37.異常性を引き出す者
メシュが目を覚ますと、俺達は探索を再開した。
また罠が仕掛けられてるけれど、モンスターは一切出てこない。
狭い道を抜けると、広くも天井の低い空間に出た。高さ二メートル五十くらいか?
「誰か居る」
その真ん中に、玉座のような豪奢な椅子に腰掛ける男が一人。
格好からして、奴が盗賊の頭領か。
「……動かないな」
明らかに見えているはずなのに。
昼食の後、俺は”盗術”の罠解除を使用した事でTPを少し減らしているけれど、MPは全快。
トゥスカはMPもTPも満タン。
トゥスカに目配せし、二人とも”ソーマ”を一口分飲む。
「近づくぞ」
「はい」
「うん」
二人から返事が返ってきたので、巨軀の男に接近する。
「へ!?」
――途中で……身体が動かなくなった!?
「テメーらが侵入者か! よくも俺の部下共を殺してくれやがったな!」
盗賊の頭領が立ち上がると、天井スレスレの高さに頭がある状態に。
しかも、玉座が消える。
「大事な商品まで持ち出しやがって! こうなったら、俺も本気を出すぞ!」
頭領の周りに光が立ち昇り、一度だけ遭遇した巨軀の男達が四人出現する。
「貴族に売る予定の大事な商品だ! 絶対に逃がすな、バンディットバウンサー共!」
身体が動くようになると、盗賊達も動き出した!
「クッ!」
真っ先に盗賊の頭領が仕掛けてきたため、”グレートソード”で――横から振るわれた巨大なサーベルを受け止める。
こう天井が低いと、大剣を思う存分振るう事が出来ない!
他の盗賊達が、俺を無視してトゥスカ達の方へと近づいていく!
「ご主人様、こちらはお任せを!」
「頼んだ! メシュ、トゥスカから離れるなよ!」
「頑張って、コセ!」
トゥスカの言葉を信じて、俺は盗賊の頭領に集中することにした。
●●●
「しっかり掴まって」
メシュを、盾を装備している左腕で抱え、ご主人様を巻き込まない形で巨軀の盗賊が直線上に並ぶように左に移動する。
「――”魔力砲”!」
二体の巨軀の盗賊を、ピンクの閃光により跡形も無く消し去る。
残り二体。
ただ、一体は”魔力砲”に巻き込まれて右腕が吹き飛んでいた。
もう一体は無傷。
警戒したのか、左右に分かれて迫ってくる。
”魔力砲”は総MPの半分を持っていくため、連続で放てるのは二度まで。
でも、二発放てば”回復魔法”まで使えなくなるため、暫くは温存する。
”ソーマ”を飲んだから、少しは余裕があるけれど。
「ちょっと揺れるわよ」
万全状態の盗賊は無視し、隻腕の方へ駆ける!
姿勢を低くしながら膝を折り曲げ、右脚に力を込めて急な方向転換!
「――爆裂脚!!」
腕が無い方に回り込み、左回し蹴りを盗賊の顔面に叩き込んで爆ぜさせた!
あと一体!
「お姉ちゃん!」
着地して動きが止まった所に、最後の一体が接近してきてクラブを振りかぶる。
「”瞬足”」
――間一髪で回避に成功。
大振りをした右手に、同様のクラブを叩き付ける!
『ガァああああああ!!』
メシュを降ろし、顔面に盾を翳す。
「シールドバッシュ!」
盗賊の首が折れ、巨体が倒れた。
「お兄ちゃん!」
メシュの元へ戻ろうすると――メシュがご主人様に向かって駆け出してしまう!?
「待って、メシュ!!」
○○○
盗賊の頭領がサーベルを、何度も左右から振るってくる!
その度に”グレートソード”で受けるも、膂力の差で押されていく。
「どうした! 少しくらい反撃してみせろ!」
「”拒絶領域”」
「なに!?」
円柱状の衝撃により、サーベルが弾かれて隙を晒す頭領。
「インフェルノカノン!」
紫炎の砲弾をぶつけ、”瞬足”で距離を詰める!
「あぢー!」
「ハイパワースラッシュ!」
頭領の身体を、上下に両断した!
「バーカが!!」
「ガハッ!!?」
――奴の左腕が、技を放って隙だらけになっていた俺の背に打ち付けられた!
壁まで吹き飛ばされる。
外傷は無い……けれど、背骨がミシミシと軋む。
「なんで……」
身体を両断したはずなのに、まったく切れていない!
「せっかくの“完斬のお守り”が、無駄になっちまったじゃねぇか」
「お守……り?」
そんなアイテムが?
「お兄ちゃん!」
メシュの声!?
「引っ込んでろ、クソガキ!」
「やめろッ!」
がむしゃらに盗賊の頭領に体当たりをし、”拒絶領域”を発動!
