388.魔神・恐竜骨
「第三十二ステージのボスは、魔神・恐竜骨。弱点属性は光で、有効武器は鎚。危険攻撃とステージギミックは特になし。ただ、“恐骨鎧”という能力で防御能力を急上昇させるようだ。長期戦になるかもしれない」
コセさん抜きでの初のボス戦……攻める人数は以前と同じなのに、なんだか妙に不安感が込み上げてくる。
「そう言えば、“鎮魂歌のスキルカード”を手に入れていたはずだな。あれは、アンデッドに有効なスキルだ。誰か使えるだけでも有利になる」
「ここの魔神って、アンデッドなの?」
「あくまで、ここの魔神だけだがな。“鎮魂歌”がどういうスキルか教えてくれ、エルザ」
エリューナさんが尋ねた。
「自分の周囲に光の円を作り出し、発声をすることで威力、効果範囲内である円を広げることが出来る」
「つまり、上手く発声が出来ないといけないのか。やって見せてくれ」
「へ? ……仕方ない――ぁぁぁぁぁあああ!!」
「綺麗な声ですね」
「もう、エルザが使えば良いんじゃない?」
「無理だ。私はバンパイアと人間のハーフという設定だから、半分アンデッドなのだ」
設定って言っちゃったよ。
「よって、浄化の効果がある武具やスキルは使用できない」
「なら、発声が一番良い者が使おう」
「私は苦手なんですけれど……」
「私も、歌には苦手意識がある」
「……へ?」
なんで二人とも、私を見ているの?
「「よろしく」」
「ちょっと、そんなの狡いですよ! クオリアさんだって居るでしょう!」
「円の範囲は発声次第だし、前に出るのが危険なクオリアとは相性が悪い」
「わ、私だって発声は苦手ですよ!」
「仕方ない、一斉にやるか。エルザ、判断を頼む」
「解った。せーの!」
――その後、エルザの判断により、“鎮魂歌のスキルカード”を使用するという話は取りやめになった。
★
「「「死ね!!」」」
私達の腹いせのために!!
発光する赤い石が骨で覆われた人型の肉食恐竜の化石に、各々の攻撃を仕掛けていく!
「“太陽法術”――ソーラーフレア!!」
「“硝子魔法”――グラスレイ!!」
「“蒸発魔法”――イヴァポレイションボム!!」
エリューナさんは上から、マリナさんは右、私は左から魔法を直撃させる。
「もう使って来たぞ!」
エルザの言葉の直後、魔神・恐竜骨の身体を――赤く発光する骨の鎧、“恐骨鎧”が覆っていく。
「“血液噴射”」
エルザが、指輪から血を飲んで自身を強化……あの指輪の血、私のなんですよね。
回復魔法があるとは言え、注射みたいなので抜かれるのは痛いし、指輪に溜められるのは一回分だけのため、一度使用するとまた補充させられる……。
「“狂血投槍術”――ブラッドジャベリン!!」
前へと進み出る魔神の胸に直撃するも、ほんの少し後退させただけ。
「“神代の剣影”!!」
「“神代の霊剣”!!」
エリューナさんとマリナちゃんが、あの力を使って攻撃を始めた!
『カルルルル!!』
俊敏な動きで腕や尻尾、骨の棍棒を振るい、こちらの攻撃を封じてくる魔神!
しかも、徐々に私達が後退させられているため、魔神が入り口近くのコセさん達のところに近付く事に!
『カルルルルルル!!』
「まずい、“遺骨魔法”だ!」
エルザさんの警告の直後、魔法陣が展開され――無数の骨が回転しながら撃ち出された!!
「「ハァァァッ!!」」
二人の神代の剣鞭と斬撃が、無数の骨を迎撃し続ける!
「お下がりを――“二重魔法”、“瘴気魔法”――ミアズマエクスパンシブ!!」
クオリアさんにより放たれた黒の瘴気が一瞬で膨れ上がって、無数の骨全てを防いでくれた!
『キュララララ!!』
二つの靄の裂け目を引き裂くように現れた魔神が狙うは、クオリアさ――後ろにはコセさんが!!
「――――オールセット1」
――考えるよりも先に、身体と口は動いていた。
「ニタイカムイ!!」
“半ベルセルク”のサブ職業を装備して狼耳を生やした私は、カムイ系の能力を行使可能。
この手の中の武器――“妖魔悪鬼への憤慨”という名のバックパック付きガトリングを全力で放ち続けるには、膂力が必要なんだよ!!
「――――くたばれぇぇぇッッ!!!」
神代文字を限界の六文字まで刻み、“魔力弾丸”の雨を魔神に浴びせる!!
「――オララララララララララララぁぁぁッッ!!!」
右脚の膝に火力を集中させ――破壊した!!
「今だ、テメーら!!」
「ふ、“吹雪剣術”――ブリザードブレイク!!」
「こ、“光線魔法”――アトミックレイ!!」
「きょ、“狂血魔法”――ブラッドイルミネーション!!」
「オララララララララララララララララララ!!」
足を止めた骨ドブネズミ野郎をボコボコにぶっ潰し、綺麗な光に変えてやったぜぇぇ!!
「「「…………」」」
「ん、なんだよ?」
この私に、変な目を向けやがって。
「クスクス。チトセ様は、二重人格者でいらっしゃったのですね♪」
「……あ……お、オールセット2」
急いでガトリングを消し、人格を元に戻す。
「……あ、アハハハハハ! け、結構厄介なボスでしたね~」
「「「いや、説明して」」」
「……ハイ」
○おめでとうございます。魔神・恐竜骨の討伐に成功しました。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★恐竜骨の骨棍棒 ★恐骨鎧のスキルカード
★サブ職業:遺骨魔法使い ★恐竜骨の兜
「コセが選ばない限り転移は始まらない。アイツは寝てるし、今のうちに白状した方が良いんじゃないか?」
エリューナさんが逃がしてくれない。
「へと……私、さっきのガトリングを持っちゃうと豹変しちゃって……内なる自分を抑えられないっていうか……」
「もしかして、あの言動を知られるのが嫌でずっと隠してたんですか?」
「……そ、そうなんですよ~」
マリナさんに尋ねられるけれど……本当の理由は違う。
まあ、口調の事を知られたくはなかったのは……その通りなんですけれど。
「な、なので、基本的にあの武器は使用しませんので。MP消費が激しい上に、重くて移動速度も落ちますし!」
出来れば、薬液銃以外の銃すら使いたくない。
「まあ、そういう事にしておいてやろう」
「どうやら、難儀なマスターと契約してしまったようだな」
エリューナさんはなんか勘付いてるっぽいし、エルザはなんか呆れてる……ハァー……まあ、遅かれ早かれだったか。
○これより、第三十三ステージの発掘村に転移します。
もう三十三ステージ……このレギオン、やっぱり凄すぎですよ。




