373.頼りになる人
「“タシロカムイ”!!」
昨日の賞金稼ぎの女から手に入れたサブ職業、“半ベルセルク”を付けることで狐耳を生やした私は、本来は獣人専用のサブ職業であるカムイ系の力を行使できる!
「“硝子剣術”――グラススラッシュ!!」
遺跡内部に出現したゴージャスゴーレムを、“日蝕狼の山刀”で切り裂いて光に変えた。
「昨日手に入れたサブ職業二つにその剣、見事に使いこなせているようだな」
リューナが褒めてくれる。
「ありがとう、リューナ」
「魔神・日蝕狼から手に入るはずだった”タシロカムイ”が、身体能力と武器による攻撃能力を強化してくれる物だったとは。しかも、“半ベルセルク”のサブ職業と組み合わせることで、異世界人でも使えるとは思わなかったな」
ユウダイの言うとおり、私もチトセさんに教えて貰うまで知らなかった。
つまり、昨日の女は獣人ではなかったということ。
「ちょうど“半ベルセルク”が手に入るステージをすっ飛ばしていたなら、致し方ないですよ」
昨日の襲撃者は、たぶん獣人ではなく異世界人。
どうやって集めたのか、あの人は日蝕狼の討伐報酬を二つも持っていたから、私から頼んで使わせて貰うことに。
”日蝕狼の山刀”の形状は私の硝子と石の剣、“キヤイウメアイ”に近いため、ほとんど同じ感覚で振れる。
強いて言うなら、コッチの方が幅が広くて少し重い。
「暗いな」
「崩れた部分から日は差し込んでいるが、極端に暗くて見えない部分がある。私が先頭になろう」
“警鐘”持ちのリューナを先頭に、私達は先へと進む。
「後ろから! “古生代ギア”です!」
一番後ろにいたチトセさんがいち早く気付き、薬液銃で二体をあっという間に倒してくれる。
「そう言えば古生代モンスターって、古生代ギア以外は一体ずつしか出て来ないね。時間差で挟み撃ちはしてくるけれど」
「一体一体が極端に頑丈だから、そういう風に調整されているんだろう」
ユウダイが答えてくれた。
てことは、同じ方向から複数現れたら、今の私達でも危ないのか。
「なにか来る」
リューナがそう言うと、目の前から金属の足音が!
『シュコー』
「たぶん、”ヒューマノイドギア”だ」
全身銀の人型ロボットで、その左腕は大砲のような銃になっている。
『侵入者を発見。排除を開始――』
なにか喋り出したと思ったら、チトセさんのスナイプモードによる腐食液が直撃して……錆びるように溶けていった。
「スナイプモードはあまり威力が高くないはずなんですけれど、一発で倒せてしまいましたね」
「「「凄い」」」
”調合師”メインだと器用貧乏になっちゃいそうとか思ってたけれど……使う薬液と相手次第でここまで無双出来ちゃうんだ。
「どうしたんですか、皆さん? 早く進みましょうよ」
「「「はい」」」
チトセさんはこの中で一番小柄なのに、一番頼りになるかもしれない。
○“古生代の欠片”を手に入れました。
○“プラズマ装置”を手に入れました。
●●●
「く!!」
《龍意のケンシ》に戦闘訓練の相手をお願いしたところ、何人かは快く引き受けてくれた。
くれたわけですが……。
「文字無しでは、私の方が有利のようですね! ルフィルさん!」
私の相手をしてくれているのは、テイマーの隠れNPCであるサキ。
激しい二本の鞭による応酬に、槍が得物の私はまともに近付くことが出来ない!
「鞭の二刀流なんて、人間技じゃない!」
あんなに綺麗な軌道と鋭さを、両手で交互に振りながら維持するなんて……これが隠れNPCの強みの一つですか。
各々が固有の能力を複数持ち、高ランクの専用装備が充実していて、不眠不休でも能力が落ちず、人間離れした戦闘技術まで持つ……私が想定していたよりも遥かに厄介!