盗賊の頭領が、部屋の隅に激突する。
「ぐっ! ヒール」
痛みで立っていられない!
「お、お兄ちゃん……大丈夫?」
「トゥスカから……離れるなって言っただろう」
背骨がやばい状態で……無茶し過ぎた!
「ご主人様、無事ですか!?」
トゥスカが駆け寄ってくる。
「ちょっと……動けそうにない」
「よくもやってくれたな! この俺の本気を見せてやる!」
盗賊の頭領の姿が変わっていく!?
身体が膨らみ、鼻が伸び、肌の色が青緑に!
「コイツ、トロルが化けていたのか!」
トロル?
トゥスカは、目の前のモンスターについて知っているらしい。
「ヒール」
さっさと回復しないと。
「ご主人様。時間を稼ぎますので、急いで回復を」
「頼む」
『すぐにぶっ殺してやるぜ! ギャハハハハハハハハハハハハ!!』
トゥスカが“法喰いのメタルクラブ”を投げ付けるも、トロルは弾いてしまう。
そもそも、なんで投げた?
『俺には、打撃攻撃は効かねー!』
「トロルには、刃物以外は効き目が薄いんです」
だから、お守りとやらで斬られる事に対処してたのか。
チョイスプレートを操作しようとするトゥスカ。
「使え!」
”グレートオーガの短剣”を、トゥスカに投げ渡す。
「ありがとうございます!」
トロルに向かっていくトゥスカ。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だから……ヒール」
”上位回復魔法”なら、さっさと動けるようになってたんだろうな。
他の人間なんて仲間に入れたくないけれど、いつかこういう日が来るって分かってたはずじゃないか。
「俺の認識が甘かった……ヒール」
ヒールの光が消えてから再度掛け続けているけれど……まだ動けない。
「爆裂脚!」
短剣を囮に、トゥスカの蹴りがトロルの腹に炸裂!
「ダメか!」
大して効いていない。
『潰れちまえよ!』
「シールドバッシュ!!」
トロルの拳を、“鋼鉄のタワーシールド”と”盾術”で弾くトゥスカ。
「ヒール」
「パワーブレイド!」
トロルのデップリ腹を、”グレートオーガの短剣”でトゥスカが切り裂いた。
「ヒール」
ヨロヨロと、なんとか立ち上がる。
『イテーじゃねぇか!!』
トロルが、あの巨大サーベルを手にした!?
『パワーブレイド!』
「シールドバッシュ!」
トゥスカが剣の一撃を弾くと同時――トロルがサーベルを捨てた!?
『潰れろー!!』
サーベルを捨てた事で、シールドバッシュによる衝撃をサーベルに押し付け――反対の腕がトゥスカを!!!
「ガハッ!!」
トゥスカがお腹を殴られ、入り口へと吹き飛ばされる。
――痛みで動けないと判断していた身体が、動くようになった。
いや――死に潰れても動けよ、クソが!!!
「離れてろ、メシュ。絶対に俺に近付くな」
「う……うん」
邪魔なマントを捨てる。
『来んのか? この死に損ない!』
このツルクソデブを、死んでも殺す!!!
『テメーも潰れろよ!』
ツルデブの拳を、僅かに右に動いてから肘打ちで反らす。
『あ?』
勝手に体勢を崩して近付いてきた顔面を、右拳で殴った!
ドン! と、鈍い良い音が伝わってくると同時に、穢らわしい肉感までも伝わってきて――俺の憎悪がぶっ千切れる!!
「気持ちわりーんだよ、お前!!」
殴られて転がったトロルが立ち上がる。
『ぶっ殺してやる!』
こういう自分が嫌なのに。異常者共は、平気なつらして俺の異常性を引き立てようとしてくる!
俺がオリジナルかどうかなんて、くだらない事はもうどうでも良い!!
トゥスカを傷付けられて怒れる俺が居る。今は――それだけで良いんだ!
再びサーベルを出現させ、握るツルデブ。
「さっさと来いよ」
『人間ごときがー!! パワースラッシュ!!』
迫る横からの刃を、俺は姿勢を低くしてから蹴り上げた。
意図せぬ力が加わったためか、サーベルの刃がツルデブの首に迫る。
『ヒィーーッ!!?』
慌ててサーベルを止めるツルデブ。
またも前傾姿勢で、きたねー顔を近付けてきたため――その口に左腕を突き込む!
『噛み千切ってやるぜー』
トロルの歯が、ミシミシと俺の腕に入り込んでくる。
「”魔炎”」
『ふごりょりゅりゃばりゃりゅりゅるりょ!!!?』
紫炎の蛇が、トロルの内部を破壊していく。
『クソーーーッ!!!』
執念なのか――――俺の左腕が噛み千切られた。