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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第12章 残滓が消えぬ間に

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430.荒ぶる直情

「あ! ねー、出口が見えたわよ!」


 先頭のマリナがそう叫ぶと、確かに目の前の通路の先には質素な木製の扉が。


 ようやく迷路が終わるか。


『よくここまで来られたな、冒険者共! キキ!』


 ドアの上部分の天井に、真っ赤な“吸血バット”が留まっていた。


「なにコイツ?」

「まだ攻撃するなよ、マリナ」

「わ、分かってるわよ」


 なんとなく、止めてなかったら攻撃してた気がする。


『吸血皇様が居る部屋の入り口は、この先にある! ただし、門番が居るから気をつけな~。キキキキキ!!』


「“熱光線”」


 俺達の頭上を飛び越えて消えようとした吸血バットだったけれど、マリナによって仕留められた。


「たぶん、ここでしっかりと準備をして置けっていうありがたいメッセージだったんだろうな」


 マリナに、若干の非難を向ける。


「さっきの奴を倒したら、“Lvアップの実”が三個も手に入ったけど?」


「そ、そうなんだ……」


 倒せる機会が少ない故の、ボーナスキャラでもあったのか。


「それで、先に進まれますか?」

「クオリア、もしかして疲れちゃった?」

「いえ、そんなことは」


 目が見えないクオリアの精神的負担は、歩くだけでも俺達以上だろう。


「五分ほど休憩しよう。今のうちに水分補給やトイレを済ませるんだ。ナターシャ、後ろの見張りを頼む」

「畏まりました」


 こういう時、休む必要が無いNPCには本当に有り難みを感じる。


「クオリア、もし疲れてたり負傷したりしたら、遠慮無く言って良いんだからな」


 ナオやアヤナはともかく、頑張りすぎるクオリアにはこれくらい言った方が良い。


「……はい、以後気を付けます」


 これは、隠そうとしたけれどバレてしまったとか思われそうだな。



●●●



 ああ、ウザ。


 気遣いの言葉を聞かされた瞬間、そう思ってしまった。


「……やっぱり、変な男」


 ああいう言葉を掛けられたことが、無かったわけじゃない。


 でも、そういう人間に限って、土壇場で弱者を見捨てる。


 だから……コセ様の言葉に、少し怖くなってしまった。


 この人も、私を見捨てるんじゃないかって。


「甘えても……良いのかな」


 今まで誰も許してくれなかった、目の見えない私なんかが……甘えたことを口にしても許されるのかな。


「……フ」


 お願いだから、幸せなんて求めさせないでよ。



●●●



 五分の休憩を終え、俺達は扉をくぐる。


「……すご」


 暗い箱状の部屋の壁全体に、金銀財宝の山が置かれていた。


「中央に居るな」


 俺とナターシャが前に出て、吸血バットが言っていたであろう門番にゆっくりと近付いていく。


 微動だにせずにそこに居たのは、黄土色の甲冑を纏う……腕と脚が六つに、三つの頭を持つ異形の騎士!


「あれはゲリュオーンです、ユウダイ様!」


 よく見ると胴体も三つあって、背中と腹が縦にくっ付いているだけだったようだ。


 それでも、俺の倍はありそうなほどの身長を持つ巨体が三つともなると、その圧迫感は凄まじい。


 ――ある程度近付いた所で、ゲリュオーンが動きだす!


『ゥオオオオオオオオオ!!!』


「先手必勝だ! “飛王――」



「“瘴気魔法”――――“直情の激発”」



 俺とナターシャの間から黒の瘴気の激流が走り抜け――ゲリュオーンの三本の左腕と共に、左胸をゴッソリと持っていった。


「今のは……」


挿絵(By みてみん)


