275.蒼紅の炎刃
「ここが最後の別れ道だ」
およそ十二時間掛けて、ようやくボス部屋前の最後の難所に辿り着いた私達。
その私達の目の前にあるのは、三つの別れ道。
○真ん中:王の守護者が待つ部屋。
○右:闇の守護者が待つ部屋。
○左:光の守護者が待つ部屋。
「これって、罠なんですよね?」
スゥーシャが尋ねてくる。
「右と左、どちらに進んでも王の守護者と戦わなければならない。だから、楽をするなら真ん中に進んで王の守護者、”古生代ガーディアンキング”だけを倒せば良い」
「ただし、左右の部屋に居る古生代ガーディアンを倒してからガーディアンキングを倒せば、報酬が上がる。ちなみに、左右に進む場合パーティーごとに挑まなければならない」
フェルナンダを補足するマリサ。
「でも、二つのレギオンの人間がそれぞれパーティーを組んだ状態で進めば、ガーディアンキング戦を共に戦うことも可能になります」
ネクロマンサーのメフィーが説明してくれた。
「正直、私達だけだとここまで来るのも大変でね。そこらの古生代モンスターよりも強いガーディアンとの連戦はキツくて、ガーディアンキングだけにしようかと悩んでたんだけれどさ」
「そこに私達が現れたから、共闘することでより良い報酬を得ようって魂胆か」
私がマリサに確認する。
「ガーディアンキングだけを倒した場合はAランク。連戦で二体を倒した場合はSランクを、パーティーリーダー一人につき一つ手に入れられるわ」
デボラが解説した?
「本当は同じレギオン同士でも良んだけれど、第十六ステージに人数を割く事にしちゃったからさ。向こうの方が色々手に入るって事で」
「我々は、突発クエストのお陰で一人一つ以上の割合でSランク装備を持っているから、優先度は低かったんだ」
マリサとアムシェルが、向こうの事情まで色々……まあ、こちらも似たような理由で第十六ステージに人数を割いてはいるんだが。
「別のレギオン同士だと、パーティーメンバーを混ぜる必要があるんでしたね。分け方はどうします?」
「連携の兼ね合いもあるし、一人だけで良いだろう。というわけで、行ってこい、アムシェル」
「ああ、任せろ」
「なら、私が向こうに行きますね」
メンバーについて尋ねたスゥーシャ自ら、マリサ達のパーティーに入ると言い出す!
「良いの、スゥーシャ?」
アオイが尋ねる。
「私以外の四人は長く一緒に攻略して居るようですし、その方が連携が取りやすいかと」
言うほどフェルナンダは加入してから長くないんだが……確かに妥当な提案だった。
こうして、アムシェルとスゥーシャを交換し、私達は右へ、マリサ達は左へと進む。
●●●
「来たね」
ルイーサ達と別れてほんの一、二分後、ちょっとだけ広い空間に出ると、後光を携えた人型古生代モンスターが虚空から出現。
古生代モンスター特有の、煉瓦を積み重ねたような三メートルを超える巨体……古生代ガーディアンライト。
「アレの弱点は闇なのに、なぜアムシェルを行かせたのよ!」
デボラが喚く。
「うん? まあ、なんとなく?」
「なんとなくって……度し難いわね」
理屈で判断するより、平常心で勘に任せた方が上手くいくからね~。
デボラみたいなタイプには……大抵の人間……特に理屈で物事を判断しがちな男には、理解しがたい感覚だろうけれどさ。
《日高見のケンシ》のメンバーやルイーサ達は、私の感覚をよく分かってくれそうだったのになー。
「まあ、私がその分頑張れば良いだけだし」
「初手は私が! ”幻影の銛群!」
スゥーシャが左手に持っていた大銛を浮かせ、六つに増やした?
「行って!」
”古代の力”を発生させずに、六つ全てを突き刺す!
銛を増やしただけで、スキルや効果で攻撃した扱いにはなっていないって事か。
しかも、手持ちの白い三つ叉の銛から、神代文字の力を流し込んで強化しているし。
あの技術、私達のレギオン内でも出来るのは数名なんだけれど。
「”深淵槍術”――アビスストライク!!」
更に銛を深々と突き刺し、ガーディアンライトの四肢に大きな亀裂を生むスゥーシャ!
キジナ……アンタの妹、聞いていたよりもナチュラルに凄いのだが?
「”太陽法術”――ソーラーレイ!!」
太陽光を放ち、動きが止まっていたガーディアンライトにぶつける!
「”光線魔法”――アトミックレイ!」
「”暗黒魔法”――ダークネスレイ!」
デボラとメフィーが線光系の魔法を放ち、援護してくれる。
なんだかんだで、デボラはレギオンに貢献しようとはしてくれてんだよねー。個人の戦闘能力は一番低いけれど。
私とリリルが同時に駆け、先にリリルが仕掛ける。
「ハッ! ――”高周波滅”!」
利リルが投擲した二本の短剣は右腕に阻まれるも、刻まれた神代文字のお陰で突き刺さり、内側から効果を発動する!
お陰で右腕は半壊し、使い物にならなくなった!
「――”連結”」
右手の”覆われし太陽の金光”と”覆われし太陽の銀光”の柄頭を組み合わせ、神代文字が十八文字になったと――世界に誤認させる!!
『グォ……ォォ…………』
左腕を一閃し、ガラ空きになった胴体を袈裟斬りに。
「……チ、浅かったか!」
間に合わなかったようで、胴体を斬っている最中に九文字分に認識が戻ってしまったらしい!
「いっツ!!」
二秒程度とはいえ、身の丈に合わない力は身を滅ぼすってか。
今日はもう四度も使用しているし、あと一回は使わさるだろうから取っておかないと!
とはいえ、連戦になるのも考えれば、あんまり時間を掛けるのも良くない。
「”分離”、武器交換――”蒼紅の双炎剣”!」
”覆われし太陽の銀光”を、蒼と紅がにじり混ざった色合いの双剣に持ち替える!
「”蒼炎の刃”」
蒼紅の炎を刀身に纏わせ、切れ味を強化。
”古代の力”は、古代属性には反応しない。
とはいえ、古生代モンスター自体が古代属性に対する耐性を持っているから――一度で最大火力を叩き込まないと!
「”分離”」
”覆われし太陽の金光”を腰に吊るし、分離させた”蒼紅の双剣”を両手で握る!
「”光線魔法”――アトミックシャワー!!」
後退する私を追撃しようとしたガーディアンライトを、デボラが足止めしてくれた!
「ナイス!」
”覆われし太陽の金光”から”蒼紅の双炎剣”に神代の力を流し込み、最大限の強化を図る!
「”聖水魔法”――セイントバイパー!!」
白い水の大蛇がガーディアンライトに纏わり付き、完全に動きを止めてくれる!
スゥーシャ……魔法そのものも、神代文字で強化しているのか!?
「今です!」
「おう! ”瞬足”!」
交差するように振りかぶりながら、前に出る!
「”二重武術”、”古代剣術”――――オールドスラッシュ!!」
全身に罅が入っていた古生代ガーディアンライトを、X字に切り裂いた。




