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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第10章 混迷の争奪

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369.痛みが紡ぐ夜

「……ぅ」

「起きたか、コセ!」


 暗くてぼやけた視界に、焦ったような女性の声が響く。


「ここ……は?」


「お前とマリナが泊まるはずだった部屋だ」


 ああ、そっか……部屋を別々に借りたんだった。


「そう言えば左腕……」


 負傷した状態であの謎の痛みが発症したけれど……痛くない。


「よく分からないが、何故か自然に……それもあっという間に塞がったようだったぞ」


「自然に? ……て、エリューナさん!?」


 なんで、エリューナさんが俺とマリナの部屋に?


「お前が怪我をしたのは、私のせいだからな。無理言って看病を代わって貰ったんだ」


 潤んだ瞳のエリューナさんに、ドキリとさせられる!


 その手は、俺の腕に重ねられていた。


「……ずっと、左腕を撫でてくれてたんですか?」


「私の母が、こうしてると痛みが和らぐと言っていたのを思い出してな。せめてこれくらいはと」


「……そんなに気にしなくても」


 気怠い身体を押して、上半身を起こす……て俺、眠っている間に裸にされてる!?


 外は……まだ暗い。月明かりが眩しいな。


「いつからだ、左腕が痛むのは?」

「それは……」

「私と一緒に、あの靄に飛び込んだ時から……違うか?」


 さすがに気付かれるか。


「あの靄のせいと決まったわけじゃ……他に靄に飛び込んだ俺の仲間には、そういう症状は無いみたいですし」


 もしかしたら、隠しているだけかもしれないけれど。


「お前も、あの異形の男を見ただろう?」


 俺とエリューナさんが出会い、第二十八ステージに落とされる切っ掛けを作った暴走男のことか。


「あんな姿になったのが靄に触れてしまったせいだと考えれば……お前の左腕も、いずれは……」


 俺やザッカル達が落ちる瞬間、メルシュに神代文字の力を纏えと言われ、咄嗟に実行した。


 そうしなければ今頃、俺もあんな化け物のように変わっていたのかもしれない。


「お前がそうなったのは……私を守ろうと庇ったせいかもしれないだろう」


「実際の所は分からないんですから、気にしないでくださいよ。痛みが起きたのだって、たった三回だけなんですから」


 それに、自然に左腕の穴が塞がった現象を考えると……あの痛みも、悪い意味ばかりじゃないかもしれないし。


「……私の父は、ロシア軍の特殊部隊員だった」


 いきなりの告白だけれど……エリューナさんの出身地は、俺の予想通りだったか。


「あまり驚いていないんだな……私がロシア人だったこと」


「言動で、なんとなく察していましたから」


「悪名高い国の人間とは、思わなかったのか?」

「人間は一人一人違う……それに、それを言うなら、エリューナさん達が俺の仲間を殺そうとしたことの方が、俺にとってはよっぽど問題なんですけれど」


「そっちは、さすがに気付かれてたか……すまん、色々自棄になってたんだ……あの頃の私達は」


「ロシアが負けて、西欧諸国を始めとした連合軍に蹂躙されたから……ですか?」


 他に、問答無用で初対面の人間を殺そうとした理由が思い付かない。


「手酷い裏切りで友達が死んだのが切っ掛けでな……私とツェツァ……スヴェトラーナの事だが、彼女はウクライナの西部出身で、あの戦争によって私達は心に傷を負っていた。私の傷など、ツェツァに比べれば遥かにマシだろうが」


 最初にジュリーに仕掛けた、爆裂特化の魔法使いだったか。


「初めて会ったのは、お互い日本に移住したあとのことでな。私がロシア人だと知って突っ掛かってきた」

「でも、今はガールフレンドですか」

「その時の戦争での怪我で退役していた父から、当時の事を二人で聞いてな……あまりにも酷い話だったよ」


 戦争当事者の言葉……か。


「それから二人で色々調べて、父が言っていることが本当だと確信した私達は、激しく憤った物だ。当時の世界メディアの報道がどれだけ虚飾まみれで、ロシアという国を……ロシア国民を貶めようとしていたのか」


「当時、現地を取材した記者達の話を見ました。報道内容があまりにも偏見と嘘だらけで、ウクライナ軍や傭兵部隊がウクライナ国民を虐殺し、それをロシア軍のせいにしていたとか」


