368.夜影に倒れし者
「勝てば掛け金の倍が貰えるゲーム、一回1000Gだ。やっていくかい?」
「お願いします」
鳥葬の廃都の道端に居たNPCの男に、勝負を挑む。
「コイツがどれに入ってるか、当ててみな」
一枚の金貨を筒で隠し、他に同じ筒が二つ現れ――高速のシャッフル!
「暗いから見えづらいな」
今は夜。鳥葬の廃都は只でさえ暗いって言うのに。
「一番右ですね」
チトセさんが口にした。
「半分勘だが、私も一番右だと思う」
「私も」
エリューナさんとマリナまで!
「右で」
……俺は、真ん中かなって思ってたのに。
「大当たりだ!」
本当に右だったし。
「現在2000G。もう一度やるかい?」
男に尋ねられる。
今やめれば2000Gが手に入り、失敗すれば1Gも貰えない。
「お願いします」
そんなこんなを繰り返し、1000Gをどんどん倍にしていく。
「現在64000G。次で最後だ。もう一回やっていくかい?」
「はい」
男が筒を五から六に増やし――さっきまでとは比べ物にならないスピードでシャッフルした!
「ど、どれか見えたか?」
「さ、さすがに」
「うーん、なんか違和感があったような……」
エリューナさんにチトセさん、マリナにも分からなかったらしい。
まあ俺も、答えを知っているだけで見えてはいないんだけれど。
「さあ、答えを聞こうか」
「答えは――どれにも入っていないだ」
メルシュからの情報だ、間違いないはず!
「……正解だ」
「へ? 狡いです!」
チトセさんが憤る。
「なるほど。チョイスプレートによる選択じゃなく、口頭なのに違和感を感じていたが……ここまでの勝負その物がミスリードだったとは」
選択肢に●どれにも入っていない、なんてあったら、察しがつく人間は多いだろうしな。
「約束通り、128000Gをくれてやるよ! ほら、帰った帰った!」
投げ槍だな。
「ちょっと、そんな言い方無いでしょ!」
チトセさんが荒ぶっておられる。
「俺にだって生活があるんだ。金が無きゃ、王様も神様も生きていけねーんだよ!」
NPCの方まで感情的に!
「王はともかく、神様は生きていけるでしょう?」
マリナが突っ込む。
「生きているって事は、生物って事だろう? 西洋で語られる神話の神々ならば、飢え死にすることもあるかもな」
西欧圏だと、そういうイメージが強いのか。
中東や地中海なんかもそうかな?
そもそも日本だって、古事記からは神を擬人化している。
日本の天皇は、一応神々の血筋とされているし。
「ああ、そっか。私のイメージだと、神様って超自然的というか、超越的ななにかって感じだったけれど」
「私の家の人間は、万物に神が宿るって考えですね。自然だけでなく物、全ての動植物にさえも」
マリナとチトセさんも、それぞれの神のイメージを口にしていく。
俺は全知全能の唯一神のイメージがあるけれど、万物に宿るという感覚も分からなくはない。
「そう言えば、前にメシュとこんな話をしたな」
祈れば……縋れば助けてくれるような、都合の良い神なんて居ない。
もし運命を司るような神が本当に居て、俺達にこんな苦しみを強いて居るなら――俺は神を赦さない。
それが一度、幼稚園でキリスト教に染まった俺の答えだ。
「……」
「エリューナさん?」
「いや、なんでもない。それより、さっさと街を回るぞ」
どこか気落ちしているように見えるエリューナさん――なにかがエリューナさんを狙っている!
「エリューナ!!」
「“警鐘”が――へ?」
彼女を突き飛ばし、左腕の甲手で――”剛力竜王の甲手”が、針のような物でアッサリと貫かれた!?
「貴様ッ!!」
「チ! もう少しで九千万が手に入ったのに!」
仮面と黒の外套で身を包んだ小柄な女が、俺達から一瞬で距離を取る!
