253.偉大なる猛竜の咆哮
○“氷炎女王の外套”を手に入れました。
「ありゃ、コレはナオ向きの装備だね」
メルシュが、青い生地に赤い糸で刺繍を施されたようなキラキラしたマントを見て、そう口にした。
「結構下まで来ましたけど、どんどん道が狭くなってますね」
「ここはもう、一般の客が入る区画じゃないからな」
「区画?」
メグミが言っている意味を、まるで理解できない。
そう言えば、さっきカードキーを使った所から内部の雰囲気が変わったような……。
「戦いづらいけれど、敵の数が減って助かりますね」
四人で戦闘を分担しているとはいえ、ほとんど絶え間なくモンスターが襲ってくるため、TP・MP、精神力の消耗が激しい。
「安全エリアは最初のラウンジと発電室、今から向かう機関室だけか。マスター達は大丈夫かな?」
「私達は少し休みましたけれどぉ、コセさん達は休んで無さそぉですよねぇ。日本人、働き過ぎですしぃ」
「まあ、地球上で一番真面目な人種と言っても良いからな。全員が全員じゃないけれど」
クリスとメグミが、向こう側の世界の話を始めてしまう。
私には、向こう側の知識はないのに。
そう言えば、ご主人様はほぼ毎晩誰かの相手をしているような……一度妻認定した相手の求めを一度も断った事が無いし……私、もう少し控えた方が良いのかな?
「面倒なのが来た」
貝殻だらけの大鮫が、進行方向の通路を塞ぐように泳いでくる。
「ディープシーシャーク。スキルカードが手に入るモンスター」
「つまり、独自のスキルを使うモンスターか。ていうか……結構な数が並んで来てるじゃないか!」
などと話していたら、鮫が青い光を纏って突撃してきた!
「“混沌魔法”――カオスレイ!!」
メルシュの黒白の光線が通路を塞ぐように迸り、鮫の群れを一網打尽にしてしまう。
「休んでいる暇は無さそうだね」
「ええ、行きましょう」
私達は四人で、更に下を目指す。
●●●
「よくもコセを!」
先頭を行ってたのがコセじゃなかったら、私かクマムちゃんが死んでた!
「許さない」
何度か死にかけたコセを見ているからか、突然襲ってきたコセの死への道筋に――怒りが湧いて仕方ないのよ!
「はあああああああッ!!」
左腕の青と赤の甲手、“氷炎の共演に魅せられよ”に神代文字の輝きが九つ刻まれる!
「“跳躍”!」
ゴリラ貝による拳の振り抜きを跳んで避け、跳び越えて後ろに――船が急に揺れて、着地時に足首を挫いてしまう!!
『グォォォォォォォ!!』
「――ウッサいのよッッ!!」
挫いた右脚の痛みを無視して、振り向く勢いごと左拳を突き出すッ!!
『グォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!』
“青光吻”のエネルギーが増大――炸裂し、その巨体の胸と腹をぶち抜いた!
「ハアハア……ッ!!」
右脚の痛み……無理に動かしたから悪化させちゃったかも。
「ハイヒール」
「大丈夫か、ナオ」
コセが駆け付けてくれる。
「うん、痛みは魔法で引いたか――わ!?」
歩こうとして、脚がもつれてしまった!
「本当に大丈夫か?」
コセが支えてくれた……ちょっと嬉しい♡
「ありがとう……痛みは引いたんだけれど、幻痛というか……足首を上手く動かせないみたい」
「……なら、脱出ボートは諦めて、メルシュ達が船を復旧させるのを」
「コセさん!!」
クマムちゃんの切羽詰まった声が響くと、重い衝撃と共に船が揺れる!
『ガァァァァァァァァッッ!!』
あの副船長野郎が現れて――斧を振り下ろしてきた!!
「“超竜撃”!!」
流れるように大剣を振り、斧を弾く私の旦那様!
