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28.異常者の見る異常者の世界

『真のラスボスのっ、登場でっす!』


『うわああああああああああああッ!!』


「なんなのよ、アレ……」


 ガルガンチュアが、黒い人型になってしまった。

 マネキン人形だった細い手脚が、ブクリと膨らむ!


「…………ちょっと、早く降ろしなさいよ!」

「へ? ああ、すいません、姐さん」


『アレを……壊せば良いの? そうすれば、生き返らせてくれるの?』


 誰かと会話している? でも、重低音が混じったような女の声一人分しか聞こえてこない。


『周りの奴等は殺しても良いのね。アレを壊せば、元通りにしてくれるのね!』


 黒いツルツルの頭の中心に、赤い一つ目がギョロリと現れた!?


『約束よ、絶対に約束よ!!』


『真のラスボスっ、ダークサイクロプスさんがっ、仕掛けまっす! 皆さんっ、死なないようっ、頑張ってくださいっ!』


 感情の無い、無意味に抑揚のある子供の声が私の恐怖と交わり――狂気と恐怖を加速させてくる!!



『私のためにッ――死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!』



 体長三メートル程の黒い化け物が、私達の前に降り立つ。


「なにが死ねだ、ふざけんな!! パワーアックス!」


 斧を持った獣人が、一つ目に斬り掛かった!


「は?」

『痛いじゃない』

「がひゅっ……ぅ…………」


 獣人の男の一撃は腕で止められて――――喉を貫かれて投げ捨てられた!?


『邪魔しないでよ、殺したくなるじゃーん♪』


 異形の女が近付いて来る。


『その巨乳、気に入らな~い』

 

 私を指差して……言ってる?


『その綺麗な金髪も嫌~』


 今度はジュリーに。


『可愛らしいネコ耳ちゃんね~。貴方みたいな純真で可愛らしい子見てると、オッサン共に穢させたくなるわ~』


 タマに向かって言っている!


『そこの女は、なんか嫌~い。雰囲気がさ~、なんか気にくわないのよね~』


 今度はおっとりしているサトミに。


『そこの彼は好みかも~♡ 身体が元通りになったら、私と気持ちの良い事しな~い?』


 リョウを誘ってる?


「ふざけないでよ!」

「リョウ様は渡さない!」


 短い黒髪の子と、頭から鹿の角を生やしている美女が、リョウを庇うように立ちはだかった。


『なーに? 邪魔すんの? ――集団レイプの刑にしてやろうぉかッ!!』


 情緒不安定のヤバい女だ。


 化け物のくせに、言っていることが妙に生々しいし。


 あの黒鬼からは感じなかった、汚らしい人間らしさを感じる。


『きーめた~♪ せっかくこんな凄い力があるんだもん! 気に入らない奴ら、全員ぶっ殺してから元の姿にもーっどろ~♪』


 なんなのよ、この女は!


『まずはアンタ!』

「――ああぁッ!!」


 ダークサイクロプスに狙われたサトミを庇い、振るわれた腕によってメグミが盾ごと吹き飛ばされた!


「メグミちゃん!!」

「ボサッとすんな、サトミ!」


 ダークサイクロプスの再攻撃を、アヤがサトミを押し飛ばして回避する!


『邪魔すんなよ、ブス!』

「うっさい、一つ目ブス! アイスフレイム!!」


 アヤの魔法で、ダークサイクロプスの脚が凍った!!


「“万雷魔法”――サンダラススプランター!!」


 ジュリーによって、巨大な雷がダークサイクロプスを襲う!


『痛いーーーーーッ!! 痛いのイヤーーーーーーッ!!!』


 攻撃が通用してる、これなら!


「よくもメグミちゃんを! “暴風魔法”、ダウンバースト!!」

「アイスバレット!!」


 サトミとリョウの傍に居た子が、追い討ちを掛ける!


 一つ目の身体が潰れていき、風が収まった所に大きな雹が無数に撃ち込まれた。


『思い通りにならないのが、イッちばん嫌い!! ……へー、そんな凄い魔法が使えるんだ』


 身体を再生させながら、また誰かと会話してる?


『“隕石魔法”――コメット』

「クソ!! ”万雷魔法“――サンダラススプランター!!」


 突然ジュリーが上空に向かって魔法を放つと、爆発音が響いて――――すぐ傍になにかが無数に落ちて衝撃が襲ってきた!!?


 …………身体中が痛い。


 もしジュリーが上で迎撃してくれていなかったら、今ので死んでいたかも。

 

『ねー、なんで今のに対処出来たの? アンタ、凄くない!』

「はな……せ」


 ジュリーが、あの女の右腕で首を絞められていた。


『ねー、なんでよ? ねー、教えてよ? ねー、ねーねーねーねー!』

「が!! ……あ……ぁぁ……」


 マズい、このままだとジュリーが!!


「”咎槍”――パワージャベリン!!」

『ゴハッ!!?』


 ダークサイクロプスの右脇腹に槍が刺さって炸裂し……巨大な穴が空いた!!?


「フレイムブレイド!!」

「ブレイクバッシュ!!」


 リョウが右腕に斬り掛かり、メグミが大盾を左脇腹に当ててスキルを発動!! ジュリーが衝撃によって解放される!

