281.死神の目覚め
メインで書いていた作品が完結しましたので、暫くこちらに注力する予定です。
「”爆裂魔法”――バーストバレット!」
爆裂の散弾が向かってくる。
「”魔斬り”――乱」
意図せず口にした言葉に身体が引っ張られ、斬首の死神のごとく乱舞し――全てを切り消した。
「そ、そんなバカな! だったら――”煉獄の業火炎”!!」
紫炎の大火球が上空に生まれ、男の手の動きに連動して落ちてくる。
「装備セット2」
近接戦から、魔法特化タイプに装備を変更。
「今宵に感謝を――”暁光魔法”、デイブレイクレイ」
夜の間、魔法の威力を倍加してくれる”殲滅のノクターン”から、闇を砕く暗い光を放射する!
「”撃火の赤甲”を使って発動したのに、防がれるとはな。”殲滅のノクターン”を使ってるなら、当然と言えば当然だがよ!」
「オリジナルプレーヤーか」
でなければ説明がつかないほど、アイテムに詳しすぎる。
「なるほど。もしかしなくても、貴方が彼等の頭脳なのね」
「まったく、酷ぇことする女だぜ。お前がくれた食い物、地面の土ごと美味ー、美味ーつって食ってたアイツらを、あんなに残酷にぶっ殺しちまうなんて……ちゃーんと、俺が仇を取ってやらねーとなぁー!」
「……そう」
心が……恐ろしいほどに暗く、冷たく……静かだ。
全ての物が、取るに足らない事に思えるくらいに。
「まずは、そこでねんねしている獣女からだ! ”撃火弾”!」
左腕の甲手の効果で、火炎の弾をザッカルに向かって撃ちだした!
「”瞬足”!」
左手の”シュバルツバルトブルーム”の穂先で、払うようになんとか防ぐ!
「――”殲滅の夜”」
夜屋外でしか使用できないノクターンの効果で、空から幾つもの黒き帚星を降らせる!
「クソが! ”煉獄卒の大悪魔”!!」
紫炎を纏った巨大な悪魔が、奴の背後の地面から上半身だけを顕わにし――男を守ってしまう!
「”撃火の業炎”!!」
また甲手の効果なのか、今度は炎の奔流が放たれた。
「”暁光魔法”――デイブレイクランス!」
破光の槍で炎を突き裂くも、男は走りながら避け、私達の周囲を駆けたまま炎球を連射してくる!
しかも、狙いは足元のザッカル!
でも、この程度ならなんの問題も無いわ!!
「ハァァァッ!!」
全ての炎球を、”殲滅のノクターン”を振るって搔き消す!!
「”煉獄の業火炎”!」
三百六十度に意識を向けさせてからの、上からの強襲!
この男、戦い慣れし過ぎている!
連射される”撃火弾”を”烈火剣尾”で切り裂きながらザッカルを抱え、”大蜘蛛の射甲”から糸を伸ばして遠くの宝箱に接着――身体を引っ張らせてなんとか躱す!
凄まじい余波の中、急いでザッカルを寝かせて駆け出す!
「装備セット1」
近接戦向け装備に戻しながら、肉迫!!
「”撃火の業炎”!」
神代文字を、”宵闇の暗闘を制せよ”に三文字刻む!
「”飛剣・暗閃”!!」
強化した黒き斬撃を飛ばし、炎の奔流を切り裂いて貰いながら――真っ直ぐに突き進んでいく!
「”暗黒鎌術”――ダークネススラッシュ」
炎の先に居た男の身体を、左腕の甲手ごと真っ二つに。
「地獄で、報いを受けるが良いわ」
「……死んだら……それで終わ…………」
言葉が途切れて間もなく、男の身体は光となって消えていった。
○○○
城内部に突入直後、必死の形相で仕掛けてきた女の首を刎ねる。
「今の、手負いだったようだね」
……私が襲われたにも関わらず、宝箱を開けるのを優先していくシレイアさん。
信頼されてるって事……かな?
「数が多いだけで、なかなか良い物が出ないねぇ」
城の内部は、外見と違ってだだっ広いだけのホールが広がっている。
四カ所ある入り口を全て見渡せて、中央には幅が広めの螺線階段があるだけ……あのデルタの人、ちょっと手を抜きすぎなんじゃないかな?