「クマム、ナオを頼む」
「お気をつけて」
「コセ……無茶するんじゃないわよ」
静かな激情を携え、コセが深海の鬼に向かって歩き出す。
●●●
まさか、向こうから仕掛けて来るとは。
「さすがに、奇襲を仕掛けてくるとは思わなかったぞ」
『チ、一人は殺せると思ったのですがね』
喋った!?
「まさか、元人間だった口か?」
『ええ、そうですとも。古城ではお世話になりました――このクソハーレム野郎!!』
あの時の特殊レギオン戦に参加していた人間、おそらく《攻略中毒》のメンバーの誰かか。
『本当は私が、貴方を殺すはずだったのに――罰ゲームをクリアして、コンティニューする必要が出て来たじゃないですかぁッ!! 大切な女共まで全部消えちまったたんだぞぉぉぉッ!!』
「お前……あの時のデ……あ」
コイツを殺した男がデブと呼んでいたものだから、つい言いそうに。
『貴様……自分が痩せてるからって、ちょっと可愛いからって――調子に乗るなぁぁ!!』
「可愛いってなんだよ!」
髪を結ぶようになってから、自分でもちょっと可愛いとか思ったけれども!
『死ね、“深海重圧”!!』
最初の戦闘でも使った、強力な攻撃!
「“拒絶領域”」
青鬼の腕を、円柱状の衝撃波でなんとか弾き飛ばした!
「“飛王剣”!!」
総TPの十分の一を消費し、斬撃を放つ!
『“深海猛進”んッ!!』
青い力場を前面に展開し、突っ込みながら斬撃を弾き消した!?
「ハイパワーブレイク!!」
正面から”グレイトドラゴンキャリバー”を振り降ろし、後退させる!
「“煉獄魔法”――インフェルノバレット!!」
力場が消えた所に、紫炎の散弾を放つ!
『“瞬足”!』
傷を受けるのを恐れているようだな。
『来い、モンスター共!』
深海モンスター達が、デッキの上に染み出してくる!
「お前が呼び出していたのか」
『全部ではないし、呼び出せる数には限度がありますがね!』
つまり、今まで俺達にモンスターを嗾けていたのはコイツということ!
「全部は相手にしていられないな」
邪魔な数体を薙ぎ払い、青鬼に接近!
『今度は、貴方がゲームオーバーになる番なのです!!』
双刃斧の一撃を竜の剣で去なし、懐に入る!
「“古代竜魔法”――エンシェントドラゴノヴァ!!」
全MPを消費して発動する強力な魔法のエネルギーを解き放ち、深海モンスターの群れごと元攻略中毒の青鬼を消し飛ばす!
『ぁ……なんて……事を……私の……身体がぁぁッ!!』
「まだ……生きているのか」
右腕と右胸、頭もかろうじて残し、生きている様子の青鬼。
けれど、まるで一つ目女やアルファ・ドラコニアンのように……身体が瞬く間に再生していきやがる。
『こ、今度ゲームオーバーになったらアカウントを削除されてしまうぅぅッ!!』
「なにを言っているんだ……お前? ぅ!!」
――MPを急激に使い果たしたからか、目眩が!
『嫌だ……私はもっと、このゲームを楽しむんだよぉッ!!』
青鬼が逃げ出す!!
「なにがゲームを楽しむだ――ふざけるな!!」
そんな想いで、人の命を――人生を奪おうとするなよ!!
――――気づいたときには、“グレイトドラゴンキャリバー”を水平に翳していた。
まるで、そうなることを理解していたかのように、自分がそんな行動を取る事に……なんの疑問も抱かずに。
「“可変”」
竜の頭を模った大剣に彩藍色の光が吸い込まれた直後、形状が変化し始め――刀身が割れ、竜の顎のような姿へ!!
その刀身には、十二文字の神代の力が刻まれている!
「――――“神代の激竜咆哮”」
青白い光が収束し――巨大な砲弾が竜剣の顎から放たれた。
『――へ?』
青鬼は、逃げている最中に背中から……跡形もなく吹き飛んで消滅。
「ゲーム感覚で、人の人生に干渉しようとした報いだ」
なんの覚悟もない人間が、人生を左右する真似をするなんて……赦されないんだよ。




