304.アップデート内容
「時間だよ」
メルシュの言葉が合図であったかのように、全員の目の前でチョイスプレートが一斉に展開する!
○これより、重大発表を始めます。
いったい、なにが起きるのか。
『私の名は、オッペンハイマー』
「チョイスプレートから人の声が!?」
「いったい何者だ?」
トゥスカとルイーサを初め、皆が驚いている。
「ガルルルルルルルル」
バニラがチョイスプレートに……いや、声の主に酷く警戒していた。
『私は、このダンジョン・ザ・チョイスというゲームの――統括者の立場にある者だ』
「統括者……」
俺達にとってはゲームマスター……裏ボスと言える存在か。
『こうして皆に声を届けるのは二度目。新要素である隠れNPCと大量の新アイテム、ユニークスキルの実装を発表した時以来か』
何年も前のことであれば、アテル達や隠れNPCが誰もこういった事態を知らなかったのは当然のこと。
『今回は、二度目の大型アップデートを行うにあたり、新要素の説明をさせて貰う』
隠れNPCやユニークスキルに比肩するようななにかが、新しく追加されるってことか。
『まず一つ目が、ライブラリシステム』
図鑑?
『これまではオリジナルプレイヤーや、隠れNPCの専売特許であった武具効果、スキル含めたランクの詳細知識などを、誰でもLv1の状態から、チョイスプレートより見る事が出来るようになる』
俺達にはイマイチ恩恵がないけれど、少なくともプレイヤーに有利になる要素。
『これまでは、鍛冶屋などに行って職人に見て貰わなければならなかったが、手に入れたその場で調べることが出来るというわけだ』
ゲームだったら、備わってて当然のシステムだけれどな。
『二つ目が、SSランク武具の追加だ』
「SSランクだと!!?」
ジュリーが、思わずと言った様子で声を荒げた。
「SSランクなんて、私は知らない!!」
『SSランクは、Sランク武具を超える特別なアイテムだ。その強力さ故に、ユニークスキル同様、一人一つしか装備することが許されない』
一見、プレイヤーの有利になる要素にも思えるけれど……。
『ちなみに、SSランク武具は全部で13種類のみの実装となり、ユニークスキル同様、同じ物は二つと存在しない』
「最初からSランク装備を持っている隠れNPCのアドバンテージを潰し、プレイヤー同士でレア武器の取り合いを誘発させやすくする……考えたわね」
「どんな性能か知らないが、手に入れた奴は厄介な敵になりそうだ」
メルシュとシレイアが、不穏なことを口にしている。
『いずれ、少しずつ種類を増やしていくことになるだろうが、Sランク武具とは一線を画す力を秘めている。トッププレイヤーとなるには、必須のアイテムと言って良いだろう』
下手をすれば、内部分裂を起こすパーティーやレギオンが増えそうだな。
まあ、うちのレギオンは譲り合いの精神の持ち主が多いから、この手のことでは問題ないだろうけれど。
『三つ目は、新たな隠れNPCの追加だ』
「「――は?」」
メルシュとジュリーから、非情に冷たい声が。
『これまでは、第三ステージから五十ステージまで一体ずつしか用意されていなかった隠れNPCだが、七十ステージまで追加することにした。偶発的に手に入れられる場合もあるだろう。隠れNPCの詳細に関しては、アップデート後にライブラリを参照してくれたまえ』
「またプレイヤーに有利な要素だけれど、絶妙に私達には利益が無い内容ばかり!」
ジュリーの言うとおりだな。
デルタの裏切り者から、ジュリーにもたらされた隠れNPCの入手方法は五十ステージまで。
つまり、今回新たに追加されるという隠れNPC二十体を、俺達が今後手に入れられる可能性は低い。
それどころか、この先に既に進んでいる古参プレイヤーが手に入れやすいよう、細工している可能性すらある。
なぜなら、デルタ側にとって最優先に潰したいのは、俺達《龍意のケンシ》と、アテル率いる《日高見のケンシ》だろうから。
「今回の追加要素、他のプレイヤーにはない俺達の強みを、一つでも多く無くすのが目的かのようだな」
『最後の四つ目は、バウンティーハンターシステム』
「賞金稼ぎ?」
なんだ……嫌な予感がする。
『バウンティーハンターシステム実装後、特定のプレイヤーには大量の懸賞金が課される』
「……まさか」
『懸賞金は全てのプレイヤーに課されるが、所持アイテムやLv、パーティーリーダーやレギオンリーダー、幹部、レギオン規模や同盟相手などによってリアルタイムに変動する』
チョイスプレートが動き、何故か俺とアテルの顔が映し出される!
俺の首に掛かった懸賞金は、120000500G。
対し、アテルには13007100G。
自分の命に値段を付けられるというのは気持ち悪いけれど、アテルよりも低かったのには安心したような……悔しいような。
「この人間を殺せば、確実にこれだけの金が手に入る。そういう目安を作り出したわけか」
残念ながら、自分がお金の奴隷にされていると気付かない輩は多いからな。
十中八九、他人の命を金に換えたいと望む輩は現れるだろう。
『これらの金を手に入れるためには、ギルドで職業を”賞金稼ぎ“に転職せねばならず、転職するとレギオンに入る事が出来ない。ちなみに、ギルドで手続きすれば元の職業に戻すことも可能だ。ただし、そのためにはそれまでに得た賞金の二割を返納して貰うことになる』
つまり、誰でも殺せば賞金を手に入れられるわけじゃないって事か。
簡単に職業を戻せないのであれば、悪用しようとする輩はある程度限られるだろう。
ギルドが必要なのと違約金の有無を考えると……賞金稼ぎになった人間の大半は、ギルドがある街を縄張りにしそうだな。
『賞金稼ぎはレギオンに入れない分、レギオンでなければ通過できない場所の行き来も可能だ。更に、ギルドではレギオンリーダーの懸賞金しか見られないが、行き交う人間の額をリアルタイムで見ることが可能になる』
賞金稼ぎの目には、俺達の首に幾ら掛かっているのか丸分かりってわけか。
『ちなみに、他人の懸賞金の額を確認するだけなら、ギルドで購入可能になる“賞金稼ぎ”のサブ職業で可能だ』
レギオンメンバーの額は、ある程度知っておきたいな。
他の人間と比べて高ければ高いほど、強敵に狙われる可能性が高くなるだろうから。
『ちなみに、我々運営側が優秀だと判断したプレーヤーには、ボーナスで懸賞金を追加する。今表示されているこの二人のようにな』
「わざわざ、ご主人様達の顔を憶えさせるかのように!」
「十中八九、それが狙いなのかと」
トゥスカとノーザンの憤りの声。
『以上が、今回のアップデート内容となる。そして、これより約半日程掛けて大型アップデートを行う。その間、魔法の家のある領域、宿泊場所の部屋から一歩も出ない事をお薦めする。命の保証が出来かねるのでね』
その言葉を最後に、チョイスプレートが一斉に閉じられた。




