278.壊れた人形
「”抜刀術”――紫電一閃」
「”鞭剣術”――ハイパワーウィップブレイド!」
それぞれ、大型のモンスターを切り裂いて光に還す。
「罠解除」
シレイアさんが宝箱を開ける。
「”ユグドラシルの樹液”か。これも珍しいアイテムだけれど、暫く使い道がない奴じゃん」
「こっちはお金だったよ」
200000G……まあ、地味に役に立つかな。
貨幣システムって、なんだかとても不自然で、そのシステムの存在意義を考えれば考えるほど気持ち悪い。
競争を煽る貨幣システムを利用した社会の発展は、あまりにも無駄が多すぎる……小娘の浅知恵かもしれないけれど。
「虹の城、中から戦闘音がするねぇ」
「もう……突入した人達が居るんだ」
ここから見える入り口から入った人は見ていない。てことは、四方にそれぞれ扉があるのかな? それとも前後だけ?
だとしたら、公平を期すためにも、上に行くための階段は建物の中心にありそう。
「鍵はまだ一つも見付かっていない……どうする、マスター?」
「カナさん達から離れすぎるのも恐いし、まずは近場の宝箱を――」
空から、モンスターが強襲してくる!!
「”二刀流刀剣術”――――双波断」
誰かの交差した真空の刃が、鳥型モンスターを切り裂いた?
「……まだ十八ステージに居たんだ、カオリお姉ちゃん」
二振りの太刀を持つ腹違いの姉が、そこに居た。
「一度はボス部屋近くまで行ったんだけれど、虫の知らせって奴かしらね。嫌な予感が込み上げてきたから、コッソリ戻ってきてたの」
「相変わらず、予想外なことをするお姉ちゃんだ」
「ユイにだけは言われたくないけれど」
刃を下に向けた状態で近付いてくるカオリお姉ちゃん。
「手を組まない? クエストのクリア報酬は後で話し合うとして、こっちは三人だけだから戦力が足りなくてね。探索向きなのは私くらいだし」
お姉ちゃんの後ろから、いつかの水牛獣人さんとキツめの金髪ショート美人が。
「どうする、マスター?」
「組んでも良いけれど、条件がある」
「なに? 出来る範囲で聞いてあげる」
「今度、カオリお姉ちゃんとアテルって人がエッチしているところを見せて」
「「「「………………」」」」
全員がだんまりし、カオリお姉ちゃん達がシレイアさんの方をジト目で見る。
「いや、私と契約する前からだからな! 家庭環境の方に問題があったんじゃねぇの!?」
……うん?
「まあ……あの家で思春期を過ごせば……うーん、どうなんだろう」
カオリお姉ちゃんが困ってる?
「まあ、考えとくわ」
あ、これ煙に巻くパターンだ。
「ま、いっか」
最近は、コセさんと関係ないエッチにはあんまり興味が湧かないし。
「協力オーケーって事ね。バッファ、アデール。向こうの援護を」
「しゃーねーな」
「……」
フランス人のアデールが、面白くなさそうな顔を。
「アデール」
「お前の勘が優れているのは解っている。私も、似たような予感を覚えたしな」
この人……もっと自分に素直になれば化けるかも。
「おら! 行くぞ、アデール」
「ええ」
二人がカナさん達の援護に向かう先、私達に夜襲を仕掛けてきた奴等がノーザンさん達に向かっているのが見えた。
「あの二人は強いから、任せて大丈夫。それより、私は”雨の因子の鍵”というのを手に入れたんだけれど、そっちは?」
「こっちは何も」
三種類の鍵を集めて一つにしないと、最上階の扉は開けられない。
「私は、先に中の方から探るべきだと思うのだけれど?」
「私も。外だけじゃ全種類は集まらないと思う」
只の勘だけれど。
「そいじゃ、城に突入と行こうかい!」
「「おう!」」
シレイアさんの檄と共に、私達は城に突入した。
●●●
「……」
武装した子供達が、こちらに向かって駆けてくる。
「大丈夫ですか、カナさん」
ノーザンちゃんが尋ねてきた。
「……ノーザンちゃんは、人を殺したことがあるの?」
「ありますよ……使命のために、夜盗や山賊の討伐で経験しました。少し前にも、プレーヤーを殺してます」
「どうして……そんなに淡々としていられるの?」
私には……耐えられる気がしない。
「僕の場合はそういう家系でしたが……獣人は、特に自衛意識が高いですから。殺されるくらいなら殺すという精神が根付いています。もちろん、例外もありますけれど」
「だからって……」
「人殺しを正当化するつもりはありません。実際、自衛や罪人以外への殺人は強く咎められますし」
そういえば、コセくん達は一度も殺人の言い訳……というより、正当化しようとはしなかった。
普段の態度も、自分に素直であろうとしている気がするし……その上で誠実さを感じる。基本的に、みんな自然体なのに。
上辺だけ誠実な人とも、誠実を無意識レベルで演じているイカレている人達とも違う。
「罪は罪……それを受け容れた上で命を刈る」
でも……私は、そこまでして生きたいのだろうか。
「止まらなければ殺します!」
ノーザンちゃんが警告を飛ばす。
それでも四人の、八から十三歳くらいの男の子達は止まらない!
――この子達の目……濁ってる。
「盗賊共と似た目……この子供達、手慣れている」
ノーザンちゃんの言う通りなら、今までもこんなことを……だったら、この子達は殺されたって仕方ない…………違う……私は――私が生きるために殺すんだ!
「――パワースラッシュ!」
「――パワーストライク!」
「く!」
柄で、男の子達の剣と槍を受け流す!
反撃……出来なかった。
「お、大人しく……つ、捕まってよ」
「怪我……させたくないんだ」
「だって血が出ると……女はキャーキャーうるさいからさ」
まるで……薬物でも投与されているみたいに、情緒が不安定なのが見て取れる。
「……へ?」
この子達…………勃起して……。
「どうやら、女の味を知っているみたいですね。殺しの味も」
――ノーザンちゃんが……一人の男の子の首を……刎ねた。
「……この人……僕らの仲間を殺した?」
「いつもなら……反撃なんてすぐにはされないのに」
この子達……ノーザンちゃんが言っていた通り……慣れてるんだ。人を殺すのに…………女を犯すのに。
「なんで……こんな酷いことするの……お姉さん達?」
「俺達……言われた通りにしているだけなのに……」
そうだ……こんな酷いこと、この子達だけで実行するはずがない!
命令している人間さえどうにかできれば!
「ダメですよ、カナさん」
ノーザンちゃんの……冷徹とも取れる冷静な声に……意識を引き戻される。
「人の味を覚えた獣は、始末しなければならないのと同じです。この子達はもう……後戻り出来ないくらい壊れてしまっている」
改めて子供達の顔を見て――頭がおかしくなりそうな感覚に襲われッ!!
「そん……な」
この子達は……壊れた人形そのものだって…………解ってしまった。




