326.荒廃の大地の村
「ここ、荒野の貧村に似てる。あそこほど酷くはないけれど」
荒廃の大地の村への転移後に祭壇から見えたのは、木々がまったくと言って良い程見当たらない荒れた土地。
荒野の貧村に比べると、まだちゃんとした木製の家が何軒も建っているため、マリナの言いたいことはよく分かる。
「さっさと寝床を確保しよう。先に行くぞ」
“空遊滑脱”を使い、あっという間にピョンピョンと降りていくエリューナさん。
「俺達も行こう」
既に日が傾き始めている。
「うん」
俺の一歩後ろで、共に階段を降りていくマリナ。
「そう言えば、マリナの武器って前と変わったよな? 以前は“ウメガイの光剣”だったっけ?」
「例の女と戦っているときに、硝子の剣が生えてきたの。名前も、“キヤイウメアイ”に変化してた」
石の柄と鍔に硝子の刀身が生えた、綺麗なのに歪さも感じる不可思議な剣。
硝子の刀身部分には、複数の丸と蔦のような物で構成された紋様が浮かび上がっている。
「刻める文字は、九文字まで?」
「この剣が変化した時は、十二文字刻めていた気もしたけれど」
俺がアテルと初めて戦った時みたいに、一時的には引き出せたのか。
「凄いな」
「そ、そう?」
今ので照れるとは。
「なんか、言葉遣い変わったよな? 昔はもっと男勝りだっただろ」
再会した時だって、今よりぶっきら棒な感じだったはずだし。
「わ、私だって……お、女の子らしくなりたいって……思ったりしても良いでしょうが……」
「まあな」
別に、どっちの方が良いとか言いたいわけじゃないけれど。
「……ねー、九人の女と……そういう関係って……本当?」
「ぁぁ…………」
その数、たぶんメルシュは自分を含めずに言っているんだよな。
「今は……十五人かな」
メルシュも含めて。
「…………ゲームをクリアしたあと、その人達はどうするつもりなの?」
「俺は、この世界に残ろうと思ってる。向こうが望んでくれる限りは、一緒に生きていくつもりだ」
「帰る気……無いんだ」
「……うん」
悪いけれど……向こうの世界に未練は無い。
これでマリナの心が俺から離れるなら、それまでだったというだけの話。
「おい、宿があったぞ」
俺達が祭壇を降り終わる前に、既に見付けてくれていたらしい。
「お待たせしました」
「遅いんだよ!」
急に声を荒げてきたと思ったら、俺とマリナの首に腕を回して顔を近付けてきた?
「プレーヤーらしき人間を、何人か見掛けた」
「……エリューナさんの印象は?」
「こっちを探っているような感じだった。警戒しているだけにも思えたが……向こうから仕掛けて来るような奴等かは、さすがに分からないな」
「部屋は、一緒にした方が良さそうですね」
「へ!?」
「仕方ない」
驚くマリナを余所に、納得してくれたエリューナさんの案内で宿へと向かう。
●●●
「……どうしたの、ツェツァ?」
「やはり、少し様子がおかしいですよ?」
三人で“名も無き王国の廃墟”を見て回っていると、路地裏のような場所で二人に尋ねられてしまう。
「昔のこと……どうしても思い出しちゃって」
小さい頃……物心ついた時から、私が暮らしていた街のアチコチには、焼け焦げた家や崩落したアパートが幾つもあった。
ここはまるで、私が見て育った光景の成れの果てのよう。
特に、あの戦争の後のような……。
「早く、リューナに会いたい」
私が日本に逃げてきた後に再会した、私の……命の恩人の娘。
「……トカゲ共の言いなりになる人間なんて、みんな死ねば良いのよ」
そこに、国も人種も年齢も立場も……関係ない。
「ねー、そこのお姉さん達」
「俺達と食事してくれない? 金は出すから」
「ちょうど三対三だしさー」
三人の男達が、武装していない状態で近付いてくる。
一人はアジア系で一人は獣人、もう一人はエルフか。
「へー、奢ってくれるんだ。で、全員で十人は居るみたいだけれど?」
サンヤが挑発する。
「なに言ってんの? そんなわけないじゃーん」
「そういやこのステージ、幽霊が出るなんて噂もあるけれどよ~」
「怖ーよな。大丈夫。いざって時は、俺達が守ってやっからさ」
「下手な嘘ですね。イマイチ狙いが読めませんが」
「この期に及んで、まだしらを切るんだからね」
二人には分からないらしい。
「コイツらの目当ては、私達の身体よ。無理矢理捕まえようとしたら最悪殺してしまう可能性があるから、食事に睡眠薬かなにかを混入して連れ去るつもりなんでしょう」
「うっわ、キッモ」
「……同族の面汚しが」
「おいおいおい、早とちりすんなって!」
「そんな証拠なんて無いだろう? 被害妄想が過ぎるよ」
「俺達、滅茶苦茶に傷付いちまったぜ」
「分かるのよ、その濁った目を見れば――装備セット1」
この手に星球付きの棒、“栄華の裏の真実”を手にする。
私が捕まっていた発電所の地下で、私と同い年くらいの子を――犯していた奴等と同じ目だから!!
「アンタら――皆殺しにしてあげるわ」
私達が……私が――リューナと一緒に、お前らみたいなのを何人殺してきたと思っている。
●●●
「なんだか、微かに悲鳴が聞こえます」
「放って置いて良いと思うよ」
タマを諫めておく。
声の方向からして、スヴェトラーナ達が害虫駆除してくれている可能性が高いし。
「それよりも」
「貴重な薬の材料は要らんかね?」
○以下から購入が可能です。
●スタミナリザードの粉末 2000G
●イエローフロッグの毒液 2000G
●ベルスネークの凝血毒 2000G
●マンドラゴラの乾燥粉末 3000G
●トレントの黒樹皮 3000G
微かにしわがれた顎が見える老婆のNPC、その売り物を確認する。
「全部十ずつ頂戴」
○合計で120000Gになります。
YESを押して購入。
「まいど。これで、暫くは食いつなげるよ」
「今のって、どういう使い道があるの?」
カナに尋ねられる。
「全部薬の材料になる物だよ。“調合師”のサブ職業が無いと薬は作れないけれど、スタミナリザードの粉末は、TP回復速度を五分だけ一点五倍。マンドラゴラの粉末は、MP回復速度を一点五倍。イエローフロッグの毒液は、武器なんかに塗って相手を麻痺状態に。ベルスネークの毒液も、武器に塗って突き刺すと血を固めて倒せる。毒は血の通った相手にしか通用しないけれどね」
だから、魔神や古生代モンスターなどの無機物系には通じない。
「スタミナリザードとマンドラゴラはともかく、他の二つはあまり使い道が無さそう」
「これは、薬の材料用に買った物だよ。ここで買うのが一番安いから」
まあ、それだけじゃないんだけれど。
「――ッ!!」
タマが、瞬時に背後に向かって槍を構えた?
「タマ、どうしたの?」
「今……そこになにか居ませんでしたか?」
スゥーシャの問いに、どこか怯えたように尋ね返すタマ。
「ジュリーやカナは、なにか感じた?」
「特には」
「なにも」
私も、気配のような物は感じなかった。
獣人の五感は優れているし、タマだけがなにかを感じ取れてもおかしくはないけれど。
「でも……」
「暗くなる前に行こっか」
そのまま五人で街を回りきり、私達は全員で神秘の館へと戻った。