 当時は連日、ロシア軍がどれだけ残虐か、彼等が保有する兵器は弱く、ウクライナ軍は優勢だとか、ロシア軍は逃げ出したとか、支離滅裂な報道が繰り返されていた。


 ネットでは、数年前の合成映像を使用しているとか、ウクライナが元々内戦状態だったことや人攫い、人身売買が横行していた事にメディアが異様なほど触れない。西欧諸国に都合の良い報道ばかりを世界中のメディアに強要しているなどと騒がれていたのに、ほとんどの日本人はロシアが悪いと信じて止まなかった。


 ロシアが開戦に踏み切ったのは、日本が大東亜戦争を仕掛けざるおえない状況にされたのと同じ手口と言っている人も居たのに、大して興味の無い連中は簡単に騙されて……。


 幼いながら当時、戦争に荷担しないはずの日本が防弾チョッキやドローン、税金による多額の寄付をウクライナにしたことに、途轍もない違和感を覚えた物だ。


 ドローンなんて、少し改造すれば遠隔から人を殺す道具になりえるっていうのに。


 そのことを親の前で喋ったら、お前は子供だから何も分かっていないんだと、何も考えていない実の父親に言われたときは、さすがに大きな失望を抱いたな。


「……お前は賢いな。父の話では、当時の親米派ウクライナ政府は、悪魔崇拝者共の傀儡だった。原発事故があったチェルノブイリ発電所の地下には生物兵器研究所があり、攫われた子供達が大勢幽閉されていたらしい。そういったクソったれな施設は、世界中の国々に複数箇所はあったとか」

「悪魔崇拝者?」

「残虐な儀式、人肉を食らう習慣、性的虐待、自分達だけが得をし、大多数の人間を隷属させて搾取し続けてきた連中……大半の人間をDS、ディープステートと呼ぶ」


 ……聞けば聞くほど、クリスから聞いた話に……デルタやレプティリアンの悪行と重なる。


「金融的に、俺達の世界を支配している奴等……」

「そこまで知っていたか。奴等は司法、政府機関、大企業などに根を突き刺して操っている。金と脅迫、薬物をチラつかせて……そうやって屈伏した奴等が各国の代表に任命され、政治の勢力図を二分し、金の亡者共に足の引っ張り合いをさせると同時に様々な偽情報を流すことで、問題の根本的な原因を判らなくしている……それが、あの世界の実体だ」


「民意と呼ばれる選挙制なんて、あって無いような物……か」


 政治家の話し合いの様子を見ていれば、子供でも分かる……コイツらには、まともに話し合いをする能力が無いと。


 政治家なんて、金とコネと人気があれば、バカでもなれる。


 国会議員に二世や三世が多く、派閥がそれぞれの党を牛耳っているのがその証拠。


「……私の父は、自殺したんだ。あの戦争で捕虜になったさい……見せしめに全ての指を切断され、去勢までされていてな」


「……相手が悪魔崇拝者だから……か」


「ウクライナ軍の捕虜は治療され、帰っていったっていうのにな。報道内容はまったくの逆だったが」


 ソ連時代の非道を知っていると、あまり擁護したくない気持ちも……少なからずある。


 当時の事情……歴史の真実なんて、知りようもないけれど。


「お前が私のせいで傷付いたとき……怖くなってしまったんだ。家族に迷惑を掛けたくないからと言って自殺した父と……同じ道を辿るんじゃないかって」


 父親と俺を、重ねてしまったのか。


「俺は死なないよ、絶対に」


 アテル達を止め、デルタの思惑も超えて……ダンジョン・ザ・チョイスをクリアした先の未来を、俺は皆と……この世界で歩むのだから。



「お前が好きだ、コセ」



 エリューナさんが立ち上がり、全ての装備を外した!?


挿絵(By みてみん)


 その姿に、身体の気怠さが一気に吹き飛ぶ!


「……ガールフレンドは良いんですか?」

「後で謝るさ……もし許してくれたら、付き合い続けるつもりだし」


 割と最低な事を言っているけれど、俺も似たような物か。


「まあ、相手が女なら……許しても良いか」


 エリューナさんが選んだ女性なら、受け入れられる気もするし。


「後悔……しませんか?」


 そっと彼女に腕を差し出す……すると、エリューナさんが手を重ねてくれた。


「するかもしれない。けど……この想いを、いつまでも野放しにしておきたくないから――だから、コセ」


「俺も、野放しにしておくのは無理そうだ」


 そのまま俺は、エリューナをベッドに引き込み――情熱的に、彼女を何度も求め続けた。


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