366.魔人の皇都
「もし魔神様の武器を持っていたら、是非売ってくれ。相場の五倍の値段で買い取るよ!」
魔人の皇都の入り口付近で、男のNPCさんにそう言われる。
「メルシュ、ああ言ってるけれど?」
「取り敢えず、今はパス」
さっさと先に進む、メルシュさんとジュリーさん。
「ここのNPCの人達……皆耳が尖ってる」
それに、肌が灰色。
「彼等は全員、魔人だからね。身体能力が高いっていう設定だよ」
メルシュさんが説明してくれる。
祭壇を降りた私達が居るこの場所は、家も何も青黒い石で出来ていて、不可思議な神秘性と暗い懐かしさを覚えてしまう。
「で、なんで私達だけ別行動なのよ?」
ナオさんが尋ねる。
「今回、クマムに隠れNPCと契約を結んで貰おうと思って」
「またですか」
私、今までスライムやガーディアンの隠れNPCと契約しようとして出来てないんですけれど?
「今回は、誰かに取られていない限りそのまま契約して貰うよ」
ジュリーさんの言葉。
「もしかして、凄く強い隠れNPCなの?」
「私達隠れNPCの中でも、かなり特殊な位置づけになります」
テイマーのサキさんが特殊と言いきった。
「あれ、誰か契約用のアイテムを手に入れたりしてたっけ?」
「今回は、特殊な条件を満たすことで契約出来るタイプだから」
ナオさんの問いに、メルシュさんが答える。
時間帯もあるのでしょうけれど、この街はとても薄暗い。
まるで、夜明け前の不気味さというか……。
長い石の道をひたすら五人で進み、おそらく街の端までやって来た私達。
目の前には、長い長い石階段が続いている。
「去るが良い、冒険者共」
階段前に居た魔人の男二人が、どこか見覚えのある剣と銛を構える。
「もしかして、魔神を倒した時に貰える武具?」
「コイツらは、魔神系統の武具、スキルの威力を上げる“魔神力”があるから、侮らない方が良いよ」
メルシュさんが話している途中で、二人の魔人が襲い掛かってきます!
「“災禍刃”!!」
メルシュさんが指を素早く横に振り、黒紫の斬撃を放って二人を牽制!
「“獅子王撃”!!」
ジュリーさんが左腕の黄金の甲手から獅子の頭の形をした雷光を放ち、銛持ちを吹き飛ばす!
「ハアッ!!」
私も、“大輪の華花への誓い”と“ゴルドローズソード”の二刀流で、曲刀使いを攻め立てていく!
人間みたいな相手とは戦いづらいですけれど――コセさんの隣に立ち続けるためにも、私も覚悟を決めなくては!
「“二重武術”、“風光剣術”――シーニックプリック!!」
時間差で突きを繰り出し、その胸を貫いて倒す。
「“雷光斬”!!」
雷の斬撃を飛ばし、銛持ちの方を両断するジュリーさん。
「イベント限定の敵キャラだったはずだけれど、こういう形で出て来るんだ」
ジュリーさんが呟いている。
「じゃあ、さっさと階段を上るよ。一段一段踏んで進まないと辿り着けないから、すっ飛ばさないように気を付けてね」
「うげ!」
ナオさんが嫌そうな声をあげる。
「わ、私は、下で待ってようかな~」
「上にもさっきの奴等と同じのが出るから、ここに居るメンバー全員で挑むからね」
「そ、そんな……」
メルシュさんの言葉に絶望しかけているナオさん。
「クマムが危険な目に遭っても良いんだ?」
「クマムちゃんのためなら、頑張るに決まってるでしょうが!」
ナオさん……あんまり私に執着しないで欲しいんですけれど。
厄介オタクみたいで怖いです。
その後、黙々と階段を上っていく私達。
「普通に歩くのとは違うキツさがあるわよね、階段て」
「やっぱり、重力に逆らってるからですかね?」
「あとは、普段あまり使わない筋肉を連続で使ってるからかな」
「メルシュって、私達みたいに疲れる事あるの?」
「ううん、全然」
「……羨ましい」
ナオさんは欲しがりですね。
コセさんが居なくなってから、段々ナオさんに愚痴っぽい言動が増えてきた気もします。
「だからこそ、私には無くて皆にはある物があるんだよ」
メルシュさんの意外な指摘。
「隠れNPCになくて、私達にはある物?」
……もしかして、神代文字のことですか?
