298.最後の首
「なんだよ、このムキムキ女はよ!」
いきなり現れたと思ったら、なんなんだ、この髭ダルマは?
「しかも獣人……エルフの女はどこだッ!」
「うぜぇ野郎だな」
”巨悪を穿て”を構える。
高い所に来れば仲間が見付かるかと思って丘の頂上に来てみれば、汚らしい男が出て来るとはよ。
「額に奴隷紋か。言動からして、ろくな奴じゃなさそうだな」
ムカつくタイプだぜ。
始まりの村で、俺を買った奴等よりも目が淀んでやがる。
「うるせー!! 俺はアイドルのタツヤだぞ!! 抱かれたい男、4位になった事だってあるんだぞ!!」
「抱かれたい男? わざわざ、そんなバカみてーな事を一人一人に訊いて回ったのか? お前、頭おかしーだろ。どんだけ暇なら、そんなアホな事に時間を費やそうと思えるんだよ?」
「――――テェンメぇぇぇぇッッッ!!!」
コイツ、手にしているのは鉄の短剣かよ。
他の身に着けている物も大した事なさそうだし……どうやってこのステージまで辿り着いたんだ?
「ああ、マジでうぜー」
どうしてこんな小悪党に――俺が時間を割いてやらなきゃならねぇんだか。
「……あんがとよ」
「ああ!? 急になに言ってんだよ、獣人女!!」
俺の”巨悪を穿て”に、文字が三文字刻まれている。
今までどう頑張っても、安定して引き出せなかったのによ。
この感覚が、俺が文字を引き出す際のキーってわけだ!
「悪党は――全員死ね」
「ヒッ!!」
力任せに振って首を刎ねた”巨悪を穿て”には、文字が六文字まで刻まれていた。
「マジで感謝したくなって来たぜ……あれはジュリーか?」
かなり遠くで、橙の翼を翻して戦っている奴が居るのは間違いない。
忘れもしねー。あの翼のせいで、俺がレギオンメンバーにどれだけ笑われた事か!
まあ、そのおかげでコセと……一つになれたんだけれどよ。
『と、突発クエスト終了だ~!! しょ、勝者は、元奴隷側だ~!!』
耳障りの悪い声が響く。
『勝利した奴隷側の者共には、2000000Gの報償~、Aランク武具もそのまま与えられる~ッ!!』
「俺達には関係ねーな」
部外者にも、なんか寄越せよ。
『巻き込まれただけの人間共には~、迷惑料として~、500000Gが~、支払われる~。未使用の”逆転の紋章”は~、一つにつき100000Gと交換される~……苦々しいッッ!!』
「少ねーなー」
もうちょい寄越せっての。
「お?」
○勝敗を決した貴方には、特別報酬としてこちらが贈られます。
○逆転奴隷堕ちクリアの特別報酬として、”奴隷引換券”×3を手に入れました。
○引換券一枚につき、奴隷を一人タダで購入できます。
世界一要らねープレゼントだぜ。
「まあ、スゥーシャやクマムみたいな、掘り出し者が居ねーとも限らねーか」
他人に買われるって体験は、マジでムカつくことこの上ねぇけれどよ。
そうこうしているうちに、俺の身体が光に変わりだした。
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「ハアハア、ハアハア」
「いっそ、抵抗しない方が楽だったでしょうに」
槍のエルフに終始追い詰められたまま……身体が光に変わりだした。
「トドメを刺せなかったのは口惜しいですが、すぐに見つけ出して引導を渡して差し上げます。その傷なら、まともには動けないでしょうし」
「ふ……ざけんなzj3kb」
無理矢理六文字引き出して戦い続けていたからか、頭がおかしくなり……そう。
「絶対……アンタより……強くなって……」
視界が、光に染まっていく。
●●●
シャシュカを振るう黒尽くめの女が、虚空を手で押して、急な方向転換から斬り掛かって来る!
「もう、突発クエストは終わったのに!」
『私達には、そんな物は関係ない!』
この女、身体が光に変わりだしても戦うことを止めようとしない!
『”衝脚”!!』
「――キャああああああ!!」
翼の上から、蹴り落とされた!!
「ハアハア……強い」
強力なスキルを使用しているわけじゃないのに……こっちの力を封じるように動かれ、良いように転がされている気がしてならない!
「ぁぁぁああああ!!!」
『ツェツァ!?』
ガブリエラと戦っていた方の女が悲鳴を上げると、シャシュカの女の気がそちらに逸れた!!
「――”魔力弾”!!」
黒い弾丸を左手から撃ちだし、女の仮面を吹き飛ばす!
『やってくれる」
崩れていく仮面の中から、パールグレイの長い髪が棚引く。
視線が合ったのは一瞬。
すぐさま、ツェツァと呼んだ女を助けに。
その後ろ姿を呆然と眺めながら、私の身体は……光へと変わっていった。
●●●
「虹のドームが……」
アテル達と共に祭壇を降り、門番に見張られながら王都入り口で待つことおよそ二時間……汚らしい虹のマーブルカラードームが、ようやく消え出す。
「取り敢えず、全員無事みたいだな」
「こっちもだ」
お互いに死者は出なかったようだけれど、イコール全員無事とは限らない。
「急いで探しに行こう」
「ご主人様、祭壇の上にサトミさん達が」
トゥスカの指摘にそちらを見ると、メグミが手を振っているのが見えた。
「どうやら、大抵の人間はクエスト開始前の場所に戻っているみたい。”逆転の紋章”を使われて奴隷化した人間は、魔法の家か主の近くに送られたみたいだけれど」
メルシュが教えてくれる。
「なら、そっちで合流出来るかもしれないな」
「捜索隊と魔法の家での待機組を分ける。《龍意のケンシ》メンバーと接触した場合、同盟を組んだことを打ち明け、ピンチの時は助力するように」
「こっちも同様だ。十五分は捜索に費やし、拠点で合流するように呼び掛ける! 《日高見のケンシ》のメンバーを見付けた場合も同様だ! 構わないか?」
最後にアテルに尋ねる。
「ああ、それで頼む! 聞いていた通り、合流が最優先だ!」
「俺とナオ、クマムとトゥスカの二組で動く。メルシュは、サトミ達と情報交換を頼む!」
それぞれに指示を出し、王都内に繰り出そうとした時だった。
○明日の昼前、11:11に重大発表と大型アップデートあり!
いきなり全員の目の前にそれぞれチョイスプレートが出現し、意味の判らない事が書かれている!
「こんな時に!!」
○その時間帯、魔法の家内か、宿泊場所の部屋内に居ることを推奨。
○それ以外の場所に居た場合、命の保証は出来ません。
○ダンジョンに挑んでいる方で魔法の家を所有していない場合は、早急に次のステージへと進んで安全を確保されたし。
「マスター、このメッセージ……たぶん、全てのプレーヤーに向けて送信されているよ」
「アテル、今までにこういう事は?」
「いや、一度も無い」
明日……いったいなにが起きるって言うんだ。
第8章 完結です。




