどいつもこいつも適当なことばかり抜かしているくせに常識人ぶりやがってよ、ろくなコミュニケーション能力も無い――化け物共のくせによぉぉおおおおッッッ!!!
――エルザの境遇が自分と重なって、トラウマが爆発して歯止めが利かない。
ずっと探してた。両親や世間への鬱憤を晴らす場所を。
でも、感情的になることは恥ずべき行為という認識があった私は、周りの人間のように下卑た感情を表で垂れ流すなんて恥ずかしい行為――出来なかった。
それでも時折我慢の限界が来て、その度に家出したりして――でも、誰も私の心の限界を、行動の中に込められたメッセージを……読み取ってはくれなかった。
家族も、友達も、先生も、誰も、他人の心に触れて、労り、慰める能力を持ち合わせていない――ただ生きているだけの人形。
だから、この世界に連れて来られたことは……私にとって救いだった。
銃を手にすると、私の中で煮えたぎっていた黒い激情を――表に出しても良いんだって、自然にそう思えた。
皆で苦しむルートを選んだ人間を軽蔑していた。
恐怖に呑まれて錯乱する人間を、他者から奪って自分だけが得をしたい利己主義者を、安っぽい同情を振り撒く偽善者を――勝手に射線に割り込んで、勝手に私にトラウマを植え付けたバカをッ!!
……でも、でも……自分の方がおかしいんだろうなって、そう思ってしまう自分もずっと居て……。
だって……だって――世の中には、圧倒的に私が軽蔑したくなる人間の方が多かったから。
でも、今のこの私の感情が、想いが――私は間違ってないって、そう教えてくれているんだ!!!
MPが底を尽き、“魔力弾丸”が出なくなる。
引き金を引いても、カラカラカラというガトリングの虚しい音だけが響く。
「……足りねぇ」
目の前の勘違い親をぶちのめすための力が――
『『“咒血竜魔法”――カースブラッド・ドラゴバイパー!!』』
「装備セット1――“神代の剣”――――“魔斬り”!!」
私に迫る二体の竜蛇を、神代文字を十二文字刻んだ二刀流で切り裂いてくれる……コセ……くん。
そう言えば私……いつのまにか君から、さんになってた。
年下の男の子には、みんな君付けだったのに。
『その女を差し出せばぁ~』
『見逃してやっても良いのだぞ、小僧~』
「そんな恥知らずな真似をするくらいなら――死んだ方がマシだ」
その背中と言葉に――心臓が、痛いくらい高鳴った。
――私の心が洗われていくみたいに、“妖魔悪鬼への憤慨”が形を変えていき――――“業魔悪鬼共を弾劾し尽くせ”へと生まれ変わる!!
「――そこをどきな、コセ」
罪に背を向けた罪人に――慈悲を向ける価値無し。
バックパックから伸びる二つのガトリングの持ち手部分に、それぞれ六文字刻む!!
「MPブースト――――“神代の炸裂弾”!!」
魔法使いLv50で解禁される、一日に一度だけ使用可能なMPを全快にする機能を行使し――青白き弾丸を超高速掃射!!
『『――ンぬらばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!』』
核を避けてぶち込んだ弾丸が、奴の体内でやむことなく――青白く炸裂し続ける!!
「くたばれぇぇぇぇッッ!!!」
――ピタリと身体が止まり、引き金を引く指が……勝手に離れていく!?
『……ば、バカなぁぁ……』
『これ程の力を得たこの私がぁぁ――――ち、力が……奪われて――』
吸血皇の血肉が溶けて、血液のようになり……エルザが取り込まれていた核に吸い込まれていく?
『よ、よせ……このままでは』
『私の存在がぁ……ぁ…………』
「たとえ人類が滅ぶべき存在だったとしても……その役目は、お前なんかが担うべきじゃないんだよ」
全ての血液が一人の女の中へと消えていき……そこには、ショートだった黒髪が腰まで伸びた……エルザがいた。
「エルザ!!」
邪魔なガトリングを脱ぎ捨てて、雰囲気の変わった彼女に抱き付く!
「……なんというか、色々迷惑を掛けてしまったな、マスター。それに皆」
「まあ、仕方ないさ」
コセ君の声を合図に、エルザの腕の中で……私の意識が遠退いていく。
「わた……し」
「ゆっくりお休み、マスター。ここからは、私が守るから」
エルザ……なんだか……お母さんみたい…………。




