236.世界の港
「装備セット2」
魔神・大盾亀が動き出す直前、私は“天雷の使いの大杖”を主軸とした魔法特化装備に変更する。
指輪は“雷魔の指輪”を三つ装備し、その他装備も僅かに魔法や雷属性を強化する物へ。
「”明星の翼”」
橙の翼を顕現させ、飛び上がる。
『ガメェェェェェェェ!!』
「“二重魔法”、“天雷魔法”――サンダラスヘブン!!」
各種装備と“天雷の大杖”により、現時点で最高威力を誇る――二柱の白爪の雷が放たれる!!
『ガメェェェェェェェェェェェェェッッッッ!!!』
なんとか、“大盾術”のマジックガイドを発動される前にダメージを与えられた。
大盾亀は物理防御は高いけれど、魔法防御はさほどでもない。
それでも、”大盾術”と甲羅盾を組み合わされると厄介なのだけれど。
攻略法を知らなければ大盾亀よりも厄介なボスの方が多いけれど、大盾亀は知っていても厄介なタイプのボス。
「早速、第二ラウンドか」
天井から亀の甲羅が落ちてきて、地上に落ちると同時に回り出す。
「“万雷魔法”、サンダラスレイン!!」
万雷の雨を降らせ、雷属性の攻撃により甲羅の動きを鈍らせる!
「“星屑魔法”――スターダストシューティング!!」
ヨシノの魔法が放たれるも、魔神の盾が輝いて星屑の流星群を引き付け、防ぎきられてしまった。
「“煉獄鳥”!!」
ユリカの紫炎の大鳥が魔神の頭に直撃――するかと思われたが、“偶発無敵”によって防がれてしまう。
「“蒼穹魔法”――アジュアダウンバースト!!」
タマの蒼い風が大盾亀を上空から打ち付け、全身に浅い亀裂を入れる。
蒼い風と槍を操る白猫の天使……カッコ可愛い!
「……フフ」
タマやユリカがパーティーに居るの、なんだか懐かしいな。
「”絡め取り”」
サキが甲羅の付いた左腕に鞭を巻き付け、魔神の盾を制限してくれる。
私が多数の甲羅の動きを制限した隙に、接近してくれていたようだ。
「マスター、トドメを!!」
「装備セット1、“避雷針”」
“避雷針の魔光剣”を握り締め、“天雷魔法”のサンダラスヘブンを発動――魔光剣を放輝かせる!
「“雷光斬”!!」
天の雷を集約した白雷の斬撃を放って――魔神・大盾亀の首から胸を……縦に切り裂いた。
魔神の身体が光に変わりだし、ボス戦の終わりを告げる。
「やったわね、ジュリー!」
「さすがジュリー様です!」
「過度に煽てないでよ、皆のおかげなんだからさ。だから……ありがとう、みんな」
そう言えば私達、いつの間にか同じ男の女になっているんだよね。
この世界に来る前なら……複数の女に手を出すような男に、本気で惚れるなんて思いもしなかったのに。
○おめでとうございます。魔神・大盾亀の討伐に成功しました。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★大盾亀の甲羅盾 ★大盾術のスキルカード
★大盾亀の甲羅の指輪 ★偶発無敵のスキルカード
「ジュリー様はなにを選ぶんですか?」
「”金星球の指輪”を手に入れる前なら、迷わず甲羅の指輪を選んでいたところだけれど」
円の盾は“回転”と”盾術”を組み合わせられるから、上手く使えば戦術の幅を広げる事が出来る。
メグミに合った指輪だけれど、既により優秀な”拒絶の腕の指輪”を持ってるから、今更だし。
「ま、指輪と盾は希少性が高いし、どちらも使わないと言うのなら”大盾術のスキルカード”で良いと思うよ」
もう、最初の頃のように、二人に強制する必要も無いんだよね……今の関係に落ち着いて、本当に良かったと思う。
○これより、第十五ステージの世界の港に転移します。
これから先も、この関係が壊れませんように。
●●●
「世界の港……ね」
いつもの高い祭壇の上から見えるのは、巨大な蒸気船が停泊する港と海と……その手前に、港までの道を遮るように配置された、ボス部屋の扉と壁。
壁向こうの港は、同じ色の壁によって四つに区切られているようだ。
「世界の港という割に、とても息苦しさを覚える光景だな」
「第十五ステージも、かなり特殊なステージだからね」
最後にボス戦に挑んだジュリー達が、祭壇上部の中心地に転移してきたようだ。
「詳しい事は、下の村に着いてから話そうか」
「そうだな」
メルシュに促され、二十五人と人形二体全員で階段を降りていく。
「サトミさん、“海賊のペンダント”をクマムに渡して貰って良いですか?」
「良いわよ」
ジュリーに言われ、サトミさんの手からクマムに、船長帽子を被った髑髏マークのペンダントが渡される。
「あの……このペンダントはいったい?」
「隠れNPCのスライムを、麓の湖で仲間にするためのアイテムだよ」
情報源を曖昧にするため、ジュリーではなくメルシュが説明を始める。
祭壇の下には木々が生い茂っており、青い綺麗な湖が目に付く。
青魚っぽい魚影が見える……どうやら、かなりの数の魚が居るようだ。
「クマム、湖の中へ」
「……はい」
クマムが、ゆっくりと湖に入っていく。
「中心地まで、そのまま進んでくれ」
ゴメンよ、クマム。メルシュとジュリーが、スライムと契約させるなら能力的にクマムが良いと決めてしまったんだ。
「モンスターは居ないから、襲われる心配は無いそうですよ」
俺とトゥスカもクマムに指示を出すことで、隠れNPCの情報源をより曖昧にする……あんまり意味ないかもしれないけれど。
「へと……ここで良いんですか?」
クマムが中心地に辿り着くも、なにも起きない。
「ペンダントは光ってるかー?」
クマムに尋ねる。
「光ってませーん!」
「どうやら、隠れNPCのスライムは誰かに取られた後みたいだな」
スライムの隠れNPC……どんな感じだったんだろう?
「まあ、癖が強い奴だから、仲間にしても扱いに困っただろう。固有スキルも、プレーヤーが使うにはイマイチだし」
「確かにそうだね」
フェルナンダの辛辣な評価に、同意してしまうメルシュ。
「敵として出て来られると、かなり厄介だとは思うけれどね」
「隙を突いたプレーヤーキルを狙われると、確かに面倒そうだな」
二人して、物騒な話をしている。
「あの……私、いつまで湖の中に居れば良いんでしょうか?」
あ……忘れてた。