ドライアドのヨシノ……初めて接触した時、まともにやり合わなくて良かった。
「ほーい、五分経ったよー」
アオイが知らせてきたため、私達は攻撃の手を止めた。
「フー……実質、私の負けですか」
「スキルや武具効果、神代文字も無しというルールでは、仕方ありませんよ」
今まさに絶技を見せ付け、私の心を折った相手に慰められる。
「同等の条件なのですから、下手な慰めは不要です」
「私達隠れNPCには神代文字を使用する事は出来ませんから、一方的にそちらの強みを一つ潰す形になっているんですよ。なので、なんでもありの実戦なら、私の方が完全に不利だったでしょう」
「それこそ、貴女ならモンスターを呼び出し、数の有利を生かしたと思いますが?」
その能力故に、隠れNPC内でも基本能力が低く設定されているというテイマーに負けたのは、中々の屈辱。
「逆効果だよ、サキ」
「みたいですね……モモカちゃんにも裏目に出ているみたいだし、私ってどうしてこうなんでしょう?」
そういう悩みを吐露する姿を見ていると、本物の人間のように思えてくる。
「それよりもアオイ、次は貴女が相手をしてください」
「オッケー! あ、その前に向こうの試合が見たいかな」
アオイの視線の先に居るのは、ヒビキとユイの二人だった。
●●●
「そいじゃ、試合――始め!」
隠れNPC、アマゾネスのシレイアの合図により、五分間の真剣勝負が始まる!
「ハッ!!」
私の得物である“馬上で振るうは十字の煌めき”を振り、太刀使いのユイに仕掛けた!
「……容赦ないね」
「貴女程の腕なら、この程度なんの問題も無いでしょう!」
十文字槍を突き出した次の瞬間には、左右の刃を鎌のように振るって首を刈りに行くも、太刀一本で軽く上に去なされる!
「さすがですね」
彼女の腕前は、明らかに私よりも上。
ならば勝機は、リーチの差を私がどれだけ生かせるか!
「最近……スキルに頼りすぎてたかな」
難なく去なされるも、向こうは防戦一方のまま。
このままでは、勝敗が付かずに時間切れになってしまう。
「あんまり好きじゃないけれど――仕方ないか」
剣を槍に押し付けるようにしながら接近して来るユイ――の左手は、腰の脇差しへ!
――脇差しが逆手居合いの要領で胴に迫るなか、私は十文字槍を手放して前へと出て――鞘から抜かれる前に脇差しの柄頭を押さえる!
「――ハッ!!」
胴の部分に掌底を叩き込むも横に跳ばれ、肩に太刀の切っ先が突き刺さり……私は自身の敗北を悟った。
「そこまで!」
「ハイヒール」
試合終了と共に、肩の傷を癒す。
「……もしかして、古武術の心得が?」
ユイに尋ねられる。
「師から、槍を中心に色々手解きを」
師はまさしく達人であり、一度十三歳の私に言い寄ってきた点を除けば、尊敬に値する人物です。
まあ、さすがに冗談だったでしょうが。
「もしや貴女も、鬼喰ら源点流の門下生ですか?」
「…………そこの現当主の……次女だよ」
「で、では、風間 重慶先生のご息女であらせられますか!?」
「……先生? 貴女の顔に、見覚え無いけれど」
「当家に招いた折、何度かご指南頂いただけですので当然かと! 一度そちらに伺い、お目に掛かった事もございますが! ……まさか異世界で先生のご息女と共に戦えるとは、恐悦至極に存じます!」
「へと……もしかしてヒビキさん……極道の元締めかなにか?」
「似たような物です!」
組を率いていたわけではありませんが、父はその手の奴等を百人ほど面倒見てましたし!
「父親が定期的に、その手の人達や警察に指導しに出張してたのは知ってたけど……」
「何卒、これからも宜しく願います、先生!」
「……へ、私の事……先生って言った?」
これもなにかの縁! ユイ先生の元で、更なる研鑽を積ませて頂きます!




