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ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第9章 新たなる門出

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324.名も無き王国の廃墟

「へと……なんだか恐ろしい場所だね、タマ」


 最後にボス戦を終えた私達が転移した直後、スゥーシャが私に向かって呟いた。


「そうだね……」


 祭壇から見える景色は、黒灰に染まった……街?


「不気味な場所でぇす」

「本当、なんだか薄ら寒さを感じるわ」


 サトミさんも、なにかを感じている?


 私も、黒昼村での特訓の際に感じた、暗闇の中でなにかが蠢いている感じ……それと似て非なる感覚が、さっきからずっと……。


「名も無き王国の廃墟。ノスバーク王国に滅ぼされた小国っていう設定だよ」


 メルシュさんが解説してくれるけれど、設定って事は……嘘なんですよね?


 私達にゲームをさせるためだけに作られた、偽物の廃墟。


 デルタ様は……デルタは、なんのためにこんな場所を作り出したのでしょうか。


「こんな……悲劇が起きたかのような場所を」


 元になっているのは、ジュリー様のご両親が作った物だそうですが。


「彷徨っているのは、NPCよね?」


 ユリカさんが、メルシュさんに尋ねる。


 廃墟の中には、顔どころか身体全体を隠すように歩いている人達が何人か見えた。


「この国の生き残りや、流れ者が集まっているって設定だからね。それと、ここの滞在ペナルティーは”人攫い”の存在。三日以上滞在した状態で夜に出歩くと、人攫い集団に出くわす事になるから」


「人攫いって事は、奴隷にされるってことですか? 始まりの村みたいに」


 私からメルシュさんに尋ねる。


「人攫いを倒してしまえば問題ないけれど、出て来る人数も多いから、ここはさっさと抜けるべきかな。ちなみに、奴隷にされた人達は夜限定の奴隷オークションで売りに出されるよ。暫く売れないと殺処分、もしくは二十ステージの腐敗の王都に送られるらしいけれど」


 人攫い……それに奴隷……何度聞いても良い感じがしない言葉。


 この世界に来たばかりの私は、本当に盲目的だったんだなって……今ならハッキリ理解できます。


「…………」


「ツェツァ、大丈夫ですか?」

「へ? ああ……ちょっと、昔のことを思い出してただけよ」


 スヴェトラーナさん、なんだか様子が……。


「この廃墟では夜にしか出来ない事が多いから、休みたい人は休んで。準備は私の方でやっておくから。ジュリー、私と一通り廃墟を回ってくれる?」


「なら、私も一緒に行きます!」

「では、私もご一緒させてください」


 私がお願いすると、スゥーシャまで付いてこようとする。


 ……ちょっと嬉しいです。


「私も、見て回ってみたいわね」


 色気プンプンモードのカナさんも、一緒に来てくれるらしい。


「そういう事なら、私達は明日の朝まで別行動で良いわよね?」


 スヴェトラーナさんが、メルシュさんに尋ねる。


「良いけれど、夕食は一緒にね」

「分かったわ」

「昨日みたいに、私が迎えに行けば良い?」

「ええ、そうして頂戴。カナ」


 コセ様が居ないから、神秘の館への鍵をスヴェトラーナさん達に渡せないんですよね。


 メルシュさん達も、それなりに警戒しているみたいですし。


「じゃあ、他のメンバーは魔法の家に戻ってて。くれぐれも、勝手に出歩かないでね。特に夜は」


 今までは参謀って感じだったメルシュさんだけれど、コセ様が居なくなってしまわれた事で、事実上のリーダーになったかのよう。


 そんなこんなで、私はメルシュさんとジュリー様、スゥーシャ、カナさんと一緒に、“名も無き王国の廃墟”の探索を始めた。



●●●



「うん、美味しそうなアケビ」


 “紫雲猿の靴”を使って、高い場所の果実を採取するマリナ。


「それ……食べられるのか?」


 エリューナさんがマリナに尋ねる。


「この皮の部分も食べられますけど、主に食べるのは中の身です」


 マリナが、慣れた手付きでアケビを半分に割り、白い身を顕わにする。


「ぅ……これ、蛙の卵みたいだな」

「黒いのは種で、種はあとで口から出すのが一般的ですよ。私は、噛まずにそのまま呑み込みますけど」

「甘くて美味しいですよ」

「美容にも良いって言うし」

「……お前達、私に食べろと言っているのか?」


 思わずニヤニヤしてしまう俺達。


 外国人に、納豆や梅干しを勧めたがる人間の気持ちが解ったかもしれない。


「……種ごと呑み込むんだったな」

「一個ぐらいな大丈夫だと思いますけれど、あまり種を食べるとお腹が痛くなるので、気をつけてくださいね」

「そ、そうか……どうやって食べるんだ?」

「こうするんですよ」

 

 マリナが半分に割ったアケビに顔を近付け、直接身の部分を口に。


「うーん、美味!!」


 本当に美味しそうに食うな、コイツ。


 そう言えばコイツ、昔からよく食べていた気がする。


「どうぞ」


 別のアケビを差し出すと、渋々と言った感じで半分に割って食べるエリューナさん。


「…………悪くない」


 目から鱗だったらしい。


「日本ではよく食べられる物なのか? 私はスーパーでアケビを見た覚えがないんだが?」


「腐りやすいから、流通に向いてないんですよ」


「私とユウダイは、山に生えているのを直接取って食べてたんです。昔はいっぱいあったし」


 そう言えば、俺が初めてアケビを食べたのって、コイツに貰った時だっけ。


「今は無いのか?」


 ふと疑問に思い、マリナに尋ねる。


「……ここ数年で開発が進んで、森が減ったのよ。中国人が土地を買い占めたとか聞いたけれど」

「私が暮らしていた北海道では、珍しくもない話だ。自衛隊の基地の近くの土地が、広く中国に買い占められているというのは有名だな」


 たびたび色んな国が、日本の土地や水を占領しようとしているって言う話を耳にした事はあったけれど。


「世知辛い話になってしまったな。異世界に居る私達には、関係のない事だと言うのに」

「ハハ……そうですね」


 マリナは、まだ向こうの世界に帰りたいんだろうか?


「そろそろ進もう。こっち側に狼は出ないらしいが、安全ってわけじゃないだろうしな」


 安全エリアで昔話をしたのち、俺達は暫く山を徒歩で下っていた。


「そうね、行きましょう」

「……お前達、ほんの少し前まで余所余所しかったのに……まるで、気心知れた熟年夫婦みたいだな」


「「誰が熟年夫婦()!」」


「見せ付けやがって。さっさと行くぞ、バカップル」


 一人で下山を再開するエリューナさん。


「「……」」


 自然と視線を合わせ……マリナが耐えられないという感じで、頬を赤らめながら逸らした。


「なんだかな……」


 俺に妻が何人も居ること、マリナはどう思っているのだろう?


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