「もうすぐ頂上だよ」
ジュリーさんが教えてくれる。
「うわ、ウジャウジャ居る!」
「くせ者だ!!」
「出合え出合え!!」
「来ますよ!」
武装した魔人数十人が、一斉に襲い掛かって来た!
●●●
「はアッ!!」
メルシュ達と離れた私達は、気ままに街を見て回っていたのだが……武芸自慢とかいうのがあって、スキルや武具効果は使用禁止の状態で、一対一で魔人と戦って勝利すれば良いらしいゲームに、サンヤとヒビキが参加。
そんなこんなで、十文字槍を振るって戦っていたヒビキは、終始優勢のまま呆気なく勝利。
○賞金の5000Gです。
「一人十回が限度だったはずですが、ステージが戻された事で私のカウントはゼロに戻っているようですね」
石で出来たリングから、ヒビキが降りてくる。
ヒビキは、以前にも十戦したらしい。
「これって、戦士だけのイベントなんだっけ?」
「ええ、その通りです」
じゃあ、私とルフィル、コツポンはダメか。
十戦で一人50000G。積み重ねれば、はした金なんて言えない額。
「魔法使いに得なイベントとか無いの?」
「特殊なのを除いて、魔法のスキルカードを安く購入出来たはずです。武術スキルも同様ですが。私が知っているのはこれくらいでしょうかね」
「モンスターと戦う場所とかは?」
良い素材が手に入れば、新しい武器を作れる。
そうでなくとも、金策にはなるし。
「それは――」
「あ、ユイの奴が戦うみたいだよ」
サンヤの言葉にリングに目を向けると、いつの間にかサムライガールがそこに居た。
「……」
ヒビキが、神妙な顔でユイを見ている?
「――遅い」
鍔の無い刀を使う魔人の首を、一瞬で刎ねてしまうユイ。
……リューナ並に人間離れした達人の動き……敵に回したくない類いの化け物だわ。
「さすが、マスター」
アマゾネスのシレイアと、ハイタッチを交わしている。
「次は……シレイアさん?」
「いんや。ここ、どうやら隠れNPCは受けられないみたいなんだよ」
「なんだ、最初からコツポンには無理だったのか。やっぱりポンコツね」
「酷いですよ、ご主人様! なんでそんなことばっかり言うんですか!」
私の隠れNPC、シルキーのコツポンが騒ぎ出す。
「というか皆さん、もっとノゾミさんを手伝ってあげてくださいよ! 攻略に参加してないからって、雑用ほぼ全部をノゾミさん押し付けて! 恥ずかしくないんですか!」
「「「……」」」
一斉に顔を背ける私達。
「べ、別に、家事炊事が出来ないわけじゃないし」
リューナが居ないと、なんかやる気になれないだけだし……私は。
「ていうか、むしろ散らかしてて欲しいみたいなことを、契約時に言ってたのはアンタでしょうが!」
「だって~、ノゾミさんが昼間のうちに大体全部終わらせちゃうんですもーん!」
「だったら尚のこと、アンタがやるって言えば良いでしょうが!」
「それでもノゾミさんは、暇だからって、頑張ってる皆に申し訳ないからってこなしちゃうんですよ~」
……アイツ、そんな風に思ってたんだ。
十二ステージで攻略を諦めた、知識だけのお荷物。
私達がそういう風に扱っていたのは、否定しないけれど。
「……早く会いたいよ、リューナ」
じゃないと……今までの私が揺らいじゃう。