「どいて」


 翼を広げ、飛び立つクオリア。


『ぐぎ……グガ……』



「“冥雷魔法”――――“直情の轟発”ッ!!」



 飛行して上から急接近したクオリアが、黒の雷迸る魔法陣をゲリュオーンに叩き付け……爆音と衝撃波を撒き散らし、完全に消し去ってしまう。


「……クオリア」


 自分から接近戦を仕掛けるなんて。


「ユウダイ様、あれを」


 ゲリュオーンがいた辺りの空間が揺らいで、赤いゲートのような物が現れる。


「城主の部屋への入口か……クオリア、無事か?」


「大技を使ったので、MPをかなり消費してしまいました」


 初めて会った時よりも、距離を感じてしまう。


「……あの、なんのつもりですか?」


 気付いたら、優しく彼女を抱き締めていた。


「腹が立ったなら、俺にはそう言って良いから」

「……わ、私は別に……」

「俺に一生涯面倒を見ろって言うなら、もっと素直になって欲しい。これは、最低限の条件だ」


 きっとクオリアは、まともに誰かに自分の気持ちを伝えられなかったのだろう。


 誰も自分の心なんて見てくれないという想いに、目が見えないという負い目が合わさって、ずっと自分の感情を抑え込んでいたはず。


 俺もトゥスカに出会うまで、自分の心に触れてくれる人になんて出会えなかったから……殻に閉じこもりたくなる気持ちは、よく分かる。


「……私を――搔き回さないで!!」


 クオリアに……突き飛ばされた。


「ハアハア、ハアハア……」


「ちょ、クオリア!? なにしてんのよ!」


 マリナが感情的になってしまう。


「いきなり抱き付いたのは俺だから……ごめん、クオリア」


 愛妾宣言とかされてたせいか、調子に乗ってたんだろうな、俺は。


「いえ……私の方こそ、申し訳ありません」


 いたたまれない空気を払拭したいのか、俺達は自然と、血のように赤いゲートを潜っていた。



○ゲリュオーンを七分以内に撃破したため、討伐報酬が倍の12000000(一千二百万)Gとなります。




●●●



「では、私のレギオン、《黒茨親衛隊》を抜けるという事で良いのね?」


 ユウコの居城、“薔薇園の古城”を訪れた俺とレイナで、彼女のレギオンを離れる旨を伝えた。


『ああ、世話になった』


 パーティーを二つに別ける必要があり、仲間に出来たエルフが一人だけだったため、一時的にレギオンを組ませて貰っていたユウコ。


 男の奴隷を何人か失って荒れていると聞いたが、話し合いそのものは滞りなく進んでくれてほっとしている。


 もしかしたら、今彼女の横に控えている執事風のエルフのお陰かもな。


 おそらく、使用人NPCなんだろうが。


 それにしても、以前よりも凄みが増しているな、この女。


「一度で良いから、その仮面の下を見てみたかったわね」


『言っただろう。酷い火傷の跡があって、他人に見せられた物じゃないと』


 血の繋がっていない父親に熱湯を掛けられて、左眼はほとんど見えていないしな。


『手切れ金というわけじゃないが、1000000(百万)Gを置いていく』


 金袋を実体化させて、取りに来た執事エルフに渡す。


「別に良いのに。そういう事なら、私からはこれを贈るわ」


 ユウコが実体化させた物を、再び執事エルフが持ってきてくれる。


『“最高級な分裂リング”か……ありがたい』


 装備した状態で日を跨ぐと勝手に一つ増えるという、ただそれだけのSランク装備。


 ただし、オリジナル以外は装備品としてカウントされず、売る以外に使い道は無い金策用アイテム……本来ならば。


「悪魔召喚士の彼女に、ちょうど良いと思ってね」


 “悪魔召喚士”のユニークスキルを持つミドリは、贄にしたアイテムのランクで呼び出せる悪魔が決まる。


 Sランクを贄にしなければ、最上級悪魔の七十二柱を呼び出すことは出来ないため、これはありがた過ぎるくらいだ。


『ほとんど一方的に世話になってしまったな』

「別に良いわよ。良い男と話せただけでも、私には宝物だもの。最後に一発ヤらせてくれるっていうなら、喜んで跨がってあげるけれど?」


挿絵(By みてみん)


「ちょっと、ユウコさん!? なに言ってるんですか!!」


 レイナが叫ぶ。


『……勘弁してくれ』


 俺は、色恋沙汰になんて興味ないんだよ。


 むしろ……トラウマって言うべきか。


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