347.大樹村
「……見れば見るほど凄いな、ここは」
エリューナさんが、目の前の光景……大樹村に圧倒されている。
俺達はボス戦終了後、いつもの祭壇に転移したわけだけど……その祭壇があったのは、バカでかい大樹の枝の先だった。
その祭壇を降りてからは、上部が平らに掘られた塀付きの巨枝を歩き、幹を目指している。
この道だけでも、車が三台は並んで通れそうな程広い。
「暗くなって来たし、早く泊まれる所を見付けないと」
マリナの言うとおり、暗くなる前に安全を確保して置きたいところ。
「……凄い」
幹まで辿り着き、穴を潜ると……そこには木をくり抜いて作られたと思われる広大な空間が!
「凄く広いし、凄く明るい……」
「良い雰囲気の場所だな。嫌いじゃ無い」
二人とも、完全に魅せられてるな。
まあ、俺も気に入ったけれど。
「この灯り、木の内部そのものが淡く光っているのか」
「プレーヤーらしき人間が、チラホラ見えるな」
エルフが多い気もする。
「初めて村に来た人達だね」
入口近くのお爺さんが話し掛けて来た。
「ここは大樹村。空を行けぬ者には不便な事も多いが、とても良いところだよ」
「そうみたいですね」
この人はNPCみたいだな。
「お近づきの印に、どうぞ」
○“調合師”のサブ職業を手に入れました。
「全員が手に入れられる仕様なのか」
これがあれば、自分で薬などのアイテムを調合出来るようになるんだっけ。薬や素材の効能も、ある程度解るようになるらしい。
「宿泊場なら、上の階層だよ」
「上?」
……端の壁が、上への螺線階段になっているのか。
天井の一角に穴が空いており、そこに通じている。
「飛べない場合、とんでもなく時間が掛かりそうだな」
「確かに、飛べないとここで暮らすのは実質不可能か」
「さっそく行こうよ。村の探索なら、明日でも出来るんだし」
「私もそうしたい」
二人とも、相当疲れているらしい。
「それじゃ行きましょうか――夜鷹」
指輪で黒い鷹を呼び出し、腕に引っ付かせて上まで運んで貰おう。
「マリナ」
彼女に手を伸ばし、手を取って貰う。
さすがに、エリューナさんは定員オーバーか。
「……もう一踏ん張りか」
「すいません」
よく考えたらマリナは魔法で浮けるんだから、空を走るエリューナさんの方が負担が大きかったかも……すんません。
そんなこんなで、一直線に上の階層を目指し、辿り着く。
「……こっちは、そこまで人が多くないな。ほとんどNPCみたいだ」
「でも、凄く大っきい木造の建物……まるで木彫りみたい」
「だな」
コンクリートのホテルを、大樹の中を彫って再現したかのようだ。
「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー、上がるのは……重力が、ハァー……キツい」
滅茶苦茶息が上がっているエリューナさん。
ここまでの高さ、数十メートルはあっただろうからな。
「明日は、一日ゆっくり休みましょうね」
「もう一踏ん張りですよ、エリューナさん!」
「お、お前ら……自分達だけ楽して」
やっぱり、エリューナさんを運んであげた方が良かったかも。
「ホテルは複数あるみたいですね。取り敢えず、一番近いのに入ってみましょうか」
「おう……」
ちょっと面白くなさそうなエリューナさん。
「いらっしゃいませ、お客様」
従業員らしきNPCが挨拶してくれる。
「あれが受付か」
受け付けのカウンターどころか、内装のほぼ全てが、このホテルという木彫りの一部らしい。
こんなのが実際にあったら、天才と言うより狂人の仕事だな。
「いらっしゃいませ。当ホテルの宿泊費は、一部屋120000Gとなります」
「十二……万」
「高過ぎだろう……」
確かに、高級感あるホテルではあるけれど。
「あれ、一部屋ってことは……」
「当ホテルは他のホテルよりも高い分、一部屋に何人お泊まり頂いても値段は変わりません。ちなみに、定員は六人となっております」
「一人だろうが三人だろうが、十二万って事か。親切なのかなんなのか」
「なら、他の所を探す? ここは高いみたいだし」
「一番安いホテルで、お一人様80000Gとなります」
「三人で240000……か」
倍の値段になっちまう。
「この階層に人が少ない理由が分かった」
「確かに」
「……な、なんだ?」
エリューナさんを見詰める俺達。
「……ハァー、分割で四万だぞ?」
「いや、奢りますよ」
「それじゃ意味ないだろう。一日ゆっくりしたいと言ったのは私だし……てオイ!」
話している間に払ってしまう。
「じゃあ、明日の分はエリューナさんって事で」
もう一泊する予定だし。
「て言うか、外国人ってお金とかにルーズなイメージがあるんだけれど?」
「一緒くたにするなよ、マリナ。真面目と言われる日本人にだって、滅茶苦茶テキトーな奴も多いだろう」
「「確かに」」
俺の家族も同年代の奴等も、論理的に喋っているようで支離滅裂な奴等ばかりだった。
常識って言葉が、心を見なくて良い理由になんてならないのに。
「まあ、世界的に日本の方が生真面目な人間が多いのは否定しないが……だから、良いように騙されてることにも気付かずに」
エリューナさんから、今黒い感情が……。
「フー、さっさと行くぞ。部屋はどこだ?」
●●●
「……気持ちいい」
個室の木の風呂とサウナを堪能したのち、ベタつきの無い肌でベッドに横になる私。
「……最高だな」
こんなに充足感を感じるのは、いったいいつぶりだろうか。
「まるで……前に戻ったみたいだ」
ツェツァやサンヤ達と、ゲーム攻略を始めたばかりの頃に。
「……殺人鬼のくせに、なに人並みの幸せ感じてるんだか」
二十ステージに辿り着くまでに、仲間が何人も死んだ……気を許していた友人、ケイは……私を庇って……。
いつだって最大の脅威だったのは……人間。
このクソみたいなゲームに躍らされて、欲望に取り憑かれた主体性のない人形共。
だから、生き残った私達三人は……人間を片っ端から殺してやることにしたんだ。
性別も、年齢も、人格も、人種も関係なく……全員ッ!!
「……どうかしてる」
これじゃあ、私の祖国を嵌めて、ツェツァの祖国を食い物にしてきた奴等と……同じじゃないか。
「私、今あの魔女の下着を着けてるんだよ♡? ん……ぁん♡♡」
「……アイツら」
当たり前のように二人で浴室に入って行ったと思えば……やっぱりか。
「男……か」
父親以外で、こんなに一緒に異性と行動を共にしているのは初めてか。
「不思議と、嫌じゃないんだよな」
コセ達と接していることが。




