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42.偉大な戦士VS雷の女神

 ジュリーが距離を取る。


「トゥスカと奴隷契約を解除して。でなければ、彼女を道連れにすることになる」


「随分優しいな、ジュリー。そっちこそ、タマと奴隷契約を解除した方が良いんじゃないのか?」


「こっちはとっくに解除済みだよ」


 ジュリーは敵だ。

 もう、かつての命の恩人ではない。


「ご主人様、契約解除の必要はありません。私の一生を、貴方に捧げます」

「……ありがとう、トゥスカ」


 俺とトゥスカの関係は、人によっては異常かもしれない。


「本当に良いんだね?」

「そっちこそ」


 だけど、三対二か。こっちが不利だな。


「ジュリー! いい加減にしなよ!」

「ジュリー様、最近のジュリー様はおかしいです!」


 ユリカとタマが、ジュリーを止めようと叫ぶ。



「――うるさい!!」



 ジュリーの叫びに、空気が重さを増す。


 その様子に、言葉では止められないと俺は確信した。


「……コセ、私と一対一で勝負しろ」

「……トゥスカ、手を出さないでくれ」

「分かりました」


 トゥスカが俺達から離れていく。


「俺は、殺されてもジュリーを恨まない。だから、ジュリーも」

「分かってる。私も、殺されても君を恨まない」


 どうして……こうなってしまったのだろう。


「ジュリーの事、嫌いじゃなかったよ」

「……私もだ」


 ジュリーが先に動く!


「“万雷魔法”――サンダラスレイン!」

「”魔炎”!」


 前方から迫る雷の雨を、紫炎の大蛇に食わせる!


「インフェルノバレット!」

「”一蹴”!」


 紫炎の散弾を放つも、ジュリーが右手の銀の甲手から何かを放ち、消失させてしまった。


 なら、近接戦に持ち込む!


「ハイパワーブレイク!」

「”魔力障壁”!」


 接近してから範囲攻撃の”大剣術”を使用するも、黒っぽい半透明の壁によって防がれる!


「パワーナックル!」


 左拳を剣の腹で受け止めたけれど、数メートル後退させられた!


 見た目は魔法使い職でも、近接戦闘もこなすジュリー。


 彼女のバランスの取れたバトルスタイル……想像以上に厄介だな。


「”魔力弾”」

「へ?」

 

 ジュリーが攻撃したのは、俺が出現させた”魔炎”。


 ――対魔法スキルを封じに来ている!


「サンダラスレイン!」

「くっ! ”魔炎”!」


 これで二度目の使用。”魔炎”を使えるのは、後一回だけ!


「”魔力弾”!」


 また、魔炎が消された。


「”雷光”!」


 ジュリーの左腕の黄金の甲手から、光と雷が迸る!!


「大地の盾!!」


 六角形の盾を出現させ、ジュリーの攻撃を受け止めた!


「「”瞬足”!」」


 同時に発動したため、互いの位置が入れ替わり――互いの剣を打ち付け合う!!


「やっぱり……君は面倒だね」

「こっちのセリフだ」


 武器やスキル、俺よりもそれらを生かした戦術を仕掛けてくるジュリー。


「“瞬足”――サンダラスレイン!」


 距離をとった途端にか!


「”魔炎”!」

「パワーナックル!!」

「グフッ!!」


 雷の雨の中を通って、急接近してきて――腹に一発決められた!


「はああああああッ!!」

「くッ!」


 ジュリーによる顔面への蹴りを、なんとか躱す!


「”回転”――パワーキック!」


 軸足が不自然に回転? 体勢を崩していた俺の首に、”格闘術”が炸裂する!!


「があっ!」

「サンダラススプラ――!」

「”拒絶――領域”!」


 間一髪で、ジュリーが魔法を発動させる前に吹き飛ばせた。


「……ヒール」


 首の痛みと硬直が僅かに引いてくれる。


「突発クエストで、”拒絶領域”を選択していたか……」


 立ち上がるジュリー。


「私が脚に脚甲を装備していれば、今ので決着が着いていた」

「だから負けを認めろと? たらればの話なんて知るかよ」


 やっぱり、ジュリーはこのゲームのルールに異様に詳しい。


「最後のチャンスだったのにね――サンダラススプランター!!」

「スキルアウト!」


 ”盾術”により、大地の盾で受けた雷を消し去る。


 サンダラスレインのような、分散系じゃなくて助かった。


 とはいえ、魔法名を言わない場合は魔法陣が出ないから、咄嗟の対処が厳しい。


「私としたことが!! ”一蹴”!」


 ”瞬足”で接近してきたジュリーの銀の甲手から衝撃が走り、一瞬身体が浮く!?


「パワーナックル!」

「ガハッ!!」


 腹部に拳を捻じ込まれた!


「――おおおおおおッ!!」


 ジュリーの頭を掴み、無理矢理腹に膝蹴りを食らわせる!


 痛みに耐えられず、ジュリーから離れてヒールを使用。


「ぐ、休ませない! ハイヒール!」


 俺よりも上位の回復手段を持つジュリーが、再度仕掛けてきた!


 ――今度は”瞬足”でのフェイントか!


「な!?」


 蹴りを放ってきたジュリーの脚を、“近接探知”で正確に捉えて躱す。


 ようやく、ジュリーの動きに慣れてきた。


 というよりは、何発か殴られて俺の箍が外れてきたって感じか。


「しま――」


 左手で掴んだジュリーの右脚を片手で持ち上げ――床に頭から叩き付ける!


「あああああああッ!!」


 無理矢理首を曲げ、頭を打つのは避けたか!


「アイスフレイム!」

「おっと」


 避けるために、脚を離してしまう。


「殺すッ!」


 ジュリーに剥き出しの殺意をぶつけられる!


