26.岩石巨人ガルガンチュア
「危なかった」
倒れてきたガルガンチュアの下敷きになる所だった。
「この巨体、どうやって破壊する?」
光にならないということは、まだ倒した事になっていないはず。
とはいえ、この巨体を一人で破壊し尽くすのは不可能だ。
「頭を潰せば仕留められるかな?」
魔神やゴーレムのように無機質な敵である以上、生物としての急所を攻撃しても倒せるのかどうか。
「なんだ?」
ガルガンチュアが揺れ始めた?
『ガオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーー!!』
壊れた脚が、ガルガンチュアの下半身が崩壊していく。
「ご主人様!」
トゥスカが駆け付けてくれた。
「なに!?」
ガルガンチュアの上半身が……浮いていく!!
「トゥスカ、アイツをこれ以上浮かせるな!」
「分かりました、“跳躍”!」
空高く跳び上がるトゥスカ。
「――爆裂脚!!」
ガルガンチュアの頭に上空から跳び蹴りを食らわせ、爆風を叩き付けた!!
浮き上がり始めていたガルガンチュアの巨体が、再び地に堕ちる!
TP・MPを節約している場合じゃないな。
ガルガンチュアがどれ程浮き上がれるかは分からないけれど、下半身が存在していたときと同じ場合、トゥスカの”跳躍”でも頭上まで届かない。
そうなれば、俺の攻撃は届かなくなってしまう!
「パワーニードル! ――ハイパワーブレイク!!」
右肩を攻撃して破壊するも、右腕の崩落までには至らない。
俺とトゥスカだけで、コイツを破壊し尽くせるのか?
●●●
『ダークバレット』
黒ローブを纏った骸骨が、闇の散弾を放ってきた。
「マジックガイド!」
メグミちゃんが”大盾術”で魔法を引き付け、盾で受けきってくれる。
「そう何度も耐えられないぞ! なんとかしてくれ!」
「フレイムカノン!」
『“回転”』
アヤちゃんの”火魔法”がリッチに向かうも、左腕に装備された槍のような十字架が高速回転して防いでしまう。
「またMPが無くなったー!」
アヤちゃん……本当にこの子ってバカ!
「どうする、サトミ?」
「メグミちゃん、時間を稼いで!」
「へ!?」
”風の盾”とサブ職業に”盾使い”、更にグレイウルフが装備していた“俊敏の指輪”と”飛び跳ねの指輪”を装備するの♪
「待たせたわね、メグミちゃん!」
「おい、何をする気だ!?」
あのリッチには攻撃魔法が通じないみたいだから、私が接近戦を仕掛けるのよ♪
「ちょーやっく! とうー♪」
“飛び跳ねの指輪”で、三メートルも跳び上がるのーー!
『ダークランス』
「マジックガイド!」
「アイスフレイム!」
リッチの魔法をメグミちゃんが引き付けて、アヤちゃんの”氷炎魔法”がリッチの左半身を、槍十字ごと凍らせた!?
アヤちゃん、また私に嘘ついたわねー。
まったく、虚言癖があるんだから♪
そういう所があるから、なかなか見捨てられないのよね~♪
「シールドバッシュ!」
リッチの頭上から“風の盾”を叩き付けて、”盾術”を発動してあげたの♪
『ギゴ……ガゴガ……』
うーん、首が折れちゃったわね~。
「まだ動いてるぞ、サトミ!」
「危ないわよ、サトミ!」
逃げずに右手を翳す。
「ヒール」
『グゴガアアアアアァァァァーーー!!』
首が治り始めていたリッチが、”回復魔法”で天に還っていった。
「フー、なんとかなったわね~」
「だけど……アレどうすんの?」
ちょっとずつ、ガルガンチュアがこっちに近付いてきてる。
その上で、派手な爆発が巻き起こっているみたい。
「他の人に任せましょう。私達じゃどうにもならないわ」
このゲーム、絶対にクソゲーね~♪
●●●
「インフェルノ!」
『ダークランス!』
紫炎の魔法がリッチの黒い槍を呑み込み、左腕を燃やす。
『ぐあああああああああ!!』
悪魔に取り憑かれた人間のような絶叫を響かせる……リッチ。
『おのれー!!』
リッチの手に、真っ黒な大きな宝石が付いたステッキが出現する!
「姐さん!」
「姐さんだけでも逃げてください!」
運悪くリッチと出くわしてしまった。
それに、リッチは複数のリザードマンと共に襲ってきたため、二人の獣人はリザードマンの相手をしている状況。
MPはほとんど残って無いけれど、私だけで片付けないと!
『ダークランス!』
「なっ!? ――ダークブレイズ!」
一度に黒の槍が三つ放たれたため、”暗黒爪術”を発動した”炎のステッキ”で消し去る!
「さっきまでこんなふざけた芸当、してこなかったくせに!」
あの杖の能力か!
「大方、一定以上ダメージを受けると使うように設定されていたってところ?」
同じ魔法を三つ同時に放つとか、モンスターにMP切れがあるかは分からないけれどズルイ!
「どうにかして、”煉獄魔法”を当てる!」
『”死者の腕”!』
リッチの居る地面から半透明な黒の腕が伸びて、私の”炎のステッキ”を掴んでしまった!?
「離しなさいよ!」
これは、私が貰った私の――大切な物なんだから!!
「離せ、死人野郎ぉぉ!!」
引っ張られる力を利用して、自分から前に出る!
