322.想い出の逢瀬
「……結構登ったな」
一夜明けて早々、エリューナさんとマリナの三人で空中散歩。
「まずは一番高い所を目指せという話だったが、こっちで合っているのか?」
「メルシュの情報だから、方角は間違いないはず」
昨夜、改めて情報交換をして詳細は教えて貰っていた。
この広いステージにあの狼の群れ……地味に難易度高いよな?
その分、空は安全に移動出来るようになっているんだろうけど。
「空を行く手段が無かったら、ゲームオーバーだったかもな」
エリューナさんも同じ考えらしい。
「ねー、あれじゃない? あそこに、一際大きな岩があるけれど」
「本当だ」
周りとの色合いで判りづらいけれど、マリナの指し示す方向には、十メートルを有に越えていそうな雄大な岩が。
「あれが目標だったな。すると、ここから北に一キロだったか」
「行こう」
俺を先頭に、歩き続けること三十分が経過。
「いきなり、光が立ち昇り始めた?」
山頂と思われる場所に近付くと、その一画がいきなり安全エリアのように淡く光り出す。
「空からだと見付けづらい。こういう事か」
三人で地面に降り立った瞬間、安全エリアを覆っていた木々が突然消えた。
「徒歩だったら、この森が無い状態で見えるんだっけ?」
空が安全だからこそ、巨岩の標の事を知らないと辿り着くのが難しいようになっているのだろう。
「巨大な石のテーブル?」
「なにやら色々落ちてるな……」
壊れた竹細工のような物から、マリナの武器に似た石まで落ちている。
「少し休憩にしませんか?」
「そうだな」
「じゃあ、軽くなにか食べようか」
マリナの提案に乗って、朝食を用意する俺。
と言っても、一昨日の朝に俺が自分で作って置いた軽食を出すだけだけれど。
お腹いっぱいに食べると動きが鈍るため、夜明けに軽く食べてからはずっと歩きっぱなしだったからな。
「私が作ろうか?」
「出来合いの物があるから、それを食べよう」
昨夜はマリナが作ってくれた和食みたいな料理を頂いた。
味噌と醤油が前面に出ているシンプルな味だったけれど、実家のお婆ちゃんの味付けに似ていてとても懐かしかったな。
「これ、お前の女達に作らせたのか?」
エリューナさんが尋ねてくる。
「いえ、自分で作りましたけど?」
「男なのに?」
今時の男なら、自分で作ったってなにもおかしくないと思いますけど。
「……そんなに、ご飯を作ってくれる女の人が居るわけ?」
マリナが尋ねてきた。
「まあ、それなりに」
主にサトミが作る事が多いけれど、まったく料理しないのはザッカルとアオイくらいか?
「人数も多いから、適当だけれど交代制みたいにはなってる」
「……フーン」
ご飯も食べずに、離れていくマリナ。
ちょっと思い詰めているような感じだったな。
「おい。よく分からないが、さっさと追え」
「……はい」
エリューナさんにそう言われるも……どうしたら良いんだ?
取り敢えずマリナを追うと、茂みの方を見詰めながら立ち尽くしていた。
「……」
「懐かしいよね、ここ」
「うん?」
明後日の方向を見ながら、俺に話し掛けている?
「雰囲気とか似てるじゃん。昔遊んだ場所に」
「……」
「……まだ、私のこと思い出してないんだ」
「へと……ゴメン」
喉まで出掛かっている気はするけれど、なにかが噛み合っていない感じ。
「ちなみに、最後に会ったのはいつなんだ?」
「……七年前」
「へ?」
七年前って……俺が八歳前後の時じゃん。
大人の七年ならともかく、子供が七年も経ったら別人だろう!
「へと……小学校の同級生かなにかか?」
「違うわよ! ……夏休みとかGWに、何度か一緒に遊んだでしょう。ここと似た雰囲気の場所で……」
「長期休みの時に…………もしかして、遠野 茉里奈……へ?」
ほぼ男の子みたいだった、わんぱくな女の子!!
「ようやく気付いたか、この唐変木!」
昔……コイツによく言われた言葉。
「な、なによ、その顔は……」
「いや、昔も今も滅茶苦茶な奴だなって」
最後が七年前なうえ、髪型も雰囲気も全然違うのに……久し振りの再会で気付かないからって俺の顔面を蹴ろうとしたのか、コイツは!
「め、滅茶苦茶ってなによ! アンタが大人しすぎるから、私が構ってあげてたんでしょうが!」
「爺ちゃんちに勝手に上がり込んできて、無理矢理森の中に連れ込んだ奴がなに言ってんだ!」
そのあと、子供だけで森に入るなんて、なにを考えてる!! て、こっぴどく怒られたんだぞ!
「……アンタが可愛かったのがいけないのよ」
「どういう理屈だよ、それ」
やっぱり今も無茶苦茶だ、コイツ。
「気にしてたのが、急に馬鹿らしくなってきた」
「なによ、こんな美人が七年も憶えてあげてたっていうのに!」
「自分で言うのかよ……」
美人なのは否定しないけれど。
「む、昔からたくさん告白されてたんだから、ちょっとくらい自称したって良いでしょう! アンタの弟に告白された事だってあるんだから!」
「アイツに?」
三つも離れてるのに……ませ過ぎだろう、あのガキ。
最後が七年前なら、あのクソ弟が最高でも五歳の時の話じゃねぇか。
「も、もちろん断ったからね! ほ、他に好きな人が……居るからって……」
「…………そうか」
コイツ、俺のことが好きだったのか……て思うのは、さすがに自意識過剰じゃないよな?
「な、なによ……」
「あのお転婆が、随分美人になったんだなって」
「……う、うっさい」
顔を赤らめながら逸らす、短い付き合いの幼馴染み。
俺がお爺ちゃんの家に居るときにしか出会えなかった、元気な元気な男勝りだった女の子。
わりと強烈だったのに、すっかり忘れてしまっていたな。
七年……だもんな。
「忘れてて悪かったよ。そっちは、何故か憶えててくれたみたいだけれど」
「こ、この……」
ギューーゥーーゥゥ、という盛大なお腹の音が響く。
「くぬ……くぬぬぬぅぅぅーーッ!!」
可愛らしい恥ずかしがり方だな。
「ほら、一緒にご飯でも食べよう」
自然と彼女の手を引いて、エリューナさんの元に戻っていく自分が居た。