「黙れ! ハイパワーブレイク!!」

「サンダラススプランター!!」


 間近で、強力なスキル同士がぶつかり合う!


 身体が……受け身を取れずに転がっていく。


「ぐ……うぅ……ヒール」


 まずい……本当に死ぬかもしれない。


「ハイ……ヒール」


 ジュリーが、ヨロヨロと立ち上がった。


 彼女の執念は、いったいどこから来る?


「ワイズマンの……歯車を……ハアハア……寄こせ!!」


 ――弟や妹に限らず、俺は欲しいと言われれば大抵は渡していた。


 誰かと争ってまで執着する物じゃないと思えれば、自然と渡せた。


 でも暫くすると、俺が渡した物はまるでゴミであったかのように扱われていた。


 そんな程度の想いで――他人の物を欲しがるんじゃねぇよ。


 ジュリーが、そういう輩と同じだとは思わない。


 でも、あの歯車は――メシュから貰った物なんだ!



 誰かと争ってでも、渡したくない!!



「ヒール……」


 回復に気を取られた瞬間、ジュリーが仕掛けてきた!


「”魔力弾”!」

「”拒絶領域”!」


 黒紫の弾を弾いた時、ピンクの光が飛び込んでくる!


 トゥスカと同じ――“魔力砲”か!


 大地の盾を翳し、ショッキングピンクの閃光を盾で受ける!


「くたばれーーーッ!!」



 ――――――ボス部屋の扉に、叩き付けられた。

 


 大地の盾が消える。


 このままじゃ……負け…………。


「……しゅ人様」


 誰かの……声? 音が……曇って……。


「……しゅ人様!」


 トゥスカの……声?


「ご主人様!!」


 ――――音がクリアになり、痛みと感情が戻ってくる!!


「ああああああッ!!」


 無我夢中で、訳も分からず――“強者のグレートソード”を突き出した!


「ガフッ!!?」

「……え?」


 突き出した剣の先に居たのは……剣を振りかぶっているジュリー。


「……ジュリー」

「く……ハハハハハハハハハハッ!! ゲボッ!! ゲボッ!! ――”因果応報”!!!」


 血を吐きながら、ジュリーがなにかのスキルを行使した!?


「ゲボッ!!?」


 ――突然、血が喉元に込み上げてきた!


「なに……が?」

「”因果……応報”……君が私に与えた傷を、そっくりそのまま返すスキルだ」


 手に力が入らなくなり、グレートソードを手放してしまう。


 身体から”強者のグレートソード”を引き抜き、ヨロヨロしながらも倒れないジュリー。


 腹から……血が……。


「ヒー……ル」


 痛みが……血が止まらない。


「ハアハア、私の……勝ちだよ」


 ジュリーの身体から光が飛び散ると、痛みが無くなったように佇んだ!?


「”完斬の……お守り”か……」

「知っていたんだ。さあ、私に歯車を!」

「ヒール」


「それ以上ヒールを使ったら、トドメを刺すよ」

「やれるものなら……やってみろよ。ゲボッ!!」


 喉まで血がせり上がって、吐き出す。


「出来ないとでも思って!! ブッ!!?」


 “壁歩き”で足裏を吸い付かせ、本来ではあり得ない体勢から瞬時に立ち上がり――”瞬足”で接近してジュリーの顔を殴った。


「がっあぁぁぁッ!!」

「ヒール……ヒール」


 なんとか、血は止まったか。


「……来いよ、ジュリー」

「コセーーぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」


 ”魔力砲”はまだ使えないはず。


「今度こそ、死ねーー!!」


 また”瞬足”による急接近。


 カウンターによる裏拳を放つも、”回転”を使用し直前で躱される。


「パワーキック!!」

 

 “超頑強”のスキルを最大限に発揮させるため、身体を硬直させる!


「ぐっ!」

「あっ!?」


 脚が弾かれ、怯んだジュリーのお腹を右アッパーで殴る!


「ガハッ!!」 


 転がっていくジュリー。


「さ、サンダラススプランター!!」


 “武器隠しのマント”から“雷切りの大剣”を掴み取り――黄白の轟雷を切り裂く!!


「そんな!?」


 動きが止まったジュリーの剣を弾き飛ばし――首を左手で締め上げる!


「少しでも動けば、“殺人術”スキルを使う」

「ヒッ!!」


 怯え出すジュリー。

 やっぱり、”殺人術”についても知ってたか。


 今俺が絞殺を使用すれば、ジュリーを数秒で殺せるはずだ。


「俺の勝ちだ」

「く……は、はったりに決まっている! 君に人は!」


「――槍男を殺したのは俺だぞ」

「あ……ぁあ……」


 ジュリーが大人しくなる。


「私に……は……必要な……物なの……だから…………」

 

 ガクガクと顎を震わせ、涙を流し始めるジュリー。


 彼女の身体から、完全に力が抜けた。


「それでも……渡せない」


 手を離し、ジュリーに背を向ける。


「行くぞ、トゥスカ」

「良いんですか?」


 トゥスカが駆け寄り、ヒールを掛けてくれながら耳打ちしてきた。


「……良いさ」


 ジュリーが命を掛けていたのは事実だ。

 その姿に、少なからず敬意すら抱いてしまっている。


 結局、俺はジュリーを嫌いにはなれないらしい。


 フラフラと”強者のグレートソード”を拾い、ボス部屋の扉に触れ、開ける。



「…………許さない。コセ、お前だけは!! ……ぅぅぁぁ……――あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「……ッ」


 泣き叫ぶジュリーから逃げるように、俺はトゥスカと共にボス部屋の中へと入った。


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