391.日高見の前哨戦
「“死霊術”――ゾンビクリエイト」
六体のゾンビを生み出し、突撃させる。
「“光輝斧術”――シャイニングスラッシュ!!」
私のゾンビ全てが、一撃で倒されてしまう。
「君ってさ、隠れNPCだよね? オリジナルに“死霊術”なんて無かったはずだし」
「オリジナルプレーヤーですか」
これは、ごまかしきれそうにない。
「うーん、もうちょっと可愛いのが良かったけれど、あんまり文句を言ってはいられないか」
「失礼な方ですね」
光属性の近接戦攻撃特化……近付かれたら、私の方が圧倒的に不利。
「“死霊術”――デーモンクリエイト!!」
不定形の、上半身だけの悪鬼を一体生み出す。
「“鎮魂歌”――ァァァァァァァァァ!!」
光の円が彼の足元から広がり、せっかくのデーモンがあっという間に滅ぼされてしまう!
「相性最悪ですか」
「そうだね。でも、他のメンバーが隠れNPCを手に入れたら、その子と交換しちゃえばいいや」
「レギオンリーダー特権でですか、《不倫はブランド》のジュンイチ」
「へー、よく分かったね。無数にあるレギオンの中から、わざわざ憶えてくれたんだ。もしかして、僕がイケメンだからかい?」
「隠れNPCだから全て頭に入っているだけです。顔だけ男」
「……は?」
自分をイケメンとわざわざ口にするのは、そこにもっとも執着しているか、そこにしか自分の価値を見出していない証拠。
「そもそも、顔だけで靡く女なんてたかがしれているでしょう」
植え付けられた価値観に左右されるだけの、人形に過ぎないのですから。
「幾ら相手シても、一度として満たされた事など無いのでしょう?」
「……知った風な事を言いやがって、NPC風情が! だったら、お前が僕を満足させてみろよ!」
「これだから――発情魔のガキは」
「ヒッ!?」
ちょっと本物の殺気を当てただけでビビる腰抜けが。
――誰かが、猛スピード近付いて来る!
「馬獣人のケルフェと申します」
「ネクロマンサーのメフィーです。《龍意のケンシ》の方」
二つの盾と脚甲を装備し、黒髪を下側で結わえた真面目そうな獣人……カオリ達から聞いていた特徴と一致する。
「手こずっていたようですが、私が相手をしても?」
「お願いします。彼とは相性が悪く」
「承りました」
「邪魔――しないで欲しいんだけれどなーッ!!」
「マーリとキューリを扱き使っていた男にそっくりですね、貴男は」
両腕の盾を構えたケルフェが、ジュンイチ目掛けて前に出る。
●●●
「ああ……た、助けて……」
「そっちから襲ってきたのにー?」
右眼を抉った途端戦意を失った男の人魚に、近付いていく。
「ゴメンねー。今までは普通の良い子で居ようと思ってたんだけれど、この前昔のこと思い出しちゃってさ~」
なにかの拍子にさ――ドス黒い感情に歯止めが利かなくなるんだよね。
「お、俺には大切な――」
”鋼鳥の狂群”を振り下ろして、人魚を絶命させる。
「あっそ」
因果応報って言葉を知らなかったのかな?
「頭への一撃で絶命させるなんて、優しいですね」
「……誰?」
後ろから、女の人に声を掛けられた。
「《日高見のケンシ》所属のパドマ」
刀剣が得物の、オレンジの衣を着た……黒人?
「ああ、インド人の人か。私はコトリだよ。知ってるかもしれないけど」
そういう人が居るって、聞いてたっけ。
「貴女には似た物を感じます」
「壊れちゃってるみたいな?」
感情が振り切れすぎて、壊れてしまったかのような感じ。
「……そうね」
私、この人とは仲良く出来そう。
●●●
「その格好、趣味に走りすぎじゃない?」
どでかい注射器を手に戦う、白衣の天使と相対していた。
「私は~、ナースの隠れNPCなのですよ~」
ああいう間延びした声、苦手。
ちょっと垂れ目の、愛嬌のある見た目だけれど……スカートみじか!
「二刀流とは器用ですね~。お名前を聞いても~?」
「カオリよ」
彼女とは相性が悪そう。
「私、隠れNPCとは未契約なの。貴女を殺したら勝手に契約することになってしまうから、見逃してくれない?」
「う~ん、貴女相手に後ろを見せるのは~、ちょっと心配で~」
本音なんだけれど。
「――全力で排除させて頂きます~!」
注射器を手に突撃してきた!!
「仕方ない――“二刀流剣術”――クロススラッシュ!!」
交差させた二刀、“叢雲大蛇の太刀”と“二点天一流の打刀”で注射器を去なし――ナースの身体を、胸元を中心に四つに切り裂いた。
「お、お見事~……」
光になって消えてしまうナース。
「隠れNPCにしては、呆気なさ過ぎる」
ナースの隠れNPCっていうくらいだし、戦闘向きではなかったんでしょうけれど。
「……ていうか」
これで私、さっきのナースの隠れNPCと契約した事に…………嘘でしょ。
●●●
黒衣の男に大型のモーニングスター、“栄華の裏の真実”を叩き付ける!
「クソ!」
石みたいな剣で防がれた!
「君はスヴェトラーナだよね? 僕はアテルって言うんだ。《龍意のケンシ》とは同盟を結んでるんだけれど?」
「私はアイツらと協力しているだけで、お前達なんて知らない!」
偶然遭遇したこの男に、リューナとコセって男へのムシャクシャを全部ぶつけてやる!
「“爆裂棒術”――バーストブレイク!!」
最大の六文字刻んだ“栄華の裏の真実”で、グチャグチャになれ!!
「困ったな――“神代の盾”」
文字を十二文字刻んだ剣からでた青白い盾に、完全に防がれてしまう!
「リューナと同等の文字を……」
むしろ、あれ以来十二文字刻めていないリューナよりも上……。
「ツェツァ!」
エルフのルフィルが、援護に来てくれる!
「二人で、このいけ好かない男を倒すわよ!」
「遠慮します。神代文字を十二文字も刻める方を、殺める気にはなれませんので」
「アンタね……」
コイツらエルフの神代文字至上主義って、もうちょっとどうにかならないのかしら?
「むしろ、神代文字に差がある相手と戦うのは無謀です」
「そんなの、やってみないと分かんないでしょうが!」
「分かります。何故なら、文字が多い方に運命が味方するからです」
「運命……」
そんなのって――
「だったらどうして――神様はあの時、私の国を守ってくれなかったのよ!! 爬虫類共なんかに……好き勝手」
急激な感情のうねりと共に涙が込み上げ……膝を付いてしまう。
「爬虫類……レプティリアンの事か」
「へ?」
この日本人は、レプティリアンを知っている?
「だったら、君の敵は僕じゃない。このゲームを仕組んだ奴等その物だ」
「それってどういう……」
「僕達をこの世界に送り込んだ奴等は、レプティリアン共に支配された地球人だからさ」
手を伸ばしてくる……アテル。
「本当に……そんなことが?」
「僕は、奴等を根こそぎ滅ぼす。全ての穢い物を。僕自身も含めて、全てを浄化するためにゲームクリアを目指しているんだ」
――その強い自然体の眼差しと言葉に、胸が高鳴ってしまう!!
「僕に手を貸してくれる気は――」
『三十分が経過した! これより、強力なモンスターを十体送り込むぞー!』
良いところで!
「二人とも、アレを!」
――金属のロボットが上空を飛行し、一体がこっちへ向かってきた!?