 

「ジュリー様! 大丈夫ですか!?」


 タマがジュリーを抱き締めて、私のすぐ横まで逃げてきた。


 私のMP、そろそろ回復したかしら?


 チョイスプレートを操作して、あのリッチが使用していた杖、“トリニティーダークロット”を装備し、手に入れていた“暗黒魔法のスキルカード”を使用する。


『邪魔!!』

「ガードストップ!」


 メグミが、一つ目の放った裏拳ごと動きを止めた!


「ウィンドブレイド!!」


 リョウが、容赦なく空いたお腹に横薙ぎを決める!


『……酷い。私、貴方の事気に入ってたのに!』

「自分は、貴方が嫌いです!」

『…………死ね。”拒絶領域”!!』


 リョウの言葉に激昂した一つ目が円柱状の何かを作り出して、メグミとリョウを吹き飛ばしてしまう。


 円柱状の透明な何かが消えていく――ここだ!


「“暗黒魔法”――ダークランス!!」


 一発分のMP消費量で、三発分を発射!


 頭、脇腹、左腕に直撃させた。


「少し傷を付けたぐらいか!」


『どいつも……こいつもぉぉ!!』


「「姐さん!!」」


 私の奴隷である二人が、私を庇って殴り飛ばされた!


『ハアハア……クソがーーーーーッ!!』


 身体に空いた穴の周りがブクブクと盛り上がり、傷が塞がっていく!?


 身体の表面も、裂けた皮が舐めるように元通りに。


「再生なんてさせるか! “煉獄魔法”――インフェルノ!!」


 紫の炎に包まれる一つ目!


『ウザったい!!』


 とっさに一つ目の裏拳を杖で受けたけれど――両腕に激痛が走る!


 この感じ……昔骨折した時に似てるし。


「がはっ!!」


 吹き飛ばされて、背中を殴打した!


『このクソ猫ー、よくも私の身体に穴を開けてくれたなーーーッ!!』


「ジュリー様には近付かせない!」

『知るか!』


 タマが一つ目の左腕に拘束される!!


『ネコ耳なんて着けてんじゃねーよ、ぶりっ子がぁぁぁぁッ!!』

「ああああああああああッッッ!!」


 タマの耳が…………引き千切られた。


『はあ? なに、これ本物だったの? うっわ、キモーーーッ!! 本物の獣耳なのかよ、キモーーーーッ!!』


 女の口が裂けていき、刃のような鋭い歯を生やしながら……タマを嘲笑っている。


『泣いてんじゃねーよ。またぶりっ子か~? ……もしかして、こっちも本物かーッ?』


「いやあああああああああああああっっっっ!!」


 ブツリと、タマの尻尾が……尻尾が、引き千切られた!!


『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 昔ー、虫千切って遊んでたのを思いだすわーーーッ!! これもう要らなーい』


 女がタマの耳と尻尾を投げ捨てる。


 お尻から流れた血が派手に飛び散っているタマが、硬い土の上に放り投げられた。


「――”魔力弾”ッ!!」

『あああああああああっっ!!』


 一つ目の赤い眼球に、ジュリーの攻撃が直撃。


「タマ! ハイヒール!」


 ジュリーがタマに”上位回復魔法”を掛け始めた。


『せっかく良い気分になれたのにーー、なんで邪魔すんのよ!』


 潰れた目が再生していく!


「わ、私が相手よ」 

「ユリカ!?」


 ジュリーが私の名前を呼ぶ。


 なんか、久しぶりに名前を呼ばれた気がするわ。


 折れた腕をダラリと下げながら、化け物と向き合う。


『……巨乳女ー、邪魔しないでくれる? 今ね、アンタはお呼びじゃないの…………でも、その胸はムカつくわー』

「あっ!!?」


 一つ目女により、私の胸元が切り裂かれ、服から乳房が露出する!!


『乳輪も乳首も綺麗とか、マジ嫉妬しちゃうわー…………ムカつくから死んで』


「インフェルノカノン!!」

『グヘ!!?』


 間抜けな声を出して、私の魔法に吹き飛ばされるクソ女。


 少し動いただけでも腕が痛くて――もの凄く熱い!


 ……脂汗もヤバいわ。


 それに、今のでまたMPが尽きた。


「でも、今朝までの私よりはマシでしょう? ……コセ」


 今の私なら、アイツも……私を好きになってくれるかな?


 なーんて、いくらなんでも不純過ぎるか。


 ……脚がガクガク震え始め、膝を付く。


『ウザいーー! 本当に、どいつもこいつもウザい!! どこにもまともな人間が居ない!! 少しくらい、私をイラつかせずにいられる人間は居ないの!? ほっんとうーー!! 世の中異常な奴らばっかり!!!』


 一つ目女が、大仰な動きと共に気持ちの悪い言葉を並べ立てた時だった。



「ハイパワーブレイク!!」



『グペーーーーーーッッッッ!!?』


 いけ好かないクソ女にムカつく男が大剣を振り下ろし、強烈な衝撃波を巻き起こしたのは。



「異常者が正常者面するな!!」



挿絵(By みてみん)


 コセが、この場に居る全員の想いを代弁してくれた。


ダークサイクロプスのセリフ、思考は本当に居そうな人間を意識しています。

部分的になら、身近にこんな人間居ると思った方は多いかも。

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