「……賞金稼ぎか」
左腕の痛みは激しいけれど、大樹村での激痛に比べれば遥かに増しッ!
「へー、アンタ一億越えなんだ。ていうか、アップデート中に出てた顔じゃん。ラッキー♪」
「――死ね」
エリューナさんが曲刀に――“終わらぬ苦悩を噛み締めて”に十二文字刻んで、仮面の女の懐に一瞬で潜り込んだ!?
「“タシロカムイ”!」
カムイ系――コイツ、獣人か!
「遅いんだよ!!」
「ガッ!!?」
女を袈裟斬りにしたのち、瞬時に左拳を叩き込んで喉を潰し――右逆回し蹴りを側頭部に容赦なく叩き込んで……女賞金稼ぎは死んだ。
あまりの手際の良さに、エリューナさんに対して戦慄すら覚えてしまう。
「な、なにも殺さなくても……」
「甘いことを言うな、チトセ――私欲のために命を狙うような人間など、生かしておく価値なんてッ!! ……無いんだ」
激昂したかに見えたエリューナさんが……見る見る気落ちしていく。
今の自分の言葉が、ブーメランになっている事に気付いたのだろう。
「あの……それよりも手当てを」
左腕が貫通しているため、血がダラダラ。
「ぶっちゃけると、気絶してしまいそうなほど痛いんだ」
メイルブレイカーのような武器だったけれど、高ランクだったのかな?
「そ、そうね!」
「す、すみません!」
二人が駆け寄り、回復魔法を掛けてくれようとした時だった。
「――――ぁぁああああああああああああああッッッッ!!!!」
左腕から、この前を上回る激痛が走り――全身が雷に打たれたように痺れ続けるッッッ!!!
「こ、コセ?」
「お、落ち着いてください! 痛み止めの薬を!!」
「――ぁああああああああああああッッ!!!」
立っていられない――全身の生気が、左腕に吸い取られていくようなッッッッ!!!
「み、見て! 左腕が!」
「穴が……塞がっていく」
チトセさんの言葉の直後、痛みが急速に引くのと同時に……気も遠くなってきて……。
●●●
「余は魔神子のナノカである。宜しく頼むぞ、人間共」
夜、メルシュ達が変な人を連れて戻ってきた。
「ガルルルル!」
バニラが警戒している。
「おう、随分可愛らしいワンコではないか! 余のペットにしてやらん事もないぞ、うん?」
「……キャウ」
バニラが気味悪がって、私の後ろに隠れちゃった。
「随分小さいのもおるのだな。おい、余と仲良くなるが良い! 許可してやる」
「……うん?」
この人の言葉、頭がこんがらがって来ちゃうよ!
「そーかそーか、友達になりたいか! うむ、仕方のない奴だな~」
よく分からないけれど、なんか嬉しそう。
「なにこの女、新手のツンデレ?」
「随分面倒くさそうな人格の隠れNPCだな」
ローゼとマリアが、よく分からない事を言ってる。
「それで、明日はさっそく攻略開始って事で良いのよね?」
怖そうな人が、メルシュに尋ねる。
一緒に暮らしてないし、仲間なのかどうかよく分かんない茶髪の可愛い人。
「皆に問題が無いならそうするけれど、体調に問題は無い? 生理がキツいとか」
頭……ボーッとしてきたかも。
すっごい……フワフワする。
「ねー……生理ってなぁに?」
「モモカはまだお子ちゃまだから、知らなくて良いことよ」
むー、ローゼがまた子供扱いしてくる!
「お前のその言い方、わざわざ興味を持たせようとしていないか?
「そ、そんなわけないでしょう! ……モモカ?」
「ガウガウ!」
なんか……凄く熱い。
「おい、どうした!」
ナノカが、私を抱き止めてくれた?
「凄い熱です。ナノカ、モモカをベッドに。付いてきてください」
「おう、任せ余!」
ヨシノのお手々……気持ちいいなぁ。




