362.襲来の小魔神
「ここからはパーティーごとの行動になるから、特に気を付けてね」
そう言ったメルシュは、枯れ霧の森と同じ面子で石の道を進み……消えた。
「私達も行くぞ、ユリカ」
「そうね」
「気を付けて参りましょう」
ユリカをリーダーに、ヨシノ、タマ、スゥーシャ、私の五人で青黒い石畳の上を進む。
何度か角を曲がり、青黒い石で出来た迷路のような場所を進んでいると……動物を模った青黒い石像が、道の真ん中に鎮座しているのが見えた。
「アレって確か……魔神・転剣狼さん」
タマはアレを知っているらしい。
「魔神にしては、随分小さいな」
三メートルくらいか。
「小型版である、小魔神・転剣狼です。中ボスのような存在ですね」
ヨシノが説明してくれる。
「行動も弱点もほぼ同じですが、小さくなっている分、同じ感覚で戦おうとすると痛い目に遭うでしょう。ステージに見合ったステータスが設定されてもいますし、お気をつけを」
「後ろにも居るぞ」
別の石像が背後に現れ、前方の石像と共に光のラインが入り……動き出す。
コイツらは、どっちも青黒い石の身体なのだな。
「アッチは、小魔神・四本腕ですね」
「最初のボスか。懐かしいじゃない!」
「いや、待て!」
左右からも石像が生まれ、コチラも動き出した!
「小魔神・大猩々に、小魔神・火喰い鳥ですね。数はランダムなのですが、最大の四体がいきなり出て来るとは」
これまでのボス四体に囲まれたような物だというのに、なにを悠長な!
「火喰い鳥か……アイツが居る以上、私の戦力は半減か」
ユリカが妙な事を言い出す。
「名前の通り、火を食らうというわけか」
火を操るのを考えると、辺りに植物が無いのもあってヨシノは当てにできん。
「彼等は倒されると、ボス戦討伐報酬で選べるアイテムをランダムにドロップします」
この戦闘を三度繰り返さなければ、ボス部屋には辿り着けないんだったな。
「確実に数を減らすぞ!」
一体倒せば、それだけで楽になるという物。
――四本腕と呼ばれた小魔神が、大石刀で私に斬り掛かってくる!
「”霧の宝珠”!」
その他装備の黒紫の宝珠を頭上に生み出し、そこから発生させた霧の鞭で牽制!
「“風光弓術”――シーニックブレイズ!!」
霧の刃で四刀を押さえ付け、そこに風と光の一矢を放つ!
「チ!」
冷気の炎によって、完全には届かなかったか!
「――“一矢十矢”」
新たに放った矢を十本に分裂させ、十本中六本が刺さり――各所に僅かながら亀裂を与える!
「“暴風魔法”――ダウンバースト!!」
四本腕を地面に叩き付け、生じていた亀裂を拡大させた。
「トドメだ」
“災禍の霧の宝珠”の霧槍で全身に無数の孔を穿ち……光に変える。
○“四本腕の大湾刀”を手に入れました。
○”転剣狼の竜巻ブーメラン”を手に入れました。
○“大猩々の石籠手”を手に入れました。
○”火喰い鳥の竜甲脚”を手に入れました。
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「“可変”!」
”泰然なる高潔の息吹”を変形させ、砲身を展開!
「“泰然なる息吹”!!」
強力な風線を放ち、小魔神・射手妖精が矢を放つよりも早く――腕ごと弓矢を破壊!
「”颶風孔線”!!」
「“火炎大砲”!!」
サトミの“ストームチョーラ”とクリスの“砲火剣・イグニス”の攻撃により、小魔神・妖精射手が砕け散る。
「今回は一体だけだったから、楽勝だったわね!」
「二度目で三体に襲われた時には、さすがに驚いたが」
リンピョンの“嘆きの牢獄”で動きを止めている間に数を減らし、事なきを得たか。
「人数が少ないユイとクマムのパーティーは、大丈夫なのだろうか?」
●●●
「ガアアアアアアッッ!!」
小魔神・鎌切蟷螂の腕の鎌を物ともせず、一刀の元に斬り捨てるバニラ。
「“万力の腕輪”で、更に膂力が強くなっているとはいえ……」
全身が石で出来た小魔神を、一撃で葬り去るとは。
「”竜剣”――“絡め取り”!」
サキが呼び出した剣が小魔神・刀鬼の長ドスによって弾かれるも、その隙に“竜皮の削り鞭”で拘束。
鞭の鋭い表皮で削りながら、小魔神の動きを完全に止める。
「“竜爪術”――ドラゴンブレイク!!」
黄金の翼、”光輝竜の六翼”により上昇していたモモカが急降下――左腕の黄金の鉤爪、ドラゴンキラーで魔神の頭から胸を破壊した。
”光輝竜の六翼”を上手く使った、見事な一撃。
「バニラ、ナーイス!」
手を叩き合うモモカ達。
「うちの幼女コンビ……強すぎる」
一応セラも呼び出していたけれど、完全に杞憂だったみたいだ。
「モモカちゃん、私ともタッチしよ? ハイ、ターッチ!」
サキのスキンシップに、私の後ろへと隠れるモモカ。
「ヤ!」
「そんな~」
「ガルルルル!」
モモカの感情を察知し、低い唸り声を発し始めるバニラ。
お互いに“意思疎通の首輪”を付けているため、二人は感情などを共有し合っている。
モモカの嫌悪感を敏感に察知して、サキを敵と判断したのだろう。
「サキ、謝りなさい」
「ぅぅ……ごめんなさい、モモカちゃん」
「キャゥーン」
バニラが落ち着きだした……良かった。
「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」
落ち着きを取り戻したと思ったら、私の前でウンコ座りをしだすバニラ。
「ジュリーに撫でて欲しいって!」
「私に?」
戸惑いながらも、頭を撫でてやる。
「キャウーン♪」
「気持ち良いって」
「……そっか」
うちはパパとママの意向でペット禁止だったから、なんだか嬉しい……て、バニラをペット扱いしちゃダメだろう!
「わ、私も触って良い?」
「ガルルルル!」
「サキはダメだって」
「なんで~?」
そう言えばバニラ、普段は隠れNPC全般を避けている気がするな。
モモカがよく懐いているドライアドのヨシノだけは、なぜか例外みたいだけれど。
でも、クリスとは割と仲が良かったか。
メグミとも、日に一回くらいはじゃれ合っている気がする。
それ以外の人間とは、差はあれど特別良くも悪くもないか。
「この差は、いったいどこから来るのか」
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「なんか、アイテムが散乱しているな」
「でも、全然拾えない……」
調合師の墓所を選んだ俺達が数十分掛けて辿り着いたのは、穴の奥にあった空洞の底。
そこから横の方に出入り口らしきドアも見えるけれど、その前に、この墓所で出来る限りのメリットを得ないと。
「ここにある物は、“調合師”のサブ職業をセットしないと拾えないんだ」
サブ職業を操作してから落ちている物を拾うと、○拾いますか? という表示が出るため、迷わずYESを選択。
「もしかして、落ちている物全て、“調合師”関連のアイテムなのか?」
「全部ではないですけれど……ほとんどそうらしい」
さっきの一件で、だんだんとエリューナさんに敬語を使うのがバカらしく思えてきた。
「……なんだ、このリュック?」
地味な黄土色の巨大リュックだけれど、両端に五リットルくらい入りそうな透明な筒が付いていて、筒の下部からは管を伸ばせるようになっているらしい。
「……用途が分からん」
○“薬液工廠リュック”を手に入れました。
「工廠って……」
このリュックが軍需工場だとでも?




