426.特殊クエスト・吸血皇を滅ぼせ
「つまり、エルザがヴァンピールだから強制になったわけか」
エルザの暴走から一時間後、宿にてようやくメルシュ達と連絡が取れた。
「三十四ステージの隠れNPCは特殊で、エルザがトドメを刺すと手に入れられる特別仕様みたい」
「エルザが?」
隠れNPCと契約出来るのは一人一体のみ……どういう事なんだ?
「詳しいことは、ジュリーも忘れちゃったって」
「おい、名前!?」
情報源がバレたら、ジュリーと協力者の身が危険に!
「もう、奴等にバレてるよ。ちなみに、ジュリーの協力者だった女はクリスの親戚だったみたい。この前の突発クエストで、クリスが直接レプティリアンから聞いたって」
「もしかして、クリスが隠れNPC扱いでこの世界に来たのは……」
「協力者への罰だったようだよ。ちなみに、彼女がその後どうなったのかは分からない」
レプティリアンと関係があったクリスがゲームに参加させられたのは、そういう理由か。
「クリスは大丈夫なのか?」
「実は今の話、まだ私しか知らないんだよね。アオイの件もあって、みんなには言い辛かったみたいでさ」
下手をしたら、ジュリーとギクシャクしてしまったかもしれないしな。
「クリスを気に掛けてやってくれ、メルシュ」
「うん。でも今は、クエストの話に集中しよっか」
「……そうだな」
今は目の前のことに……トゥスカ達と合流するまでは。
★
「ようやく着いた」
十八時前、森の中心に聳える崖、その上にある吸血皇の城の門扉前へと辿り着く俺達。
出来る限り、TP・MPの消費をしない飛行手段でここまでやって来た。
「メルシュ様の話では、18:00になると同時に大量のモンスターが街中に放たれるのでしたね」
「しかも、クエストを受ける受けないに関係なくだったな」
「だから、十八時には全てのお店が閉まってしまうんですね」
「宿の中に居れば関係ないらしいけれど、町や村に危険な時間帯があるのが当たり前になってきたなー」
ナターシャ、リューナ、チトセさん、マリナが話し出す。
「城の奥から、沢山の気配が近付いてきます」
クオリアがそう口にした瞬間、俺が開いていたチョイスプレートの時刻が18:00を刻んだ。
「門扉の隅へ」
八人全員が門扉に貼り付いた瞬間に扉が勢いよく開き――――城の中から大量の蝙蝠や悪魔、虫モンスターなどが現れ、町の方へと一直線に向かった。
「あれ程大量のモンスターを相手にしていたら、ここに辿り着くまでにだいぶ時間をロスしていただろうな」
「これだけでも、かなり時間に余裕が生まれるらしい」
教えてくれたのはメルシュだけれど、たぶんジュリーからの情報なんだろう。
「さっさと行くぞ」
庭に出現した藍色の甲冑モンスター、リビングアーマーに向かって“光線拳銃∞”を撃ち出すエルザ。
あの銃はなんの消費も無しで“魔力光線”を撃てるから、取り敢えずの攻撃はエルザに任せるか。
「前は私が」
ゴツくて華美な“ロイヤルロードランス”と“ロイヤルロードシールド”を構えたナターシャが、エルザがうち漏らしたリビングアーマーを打ち倒しながら突き進んでくれる。
「ねえ、ドアが!」
城の巨大扉が、勝手に開いていく!
「お待ちしておりました、今宵のお客様方」
豪奢な内装のエントランスが飛び込んできたと思ったら、いきなり執事風の老人が現れた!?
「わたくしめは、主の部屋への案内係をさせて頂いております、スジャと申します」
「なんだ、モンスターじゃないのか?」
リューナの疑問は、俺達も同様だった。
「主の部屋への入り口は四カ所ございますが、一カ所につき一パーティーしか通ることが出来ません」
嫌でも戦力を分散させなきゃならないのか。
「エントランスの階段を上った先にありますのが”淑女達の花園”、右扉から繋がるのが”数多の墓所”、左扉は“千花の庭園”、正面が”コックの戦場”となります」
「コセさん、どうします?」
「どう……」
聞いていないんだが、メルシュ?
