292.ネクロマンサーのメフィー
「大丈夫ですか、クリスさん!」
「た、たぁすかりました~」
黒尽くめの人間に襲われていた所にタマが駆け付けてくれて、事なきを得まぁしたぁ。
「さっきの人、強かったですね」
「逃げる最中も、ダガーで私のブリッツぅ、弾きまぁした。相当な手練れでっす!」
ユイとは違うけれどぉ、達人のソレのような物を感じて……死のウィンドを感じちゃいまぁしたよ。
「あ、お二人とも、無事でしたか」
合流したのはぁ、テイマーのサキとカナ!
「良かったです、サキさん! カナさん! ここに来るまでに、襲われたりしなかったですか?」
「モンスターを引き連れていたからか、私を見た人達全員、逃げていっちゃうんですよね」
「確かに、皆目を丸くして慌てて逃げてたわ」
「なるほどぉ」
確かに、いかにも強そうなのを三体も引き連れてますもんねぇ。
「それで、私はカナさんと一緒に宝箱を回収しながらマスター達を探すつもりでしたが、お二人はどうします?」
そっかぁ、サキは隠れNPCだからぁ、宝箱を開けられるんですねぇ……て、私もですねぇ。
「私は、機動力を生かして一人で探しに行こうかと。クリスさんは、サキさんと行ってください」
「その方がぁ、良さそうですねぇ」
元奴隷扱いになっているとは言え、私とサキなら奴隷だとは思われづらいでしょうしぃ……サキのモンスターが居ればぁ、タマが居なくなってもなんとかなりますかねぇ。
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「ぉおラァァァッ!!」
”歓喜の音を打ち鳴らせ”を思いっ切り振り、女エルフの手脚を掴んで拘束していた鎧の男二人をぶちのめしてやった!
「クズ共が!」
「あ、あの……ありがとう……ありがとう、ございますッッ!!」
格好からして、奴隷のエルフ。
服は破かれ、目のやり場に困るような姿……他種族の女の私でも――変な気分になってしまうくらい、凄まじく清楚な色香を放ってやがる!
「お、おう……そ、そんなに泣くなよ」
「二人とも死んだみたいだよ、バッファ」
さっき合流したマリサの奴が、私がぶっ飛ばした奴の死を確認してから近付いてきた。
「あ……額に」
マリサの奴隷紋を見て、怯える女エルフ。
「時間も無いし、取り敢えず安全を確保してあげるから、許してね」
「あ、おい!」
”逆転の紋章”を使用して、女エルフをどこかへと転送してしまうマリサ。
「彼女、どう見ても戦いに向いてなさそうだったし、あとで奴隷から解放してあげれば良いでしょ。そのあとのことまでは、面倒見切れないけれど」
「まあ……そうだな」
このまま野放しにしちまうよりは、遥かに人道的か。
「よ、良かった。合流出来て……」
泣きべそかきながらやって来たのは、デボラと……。
「待たせたわね、お待ちかねの美少女よ」
見た目も言動も痛いマサコが、涼しい顔でやって来た。
コイツこう見えて、神代文字無しなら《日高見のケンシ》でも上位の実力者なんだよな。
「マサコがデボラを守ってたのか」
「たまたま近くに居たから、なんとか助けられた」
「な、なんで私……奴隷契約なんてしていないのに、命を狙われなきゃなんないのよ!」
よく分かんねーけど、コイツはデルタの裏切り者だから、ヤバい奴等の近くに転送されでもしたのかもな。
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「ほう、レギオン同士で同盟を組んだのか」
偶然出会ったルイーサとシレイアに、コセとアテルが組んだことを教えた。
「さてと、宝箱を回収しに行きたい所だが……お客さんが来たようだ」
噴水のある見晴らしの良い広場に居たせいか、奴隷と思われる人間達に囲まれてしまう。
大半がエルフだけれど、異世界人や獣人、人魚も居るみたい。
「ク! サトミ様を探しに行きたいのに!」
コイツら全員、かなり殺気立っている。
「敵だというのなら、容赦しないよ」
「アテル様と再会するまで、死ねるものか!」
アムシェルとアデールって人が、それぞれ剣を抜いた。
「リンピョン、抜けられそうなら包囲を抜けて行け。他の人間に情報を」
「ルイーサ……判ったわ!」
無事で居てくださいね、サトミ様!
