425.ピラミッド型都市の神秘
「階層がどうのって話だったけれど……これって浮いてるんだ」
第一階層の中心部から流れ落ちる滝のような物から突き出し、ゆっくり下に動く足場に乗って第二階層に降りてみると……第一階層を支える柱などはなく、十メートル以上高い場所に浮いている事が分かります。
第一階層を下から見ると空洞も多く、第二階層に太陽の光が届かない場所はほとんど無さそうです。
「ここには、色んなお店があるんでしたっけ?」
下で合流したのち、メルシュさんに尋ねる。
「うん。ここは珍しく色んなお守りが売られているから、一通り買うつもりだよ」
「メルシュ、ここからは別行動で」
「それじゃ、二時間後には第三階層で合流を」
ジュリーさんとユリカさんのパーティーが離れていく。
第三階層へは、乗ってきた滝のエレベーターでそのまま下れば良いそう。
反対側には上りの滝エレベーターがあるため、今から第一階層に戻ることも可能のようです。
「それじゃ、私も食材の買い込みに行こっかな」
「私は武器が見たい」
サトミさんとルイーサさんのパーティーも離れていった。
「じゃ、クマム達は付いてきて」
「はい」
河を一緒に超えてきた面子で、多種多様な像? が並んでいるお店の前へ。
「いらっしゃい。安くしとくよ」
○以下から購入できます。一律2500Gとなります。
★耐火のお守り ★耐水のお守り ★耐雷のお守り
★耐氷のお守り ★耐鉄のお守り ★耐風のお守り
★耐土のお守り ★耐光のお守り ★耐闇のお守り
★耐竜のお守り ★耐古のお守り ★耐霊のお守り
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「色々ありますね」
「簡単に手に入るから大した効力は無いけれど、地味に役に立つ物だからね。全部三十ずつ購入するよ」
もしかして、レギオンメンバー全員分を購入するつもりなのですか?
「クマム」
「どうしたの、ナノカ?」
魔神子の隠れNPCである彼女をナノカと呼ぶの、まだちょっと違和感がある。
「さっき、こっちを見ている奴が居た。たぶんエルフだ」
「エルフが? 数は?」
メルシュさんが尋ねた。
「見えたのは一人。すぐに姿を消した。得物は、手にしていなかったから分からない余」
「武器を見せないようにしていたとしたら、戦い慣れしてそうだね」
「それって、厄介な相手にマークされたってこと?」
ナオさんに尋ねられる。
「断言は出来ないけれど、油断しない方が良いって事は確かだね」
「なら、さっさと用を済ませて皆と合流しましょう。ここはNPCが多いから、紛れて接近されちゃうかも」
メルシュさんの発言に対し、カナさんからの暗殺者のような指摘。
「ですね」
頭にターバンを巻いた半裸の褐色肌NPCが沢山おり、常に往来を行き来しているこの場所。
黒い布を全身を覆う形で被った女性達も一定数居て、顔がほとんど見えない。
彼等に格好を似せられたら、本当に気付けないかもしれない。
狙われてるかもって思うと、隠れNPCであるナノカやメルシュさん達が、いつも以上に頼りになる存在に思えてきます。
●●●
「おお! あんたら、外から来たのか! よく辿り着けたな!」
“吸血皇の暗都”の宿と思われる建物の中に入ると、細身のおじさんが声を掛けてくる。
「あんたら、冒険者だよな? 頼みがある……あの城の主、吸血皇を殺して来てくれ!」
「区長! 今まで、何人の冒険者が失敗したと思っているんだい!」
今度は、宿の女将と思われる女性が騒ぎ出す。
「たとえ成功したって……」
「だ、だが、どちらにせよ、冒険者様が先に進むには、吸血皇と戦う必要があるのだ。問題あるまい!」
「もしかして、ボス部屋に入るには、まず城に行かなきゃならないってパターンなのか?」
リューナが口を開く。
「あの古の扉は、城の主たる吸血皇によって封じられておる。奴を殺さなければ、扉を開くことは出来ん」
「たとえ出来ても、あの男が死んでいるのはたったの三日だけだろう。奴を完全に滅ぼす方法なんて、この世にありはしないのさ。黙って今まで通り……一月に一人、若い娘を差し出せば良いじゃ無いか……ぅう!」
エプロンの裾で顔を隠す、女将さんNPC。
「以前、彼女も娘を差し出した事があったんじゃ。暗黙のルールとして、最初に出来た娘は十二の時に奴に捧げる事になっているんだよ……わしも、初めての娘を」
「つまり、吸血皇を倒さないと先に進めないってわけなんだ」
マリナが結論を述べてくれる。
「宿に着いたら、夜になる前に連絡するようにって言われてたけれど……」
ジュリーならなにか知っているはず。
「頼む! 復活するにしても、三日平穏に暮らせるだけでもありがたい!」
「平穏に?」
三日だけでも平穏って、どういう意味だ?
「もし奴を完全に滅ぼせるなら、特別な報酬も出そう! 頼んます、冒険者様!!」
普通の手段だと復活するみたいな事を言っているし……まずは情報収集が先――
○依頼を受けますか?
いきなりチョイスプレートが現れた!?
しかも、NPC以外のメンバー全員に表示されている!
○今すぐ受けなければ、区長から特別な報酬を受け取れなくなります。
「ノゾミからは聞いていないぞ、こんなの」
リューナ……確か、ノゾミっていうオリジナルプレーヤーから情報を得ているんだっけ。
「となると、変更された仕様ってわけか」
知っていれば、ジュリーはもっと早く教えてくれていたはず。
「私は受けるぞ。マスター、コセ」
チトセさんと俺に訴えてくるエルザ。
報酬は惜しいけれど、今は危険な気がする。
「なんの情報も無いんだ。今はまだ……」
「言ったはずだ――父親を殺すのを優先させて貰うと!」
エルザの強い眼力。
もしかして……設定を遵守した強制行動に入っているのか?
普段、自分達のことを設定がどうとか言う隠れNPCにしては、態度が堂に入りすぎている。
「近くに来たからなのか解る。あの城に、奴は居る!」
「おい、エルザ!」
勝手に、チトセさんのチョイスプレートで依頼を受けてしまうエルザ!
「エルザさんは強制イベントモードになっています。どうしようもありません」
「この依頼は個人で受けるタイプみたいですの。私達が受けようが受けまいが、チトセとエルザだけで強制イベントに突入してしまいます」
NPCであるナターシャとネレイスが教えてくれる。
「仕方ない。みんな」
「構わないさ。どちらにしろ、城に行かなきゃいけなかっただろうしな」
「今夜はゆっくり休みたかったのに」
「養いポイント、一つ追加ですよ」
リューナ、マリナ、クオリアが同意してくれる……養いポイントってなんだよ、クオリア。
「おお、ありがとう! ありがとう!」
区長が鬱陶しい。
○18:00より特殊クエスト、吸血皇を滅ぼせを開始します。
「六時からか……あまり時間が無いな」
今すぐじゃないだけマシか。
「まだ二時間ある。今のうちに宿で身体を休めよう」
「軽く食事も済ませましょうか」
リューナとチトセさんの協力的な態度がありがたい。
完全に早めに休む気でいたから、とんだ誤算だ。
○夜明け、04:00までに城の主、吸血皇を倒せなかった場合、クエストは失敗となります。
「……今夜どころか、朝方まで休めないかもしれないな」
厄介なことになった。




