表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・ザ・チョイス~デスゲームの中で俺達が見る異常者の世界~  作者: 魔神スピリット
第9章 新たなる門出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

315/956

301.獣の浮浪児バニラ

「コセー!!」


 俺がノーザンと一発ヤ……お風呂から上がって食堂に行くと、モモカが駆けながら抱き付いてきた。


 お風呂に入っていたからか、珍しく寝間着姿。


「元気いっぱいだな、モモカは」

「今日ね、新しいお友達が出来たんだよ!」

「それは良かったな」


 例の、バニラって女の子だっけ。


 いったいどんな子なのか。


「おいで、バニラ」

「キャウ!」


 モモカと同じ寝間着姿で……まるで犬のように駆けてきた、長い赤髪の少女……この子がバニラ?


 モモカよりは身体が大きいけれど、明らかに俺より年下。ちょうど俺とモモカの間くらいか?


「ハー、ハー、ハー、ハー」


 舌を出し、犬のような呼吸を繰り返すバニラ。


挿絵(By みてみん)


「へと……犬のごっこ遊びをしてるのかな?」


 違うとは思いつつ、可能性がありそうなケースを当たる。


「ううん。バニラは喋れなくて、動物さんのように動くんだよ! 可愛いでしょ!」


 俺にはむしろ、違和感が凄くて怖いくらいなんだけど……。


「モモカ、この子はいったい……」

「怖い人から、モモカを助けてくれたんだよ! よくわからないけれど、ずっと一人だったみたい。森の方にママが居るみたいだけれど」


 そう言えば、祭壇とは別の方角、王都の外側に森が広がってたな。


「クエストが終わったあと、モモカとは一度離れ離れになったようだけれど、わざわざ匂いを追って会いに来たようだったわ」


 ザ・大和撫子という感じの美少女、サトミが説明してくれる。


「でも……この子に、いったいなにがあったのかしら?」

「少なくとも、彼女はこのダンジョン・ザ・チョイスで生まれた子でしょう」


 そう言ったのは、寝間着姿で現れたドライアドの隠れNPC、ヨシノ。


「もしかして……モンスターに育てられたとか?」


 狼に育てられた子供は、まるで本物の狼と同じように生きると言うし。


「ちょっと考えがたい事ですが、あり得なくはない……というより、状況的にそうとしか考えられないですね」


「でも、この世界のモンスターって本当に生きているわけじゃないんでしょう? 子育てなんて複雑な行動が出来る物なの?」


「ええ、そこがこの説を否定してしまう部分ではあるのですが……」


 サトミもヨシノも、困惑を隠せないらしい。


「色々特殊な事情があるみたいだね、その子」


 会話に参加してきたのはメルシュ。


「一週間に一度の納税をクリア出来ないと、強制的に奴隷にさせられてしまうはずなんだけれど……その子、所持金が凄いうえにアイテムを色々持っていて……」


 メルシュが、なぜか言い淀んでいる?


「その子……Lvが55なんだよね」


「55……」

「あらま」

「凄まじいですね」


 俺達の中で一番Lvが高いモモカよりも、更に上?


「Lvだけで言ったら、年少コンビが一番強いっていうね」


 メルシュ、地味に悲しいから止めて。


「じゃあ、頑張ってお姉さんが色々教えてあげようかしら? まずは、お箸の持ち方からで良い?」

「言語からの方が良いのでは? 言葉が発せなければ、ろくにスキルなどを使用できませんし」



「……いや、そういうのは止めておこう」



 サトミとヨシノの案をやんわりと却下する。


「あら、良いの? 即戦力に出来たかもしれないのに」


「狼に育てられた子供を保護して、人間らしく生活させようとした結果……過剰なストレスのせいか、早死にしてしまったという話を聞いたことがある」


 とても嫌そうな様子だったそうで、その子供は大きなストレスに晒されていたはず。


 結局、人間らしく生きられるようにしようとしたこと事態、人間側のエゴの押し付けだったって事なんだろう。


 モモカの手のお菓子を、顔を近付ける形で直接食べてるし。


「ちょっと心は痛いけれど、ペット用のご飯入れかなにかをコンソールで探してみよう」


「では、彼女は戦力と思わない方が良いかもしれませんね」


 ヨシノの言葉に同意しようとしたその時、メルシュの不適な笑みが見えた!