「私のパーティーは上に行くぞ!」
「「「やっぱり」」」
俺とチトセさんとマリナが、リューナの言葉に対してハモってしまった。
「な、なんだよ……」
「なら、俺たちは右に行くか」
砂漠を越えたときと同じ面子で、リューナ達は”淑女達の花園”。俺達は”数多の墓所”へと向かう。
他の二カ所も気になるけれど、今はこれ以上パーティーを分散させる余裕は無い。
「どちら様も、ごゆっくりお楽しみくださいませ」
吸血皇の執事の声が、やたら不気味に聞こえた。
●●●
「さてと」
エントランス左右の階段を上り、豪奢な通路へと足を踏み入れる私とサカナに、チトセとエルザ。
「メイドさん?」
通路の両脇に侍っているメイド達は、私達に向かって礼をしていた。
「宴はこの先にて開かれております。どうぞ、ごゆるりとお楽しみくださいませ」
こんな対応をされたら、調子が狂うな。
「さっさと進むぞ」
エルザが淡々と進み、通路奥の扉を開く!
途端にオーケストラの躍動するような音色が流れ出し、ドレスを着飾った沢山の女達が躍り始めた。
しかも、女性二人がペアになって社交ダンス? をしているようだ。
「フフフフ!」
「フフフ」
「ウフフフフ」
「……期待外れだな」
美人揃いだが、喜怒哀楽もないモンスターではつまらない。
「いったいなにを期待していたのですか、エリューナさん?」
「このマスターも、それなりに問題はあるようですのね」
「とっとと片付けて、あの男を殺しに行くぞ!」
チトセもサカナもエルザも、好き勝手言いやがって。
「ん?」
前触れもなく曲が止まり、この部屋に居る者達が一斉にこちらを見た!
「「「キャハハハハハハハハ!!」」」
全ての顔が歪み――亡者悪鬼が如き醜い顔となって、襲いかかってきただと!?
「――“神代の剣影”!!」
黒のシャシュカ、“終わらぬ苦悩を噛み締めて”に九文字を刻んで、青白き剣の影を鞭のように振るい――六体を両断!!
「“大海魔法”――マリンバイパー!!」
「シャワーモード!」
ネレイスの海水蛇とチトセの溶解液により、見る見る数を減らしていく化け物共。
「コイツらは大して強くない! 消耗しすぎるなよ! “鞭化”!」
エルザが漆黒のジャベリン、“ブラッドアブゾーバー”の柄から先を撓らせながら伸縮――只の一撃で四体を屠る。
「“心霊術”、ポルターガイスト」
パーティー会場の料理やらテーブルやらが、一斉に飛んで来た!?
「“蒸発魔法”――イヴァポレイションボム!!」
チトセが水蒸気爆弾を撃ち出した瞬間、急いで身を屈める私達!
すぐに爆発の衝撃が部屋を覆い、飛んできた物事、大半の亡者悪鬼を葬り去ったようだ。
「さっきのはアイツの仕業か」
オーケストラの指揮者と思われる男!
「援護をしろ、エルザ!」
「仕方ないな!」
指揮者とは斜めに駆けながら光線を撃ち、私が正面から最速で接近できるようにしてくれる!
「“心霊術”、パッチンラップ」
奴が指を鳴らした瞬間――軽い衝撃波に襲われた!?
威力が低い分、必中の能力といった所か!
「“心霊術”、生き霊」
「“逆さ立ち”」
地面から生えてきた腕の群れを勘でジャンプしながら回避し、天井へと落ちながら“神代の剣影”を振るい――指揮者の身体を切り裂いて仕留める!
すぐに“逆さ立ち”を解いて着地。
その間に三人は、残りの亡者悪鬼を仕留めてしまったようだ。
「さすがだな」
ツェツァ達に負けないくらい頼りになる奴等だ。
「……ツェツァ、ルフィル」
二人は、アテルとかいう男の元で上手くやれているのだろうか。
○”心霊術士”のサブ職業を手に入れました。
○“宮廷指揮者の指揮棒”を手に入れました。
○“高級シルクドレス”×18を手に入れました。
○“亡者悪鬼の指輪”×4を手に入れました。
○”生贄の遺骨”×36を手に入れました。