「くたばれ――“煉獄魔法”、インフェルノ!!」
『ギャアアああああああああぁぁぁあああああ!!!』
リッチが紫炎にて燃え上がり、のたうちまわる。
こうして見ると、本当に生きているかのよう。
『ぎぃああああぁぁぁぁーーッ…………』
紫炎が止むと、リッチは青白い光になって消えた。
「ダメだ、もうMPが残ってない」
TPもほとんど無いし。
「雑魚はどうにかするから、後はよろしく……コセ」
アイツの名前を口にしたら、ちょっとだけ力が湧いた。
「アンタら、いつまでもそんなのに手こずってんじゃないわよ!」
二人の私の奴隷に檄を飛ばす。
「姐さんは、胸だけじゃなくて態度もデケー」
「俺の母ちゃんみてーだ!!」
あの二人、奴隷から解放せずに売り戻してやろうか。
買いの半分で売れるらしいし。
●●●
「止めろーーッ!!」
「うわああああっ!!」
「無理だ、こんなもん!!」
グレートオーガと思われる灰色の鬼が、盾持ちの防衛ラインまで食い込んでいた。
「パワーブレイド!!」
グレートオーガに“炎の剣”で斬り掛かるも、ほとんど切れない。
足止めに撤してくれている盾持ちの獣人達が、次々と奴の剣の一振りで弾き飛ばされていくッ!!
「ぐああっ!!」
「リョウ様!?」
グレートオーガの腕によって神像の前に弾き飛ばされた僕の傍に、今朝僕が買った女性が駆け付けてくれる。
鹿の美しい獣人、エレジーさん。
長いウェーブがかった、白髪と茶髪の混じった神秘的な女性。
「エレジーさん……逃げて」
グレートオーガが、こっちに近付いてきている。
右脚が動かない……多分折れてるな。
「貴方を置いて逃げても、私は助かりません。ならば、戦って死にます!」
だからって、数時間前に出会った僕を守ろうって言うのか。
「奴隷から解放します、だから逃げて!」
どうしてかは分からないけれど、僕はこの人を――絶対に死なせたくない!
「ガードストップ!」
獣人の男が、グレートオーガの動きを止めた。
「早く攻撃しろー!!」
武術系攻撃が次々とグレートオーガに決まるも、皮膚の傷が増えていくだけ。
まったく倒せる気がしない。
あんなのが他にもう一体。
更にリッチとかいう、同格と思われるモンスターが二体も居る。
ガルガンチュアと戦っているのは、おそらくギルマス。
ジュリーさんも戻ってこないところを見ると、他三体のいずれかと交戦しているのかもしれない。
「ヒール」
ボス戦の時以来、パーティーを組んでいるシホさんが”回復魔法”を掛けてくれる。
黒髪ショートヘアーの、可愛らしい人が。
「エレジーさん。もう少ししたら動けるくらいには回復しますから、リョウさんを連れて逃げてください」
「逃げるのなら、シホさんがリョウ様を連れて行ってください」
「でもジュリーさんが、アイツには魔法が有効だって言っていたでしょう。貴方よりも私が残って、時間を稼ぐべきなんです!」
「でも、貴方より獣人である私の方が頑丈です! 治療も出来る貴方がリョウ様と一緒に逃げるべきです!」
「獣人の貴方の方が、力が強いでしょうが!」
「だから、”回復魔法”が私には使えないって言ってるじゃないですか!」
どうして、僕がどっちと一緒に逃げるかで口論を?
脚の痛み、もうほとんど感じない。
指先の感覚も戻ってきた!
「グアアアアアアッ!!」
グレートオーガが剣から衝撃波を巻き起こし、周りに居た人達がまとめて吹き飛ばされてしまう!
「僕は逃げません。ギルマスが必死に戦っているのに、僕が逃げるなんて……嫌だ!!」
“炎の剣”を支えに、立ち上がる。
「二人とも、援護をお願いします!」
「はい、リョウ様♡」
「任せてください、リョウ様♡」
二人が一瞬で協力的に……なんで?
まあ、良いか!
グレートオーガも、ダメージを負っていないわけじゃない! 絶対に倒せないわけじゃないんだ!
「アイスランス!」
『グオオオオオッ!!』
シホさんの魔法が防がれる。
「厄介なのは……あの剣」
あれが放つ衝撃波が、魔法攻撃を防いでしまう!
「パワーアックス!!」
長い柄の戦斧を振り回し、エレジーさんが仕掛けた。
直接攻撃に対しては、あの衝撃波は使って来ない!
「シホさん、合図を出すまで攻撃はしないで!」
「分かりました!」
グレートオーガが衝撃波を放つのは、魔法攻撃の時と、多数の人間に囲まれたとき。
「パワーブレイド!!」
武器を、“炎の剣”から“水の剣”に持ち替えて攻撃する!
「よし!」
”炎の剣”で攻撃した時よりも、”水の剣”で攻撃した時の方が傷の深さが少しだけ大きい!
”炎の剣”で攻撃した場合、武術スキルには火属性がプラスされ、”水の剣”の場合は水属性がプラスされていると思われる。
なにせ、”魔法剣術”を発動しているときに感覚が似ているからね!
「行くぞ!」
『グオオオオオオッ!!』
グレートオーガの剣による横薙を、エレジーさんが槍のような斧で止めてくれる!
「リョウ様、今です!!」
「ウォーターブレイド!!」
――僕は一人で苦しむ方を選択し、特典で初級魔法使いのサブ職業を選択した。
そのせいか、暫くすると”魔法剣術”というスキルを使えるようになっていたんだ!
水の刃がグレートオーガの右手首を切り裂き、あの厄介な無骨な剣が、右手ごとグレートオーガから離れていく。
「シホさん!!」
「“氷炎魔法”――アイスフレイムカノン!!」
氷炎がグレートオーガを氷付けにし……やがて灰色の鬼を光へと変えていった。
「……勝った」
やりましたよ、ギルマス!!
リョウには、なぜかモテる主人公体質を付与してあります。