「め、メルシュ?」

「まさか、私が考えていたプランに、こうまで打って付けの子が現れるなんてね」


 ……その悪そうな表情の下でいったいなにを考えているんですか、メルシュさん。



            ★



 夕食時、フェルナンダを除くいつもの面子に加え、レリーフェさんとバニラも食卓を共にすることに。


「見たことのない食事が多いな」

「食べたいのがあったら言ってね。私が、レリーフェちゃんの分まで取り分けちゃうから♡」


 サトミ、レリーフェさんに対しても安定のちゃん付けなのか。


「エルフは菜食主義だから、野菜だけで頼む。魚などの、動物でダシを取っている物もダメだ」


「あら、それだとほとんど食べられなくなっちゃうわね」


 菜食主義者……か。


「まったく食べられないというわけじゃないんですよね?」

「まあな。だが、身体に合わないのは確かだ。敏感な者は、肉や砂糖に対して拒絶反応を起こす場合もある。私の副官がそうだった」


「副官?」


「……私は、エルフ族を守護する六つの騎士団、そのうちの一つの長だった」


 そんな彼女が奴隷だったという事は……。


「私が率いた森の騎士団は、デルタとの戦いに敗れて壊滅した。半数は落ち延びたと信じたいが……生き残った半数は、奴等に捕まってしまった」


 どこか遠いところを見て、慚愧の念に駆られているようにも見えるレリーフェさん。


「湿っぽい話をしてしまったな。ところで……あれはどういう事なんだ?」


 レリーフェさんが酷く嫌悪感をあらわにしているのは、バニラに対して。


 予想通り、バニラは犬や猫のように三つのボールに入ったオカズやスープを床で食べている。


 お尻を覆うくらいに長い赤髪を揺らしながら、筋肉質な手脚を四つん這いにした状態でガツガツベチャベチャと。


 舌の使い方からして、どちらかと言えば猫かな?


「ああいう扱いをされている奴隷を見たことはあったが……まさか、神代文字を使うお前達がこんな!」

「いや、違うんだ。その子はなんというか……」


 どう説明したら良いんだよ、これ。


 俺達だって、バニラの事をなにも分かっていないのに。


「バニラ、もう全部食べたの? 偉ーい!」

「キャウ~♪」


 モモカが撫で撫ですると、笑顔を振り撒くバニラ。


 俺だって、複雑な気分になるよ。


「一応、皆にも説明しておくね。この子はバニラって名前で、クエスト中にモモカを助けてくれたらしいんだけれど、この通り獣のように振る舞うし、喋ることも出来ないんだよ。でも、無理に人間らしく振る舞わせようとはしないでね。酷いストレスを与えちゃうかもしれないから」


 メルシュが、事情を知らない皆にも簡潔に、俺の意を汲む形で説明してくれる。


「懐いているモモカと、パーティーは固定にした方が良いだろうな」


 とはいえ、他の人間と連携が取れるのか心配だ。


 モモカも含めて、攻略不参加の方向に持っていけないだろうか。


「もしや……浮浪児の獣?」


「レリーフェさん、なにか知っているんですか?」

「森の方に行くと、獣のような子供の姿をしたモンスターに襲われると、奴隷を買いに来た奴等が口にしていた事がある……仲間がやられたとも」


 バニラ……殺した人数は、一人や二人じゃないのかもしれない。


「大丈夫だよ、バニラは。私の言うこと聞いてくれる良い子だもん!」


 お口を拭いてあげるモモカ……これじゃあ、ペットと飼い主の関係まんまだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