「手負いだったようだし、どこかのパーティーに敗北して、一人だけで逃げてきたって所かしら。罠解除」
カオリお姉ちゃんも、ホール内に乱雑に置かれた宝箱をどんどん開けていく。
剣戟の音……上の階、まだ誰か戦っているみたい。
「あった。”雷の因子の鍵”ですって」
「コッチは、”雲の因子の鍵”だね」
お姉ちゃんとシレイアさんが、それぞれ足りなかった鍵を見付けたみたい。
「三種類全部……もう見付かったんだ」
「上に居る奴等がもう揃えてるんなら、間に合わないかもしれないね」
「まあ、そうなったらそうなったよ。最悪、誰が手に入れたかだけでも知っておきたいし」
喋りながら、鍵を合体させる二人。
「急ぎましょ――誰か来たみたい」
お姉ちゃんがいち早く気付いた方角、私達が入ってきたのとは逆側の扉から……五人の女性が入ってきた。
角がオデコから生えた白髪の子と、口元を黒い布で覆ったピッチリ服の忍者みたいな黒髪ポニーテールに、棒を持った……たぶん猿の獣人、刃物が生えたガントレットを持つ赤い人魚に、白い法衣を着た銀髪の人。
「あれ、アマゾネス?」
「お前、バロン! それにシノビ!」
シノビって、十三ステージの隠れNPCのこと?
「あらあら、ちょっと厄介そうね」
軽い言動のお姉ちゃんだけれど、腰の柄に手を掛けながら鬼気を纏い始めた。
厄介な相手だって、直感したんだ。
「ま、待った!」
シレイアさんが、慌てて止める。
「リリララ……だよね?」
銀髪の人が、シレイアさんを別の名前で呼んだ?
「……今はシレイアって名前なんだよ、レイナ」
シレイアさんが名前を知ってるって事は……。
「もしかして、前にシレイアさんと契約していた……」
「ああ、その通りだよ。アンタも久しぶりだね、ハヌマー」
「……うす! また会えて嬉しいっす、リリララさん!」
猿の獣人の女性が、涙を浮かべながら乱暴に頭を下げた。
「リリララ……ううん、シレイア……あの時は、ごめんなさい」
「別に謝らなくたって良いさ。アタシは隠れNPCだからね。それより……カガリは?」
「水上都市で別れてからは、行方は判りません」
「ユリコとリリララさんが死んで、さすがに嫌気がさしたみたいっす」
前は、あの二人とパーティーを組んでたんだ。
「そうかい……二人は、元気だった?」
「私達はなんとか。少し前に新しい隠れNPC、シノビのサザンカさんと契約しましたし」
「主がお世話になったようですね、シレイア。礼を言います」
慇懃無礼に頭を下げるザザンカ。
「そうか……まあ、今は敵同士だ。馴れ合いはこのくらいにしておこう。なあ、バロンのミレオ」
「ん? なんで、私の名前を知ってんの?」
「アタシと今のマスターは、《龍意のケンシ》に所属してる」
「ああ、古城でヤってたコセって男か。ソイツから聞いてたってわけね」
やっぱりこの人、白面の男と契約したっていう隠れNPC。
『……突発クエスト、光と虹の城がクリアされました』
さっきの癇癪女の、気落ちしたような声が響き渡る。
『レイナ!』
螺旋階段から降りてきたのは翠の人魚と、その手に掴まっていた白面の男。
『クエストは終わった。まさか、やり合うつもりじゃないよな?』
白面の男が尋ねて来る。
「ちょっと世間話をしていただけだよ。それに、アンタにはうちのリーダーが世話になってるしねー」
『世話に?』
『か、鍵の持ち主には特典として、一本につき100000G。完成品持ちには500000Gが支払われます』
そうこうしているうちに、私達の身体が光になって消えていく。
て、鍵を持ってるのカオリお姉ちゃんじゃん……狡い。
「明日、私達の方から挨拶に行くわ。その時はよろしくね、ユイ」
お姉ちゃんがそう言った次の瞬間には、私達は元のコテージへと転移していた。