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「……因果応報か」
「ま、待ってくれぇぇ!!」
「死ねッッ!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇッッッッ!!!」
私が貸した“深淵を覗く瞳”を手に、元主の中年異世界人を滅多刺しにしている人魚と……その様子を、涙を流しながら見ているエルフの女。
奴隷関係が逆転した事で、男は抵抗できずに貫かれ続けるのみ。
……私を買ったのが、アテルでよかった。
「ハァー、ハァー、ハァー、ハァー……」
広範囲に飛び散った血ごと、男の死体が消えていく。
「……ありがとうございました、キジナ様」
私の事を知っていた人魚は、私に銛を返したのち、女エルフの元へ。
「全部……終わったよ」
「うん……うんッ」
二人が私を見て……抱き締め合う。
「出来るだけ、苦しまないようにしてやる」
“深淵を覗く瞳”に六文字を刻み――”ワッカカムイ”を発動!
「”深淵銛術”――アビスハープン!!」
全力の一撃で、二人の上半身を……吹き飛ばしてやった。
「二人は……痛みを感じずに逝ってくれたのだろうか」
「姉さん……なんで」
「……スゥーシャか。早い再会だったな」
まさか、不肖の妹に見られるとわ。
「二人は死にたがっていた。復讐を遂げたら、私に全てを差し出すと言ってくれてな」
「どうして……説得しなかったのですか!!」
「一応は、レギオンに誘ったがな。だがどちらも、生きていく気力が絶えていたのだ」
「だ、だからって!!」
人としては、お前の方が正しいのだろう。
だが、絶望に抗うには、こちらもそれなりに堕ちる必要がある。
理不尽な邪悪を貫くほどの狂気を、自身の心に刻み付けなければ――奴等は寄生虫のごとく付け入ってくるのだから!
「お前には解るまい。絶望した人間の心根など」
あの二人の選択と私のしたこと、それらを肯定する気は無い。
だが、お前のよう部外者に――とやかく言われる筋合いも無い!!
「姉さん……やっぱり、私は姉さんを止めます」
「良いだろう。いずれは敵同士、殺し合うのが定め――ここで雌雄を決するのも悪くない!」
神代文字を刻んだ銛を互いに手にし――人魚の王族同士の、唯一無二の姉妹による殺し合いが……始まった。
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「ノルディック風情が、我々に叛旗を翻すつもりか!」
「恥を知りなさい、貴方達!!」
獣人や人魚、エルフ、異世界人と思われる人間達に取り囲まれている、額に奴隷紋が浮かんだ夫婦。
他の仲間は全員、抵抗できずに殺された様子。
「これが、人の業ですか」
「ほら、トカゲの姿になりなさいよ! レプティリアン!!」
「それだけは許してやるよ!!」
「貴様ラァァァッ!!」
生き残っていた夫婦が、挑発されるままにレプティリアンの本来の姿へ。
「隠れNPC、ネクロマンサーのメフィーとして、貴男方の最期を看取りましょう」
同じ、罪深き存在の一人として。
『モモ……カ……』
『……モモ……ちゃん』
スキルも武器も封じられた彼等は、集団に何度も何度も武器を振り下ろされ……惨殺された。
「そろそろ、マスター・マリサを探しに行きましょうか……あら?」
少し離れた場所に、私と同じ物を見ていたであろう小柄な牛の獣人が一人。
「彼女……聞いていた特徴と一致しますね」
凄い形相をした彼女に、私は名前を尋ねてみる事にした。




