249.ザ・ディープシー・カリバーン
「ナオ、広範囲に一発!」
「“氷炎魔法”――アイスフレイムバレット!!」
コセさんの指示で、瞬時に青い炎を放つナオさん。
海藻やコケが付着した貝殻で出来たようなモンスター達が、身体を部分的に凍らされて動きを止める。
「駆け抜けるぞ!」
雨のせいで視界が悪い中、先陣を切ってデッキ中央を突っ切ろうとするコセさん。
“竜剣”を飛ばしながら、二振りの大剣を流れるように操って人型の深海モンスター達を薙ぎ払ってくださる。
「わ!?」
「ナオさん!」
私の前を走っていたナオさんが、船の急な傾きと共に体勢を崩してしまった!
「頼む、クマム!」
自分の彼女さんなのに、自分で助けに行こうとしないなんて!!
……いえ。むしろ、先頭だからモンスターを一手に引き受けている状況……助けに行きたくても動けない状況なのに……なんで、そんなことにもすぐに気付けないんだろう、私。
……やっぱり、コセさんに対して悪感情を向けやすくなってしまっている。
「“天使の翼”!」
ナオさんを急いで追い、抱え、翼を羽ばたかせて支えます!
「ありがとう、クマムちゃん!」
「いえ……」
「数がどんどん増えてる、急げ!」
至極最もな意見と解っていながら、コセさんの言葉にまたイライラしてしまった。
●●●
「おぅ、宝箱でぇす!」
船の通路の一角で、小汚く湿った黒い宝箱を見付けるなり、開けようとするクリス。
「クリス、ストップ!」
メルシュがクリスを止め、箱に近付いていく。
○罠を感知しました。
「危ない危ない。はい、みんな離れて……罠解除」
メルシュが”盗術”のスキルを使用すると、宝箱から白い煙が噴き出て……すぐに消える。
「高温ガスだったみたいだね。至近距離で浴びてたら、全身火傷になってたかも」
「そ、ソーリー……」
さすがに萎縮しているクリスさん。
「宝箱は、全部メルシュに任せた方が良さそうだな」
「私は滅多にTPを消費しないからね」
メグミの言うとおり、私達は少しでもTPを温存するようにした方が良さそう。
「それで、箱の中身は?」
メグミが尋ねる。
「“ザ・ディープシー・カリバーン”、Aランク。水属性だけれど、マスターが使えば今の状況でも役に立つ武具だね」
「いきなりAランクが手に入るとは、幸先が良いな」
大剣の高ランク……ご主人様が喜びそうです!
「ま、コセよりもルイーサ向きの剣だけれどね。聖剣系統の剣だから」
「ああ、ルイーサの盾と組み合わせられる条件でしたっけ?」
ご主人様、どうやら新武器はお預けのようです。
「みんな、来るよ」
通路の床から、青味のある黒っぽいコケのような物が生えてきて……貝殻を貼り付けたような怪物に変化していく!
「“ディープシーソルジャー”に“ディープシースネーク”、“ディープシービースト”だね」
「通路を塞ぐように出現するのか! ”連射“、“竜光弾”!」
メグミが、いち早く迎撃に動いてくれる。
「……もしかして、だからご主人様を脱出ボートの方に行かせたの?」
メルシュに尋ねる。
「船内じゃ、得物が大剣だと不便だからね。デッキで戦うならあまり気にする必要無いし」
「後ろからも来ました! “可変”!」
片刃の細剣を銃に変え、対処してくれるクリス。
遠距離が得意なこの二人が居れば、コッチは問題無さそう。
「トゥスカは片手斧でも戦えるし、戦力が必要なコッチに回って貰ったんだよ」
「なるほど」
クマムの細剣では狭い場所で追い詰められると不利でしょうし、広範囲を攻撃できる魔法使いのナオは、広いデッキに回した方が良いと。
ご主人様と離されたのは多少不満でしたが、仕方ありませんね。
「操舵室はすぐそこだから、ちょっと急ぐよ!」
メルシュを先頭に、私達は船の中を駆けていく!
●●●
「ハイパワーブレイク!!」
“グレイトドラゴンキャリバー”で、深海モンスターとやらをまとめて吹き飛ばす!
「副船長はどこだ?」
雨と風で視界を遮られるため、この暗がりで人一人を見付けるのは困難!
「あそこです!」
と思っていたら、クマムが指を指した方向の暗がりに、制服を着た場違いな男が一人。
「モンスターだらけなのに、まったく動じていないな」
NPCだから、当然と言えば当然なんだろうけれど。
「私が鍵を貰って来ます!」
「おい、クマム!」
魔神・大盾亀の時と今のクマムの行動が重なり――嫌な予感が込み上げてくる。
「すみません、脱出ボートの鍵を頂けませんか?」
副船長と思われる男の前に降り立ち、尋ねるクマム。
「……はぁ?」
「――離れろ、クマム!!」
「へ?」
モンスターを急いで薙ぎ払い、クマムのいる場所へと駆ける!
「“氷炎乱舞”!!」
ナオが甲手から無数の氷炎を撃ち出し、俺とクマムの間にいた深海モンスターを吹き飛ばしてくれた!
「ナイスだ、ナオ!」
「あのボートは――誰にも渡さなぁぁぁいッ!!』
――副船長と思われる男が、深海モンスターの特徴を兼ね備えた、鬼のような姿へと変貌していく!
「な!?」
『ガァァァァぁぁぁぁぁぁあああッッ!!』
黒い貝殻の鎧を着た青鬼の腕には、透き通るような藍色の巨斧が!!
『“深海重圧”』
――斧に紺色の光が宿り、そのままクマムへと振り下ろされる!
「“超竜撃”!!」
鎧に文字を九文字刻んで身体能力を強化――斧に強力な一撃を叩き込んだ!
「コセさん!」
「無事か、クマム!」
かなり危なかったぞ、今の!
メルシュが敢えて言わなかったとも思えないし……俺達が別行動したのを良いことに、後から副船長の設定を変更したって所か!
「ふざけやがって」
怒りすら生ぬるい想いが、一本の芯のごとく形となる!
「クマムは雑魚共を頼む」
「は、ハイ!」
――今なら、十二文字引き出した状態でもなんとか戦えそうだな。
『ガアアアアアアアアアアアッ!!』
「――ッ!!?」
甲板にいきなり斧を振り下ろし、一瞬の隙を突いて……逃げていっただと!!?
「クソ、あっという間に!」
しかも、俺達が元来た方向、船の前側に向かって移動している!
あの巨体じゃ船の中には入れないだろうが、巨体に似合わない俊敏な動きが実に厄介そうだ。
「ど、どうしますか、コセさん?」
「鍵が手に入らなかった以上、一度メルシュ達と合流しよう!」
下手をすれば、メルシュ達が合流場所であの鬼に襲われる心配もある!
「四人とも、無事でいろよ!」




