424.砂漠の四層都市と吸血皇の暗都
「……アッつ」
私達が転移したのは、いつもの祭壇の上……だけれど、そこに広がっていたのは見渡す限りの……砂漠? それとも荒野?
「全員揃ったね。じゃあ、下りながら説明しようか」
最後にボス戦に挑んだメルシュ達が転移して来て、早々に進むことを提案。
二十六人、無事全員が辿り着けたんだ……良かった。
「ここはピラミッド型の都市で、この祭壇があるのは一番上の第一階層」
祭壇の下には、確かに巨大な建造物の囲いの一部が見えるけれど……黄土色の金属で出来てる?
「第二階層に宿や鍛冶屋なんかの必須のお店が集中していて、三階層は人間が多く暮らしている区域。四階層はこのステージのダンジョン扱いになっているね」
「ここは陽射しがガンガン当たって暑いし、早く下の階層に行きたいわね」
ナオがそう呟く。
「なら、第一階層でのイベントをさっさとこなそうか。アヤナ、“お玉杓子の泥人形”は持ってるよね」
メルシュに訊かれた。
「うん、あるけど……」
マッドフロッグを一人で大量に倒すと手に入るっていう、このステージの隠れNPCを手に入れるためのアイテム。
「これでどんな隠れNPCが手に入るわけ?」
「契約できるのはヘケト。蛙の女神で、“生命魔法”によって、ゲームオーバーになった者を復活できる」
「――――もしかして、アオイを!?」
絶対にあり得ないと諦めていた希望が、地の底から急速に駆け上ってくる!!
「残念だけれど……アオイは、復活の条件を満たせていない」
「…………そう」
自分の罪を忘れたいがために……安易に希望に縋ってしまった。ハハ……バカみたい。
「……メルシュ、その復活の条件というのは?」
ルイーサが尋ねる。
「目の前で光に換わっていく最中にリバースを使用するか、死んだその日のうちにリザレクションを使用する。ただし後者の場合、対象になるのは同じレギオンかパーティーメンバーのみ。しかも、プレーヤーに殺されていない場合に限るよ」
「事故やステージの罠、モンスターに殺された場合って所か」
「テイマーの契約モンスターや指輪モンスターに殺された場合もアウト。死んでプレーヤーに経験値やアイテムを吸われる場合、リザレクションの対象外だと思って」
……そんな上手い話、あるわけないか。
よりによって、もう一つ先のステージに進めばアオイを助けられたかもしれないなんて……。
モモカが熱を出さなければ……ジュリーがヘケトについて教えてくれていれば…………また私は、自分の罪を他人になすりつけようと……最低な女。
「アヤナ……」
「アヤナっち……」
ルイーサとサンヤの同情的な視線……そんなの、私には必要ない!
「それで、そのヘケトってのと契約すれば良いわけ?」
「それは、アヤナに任せるよ」
「は?」
メルシュの意外な言葉に、思わず嫌な声を発してしまう……て、私って、今まで「は?」って言うの、こんなに嫌だって思ってたっけ……。
「今は“シュメルの指輪”もあるし、ぶっちゃけどっちでも良いんだよね」
どっちでも良いって……今、一番言われたくなかった言葉かも。
「さっそく着いたよ、アヤナ」
祭壇下の前に、白い縁の四角い噴水の中央、水を噴き上げているオブジェの前に蛙女みたいな石膏? の像が腕を広げて突っ立っていた。
「……フン」
巨大な噴水の中へと踏み入り、蛙の女神像の前まで行く。
すると、手に持っていた“お玉杓子の泥人形”が、勝手に像の中へと吸い込まれてしまった。
○以下から一つを選択出来ます。
★ヘケトをパーティーに加える。
★蛙の女神のサブ職業を手に入れる。
★御玉杓子と生命魔法のスキルカードを手に入れる。
一瞬だけ迷ったのち、私は“蛙の女神”のサブ職業を選択した。
「メルシュ!」
すぐさまメダルに実体化し、彼女に投げ渡した。
「この中で一番死ぬわけにはいかない、アンタが持ってなさいよ」
「……フーン、それがアヤナの選択なんだ」
どこか楽しそうなメルシュの顔が勘に触って……ちょっとだけ嬉しいと思っている自分も居る。
自分で、自分の感情の意味が分からない。
●●●
「まだ昼過ぎなのに、この暗さか」
第三十四ステージ、吸血皇の暗都へとやって来た俺達の前に広がっていたのは、中世を思わせるような街並みと鬱屈とした重苦しい雰囲気。
空は暗雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうだ。
「ユウダイ、来たよ」
マリナが、リューナ達がボス戦を終えて転移してきたのを教えてくれる。
「これはまた、寂しげな所だな。どことなく、あれはドイツの古城に似ている気がするが」
リューナがそう指摘したのは、街の端にある黒い屋根の煉瓦城。
森の中から生えた崖の上に建っている、大きな城。
ノスバークとかいういけ好かない王国の王城に少し建物の雰囲気が似ているけれど、向こうの物よりもコンパクトでありながら不気味。
というかこの街……ボス戦前の岩場が、外壁みたいになっているんだな。
城とは反対方向の岩場には、ボス扉のような物が微かに見える。
「エリューナさんは、ドイツに行ったことがあるんですか?」
チトセさんが尋ねた。
「ああ、一度だけだけれどな」
「良いですね。私は海外旅行に行った事なんて無いんですよ……父親は浮気でよく行ってたけれど」
チトセさんの空気感が、この空に負けないくらい淀む!
「私も無いな。あんまり行きたいって感覚も無かったけれど」
マリナは無いらしい。
「そう言えば、俺もだな」
海外は凄く治安が悪いイメージがあるし。
「日本は島国だし、ハッキリ言って食も娯楽も日本ほど多様な国なんて無いぞ。ゲームやアニメや漫画と言ったら日本だし、色んな国の食文化を取り入れて独自の発展をさせまくるし。外から見た日本は、まさしく異世界だからな」
「そんなに言うほど?」
リューナの言葉を、イマイチ受け入れられない様子のマリナ。
「でもさ、海外って漠然と日本より進んでいるイメージがあるけれど?」
「でも、テレビとかでたまに、外国人から見た日本のここが凄いってやってますよね? ……あれ? 私も、海外の方が凄いってイメージがある……なんでだろう?」
実際、俺も似た感覚がある。
「私が言うのもなんだが、テレビでも学校でも、まるで日本人は欧米圏の人間よりも……白人よりも劣っているかのような情報をかなり発しているからな」
「そんなに?」
「私が日本に来たのは子供の頃だが、基本的にどの国も、自分の国や自分の考えに誇りを持つように教育されるらしいからな。まあ、わざわざ日本人を見下すように教育する国もあれば、その逆もあるようだが」
反日教育か。その賜物なのか、それらが行われている国の在日人が起こす犯罪率は異様に高いらしい。
外国人が起こした犯罪ってたまにテレビで見掛けていたけれど、氷山の一角に過ぎないんだろうな。
そういえば、日本の刑務所に入っている日本人て、全体の3%だけって何かで見たような……。
「おい、そろそろ移動しよう。昼でもこの暗さなんだ。早めに宿を取った方が良い」
エルザに促される。
「そうだな」
あんな話をしたからなのか、この場所の空気感のせいなのか、いつもよりも皆の足取りが重い気がした。




