228.無自覚な二面性のパイレーツ
扉を潜って進んだ先に広がっていたのは……洞窟の中の船着き場?
巨大な帆船が二隻も止まっている。
てことは、どこかから海に出られるのかな?
「いきなり、人数が減っちゃいましたね」
俺の今回のパーティーメンバーは、トゥスカとメルシュ、ナオとクマムの五人。
カナの加入で人数が二十五人になったため、五人一組のパーティー、計五組に別れて攻略を開始する事になった。
……まさか、モモカがクリスにくっ付いていってしまうとは……サトミさんのパーティーで大丈夫かな?
安全面もそうだけれど、教育面で特に心配だ。
「じゃ、早く行こうか」
船を無視して、滑らかな石の道を右に進もうとするメルシュ。
「あの船、本当に見に行かなくて良いの?」
ナオが尋ねる。
「あっちは隠れNPCのパイレーツの獲得イベント以外、なにも無いからね」
「そうなんだ」
一分も歩かないうちに、木製の正方形の床が。
近い方の船の側面と、洞窟の奥に進む道との別れ道でT字路になっているようだ。
「あれ? なんか、扉の前に居た人達に似た集団が近付いてきますよ?」
三方向から、男達が迫ってくる。
「お前ら、許可証を持ってねーな。つまり、村の奴等に食いもんを恵んでやらなかったってわけだ。薄情な奴等だぜ!」
「人情の欠片もねークソ野郎が!」
「身包み剥いで海に捨ててやら!」
口汚く罵られてるんですけど……。
「メルシュ……もしかして、食材を売ってたら」
「一定数の食糧を売っていれば、襲われずにここを通れたよ」
やっぱりか。
「コイツら、確立は低いけれどランダムに武術スキルのカードをくれるし、“パイレーツのスキルカード”も貰えるから」
「もしかして、だからサトミさんに買わせたのか?」
モモカが居るパーティーだけ、人間そっくりな敵と戦わせないように。
「本人の前で言うのは、出来るだけ避けた方が良いかなって」
かなり気を遣ってくれていたらしい。
「来ますよ!」
サーベルやカットラスを手にした海賊達と、武器を交える。
「“荒野の風”!」
トゥスカが“荒野の黄昏の目覚め”から風をぶつけ、船側から来た海賊達を足止めする。
「お願い、ナオ!」
「――“超竜撃”!!」
訓練中に変化したという甲手で“ドラゴンナックルバスター”を掴み、突き出した腕から竜属性の光を放って一網打尽にしてくれるナオ!
「“天使剣術”――エンジェルブレイド! “伸縮”!!」
光の威力を宿した剣を伸ばし、列になっている海賊達を串刺しにして始末してくれるクマム。
「混沌の剣」
メルシュが黒白の巨剣を出現させ、クマムを援護。
「“神代の光剣”――ハイパワープリック!」
“偉大なる英雄の光剣”から七メートルを超える刃を生成し――一突きで、洞窟側から来た海賊を全滅させた。
「なんか……弱いな」
「三方向に同時に対処出来れば、大した敵じゃないよ」
「つまり、人数が少なかったり、三方向に上手く対処出来なきゃ危険って事か」
みんなは、上手く切り抜けられたのかな?
●●●
「その貝殻……ありがとうな、ここの奴等に食糧を恵んでくれて」
さっき、お肉と金塊を交換したおじさんから貰った”首掛けの青い貝殻”を見て、船乗りらしき人が声を掛けてきた。
「ありがてぇな! 本当にありがとよ!」
「俺達の稼ぎだけじゃ、全員を食わせてやれなくてな……」
扉の前に居たのと同じ格好をした人達が、私達に駆け寄ってくる。
「うまいもんは食わせてやれないが、ほんの気持ちだ。受け取ってくれ!」
○”海賊のペンダント”を手に入れました。
○“蒼穹魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“颶風魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“天雷魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“硝子魔法のスキルカード”を手に入れました。
○“暁光魔法のスキルカード”を手に入れました。
「俺達海賊は全員戦士だから、魔法は使えねー」
「だから、遠慮無く受け取ってくれ!」
“颶風魔法”は、私にとっては最高ね!
「ありがとう、海賊さんたち♪」
魔法のカードを五枚も貰えたのは、私のパーティーが五人だったからかしら?
「早く行こうよ、サトミ」
モモカちゃんは人が苦手なのか、少し怯えているように見える。
「そうね」
洞窟の方に向かって歩くと、登ったり下ったりを何度か繰り返し……私達は洞窟の中の花畑にたどり……着く。
「あれ? 花畑があるなんて聞いてましたっけ?」
「私は聞いていないな」
リンピョンちゃんとメグミちゃんの二人まで聞き逃してるなんて……ありえない。
私もメルシュちゃんから聞いた覚えが無いし、また観測者側がなにか仕掛けて来たのかしら?
「わあ、お花だ~!」
「ちょっと、モモカ!」
「おい、待て!」
モモカちゃんが、花畑に勢いよく駆け込んでしまう!
「なにかいまぁす!!」
クリスちゃんが叫ぶと、花畑の一角から花びらが舞い上がり――花をカラフルに纏った巨大蛇のようなモンスターが、私達を余裕で呑み込めそうな程大きな顔を突き出した!?
「メグミちゃん!」
両腕の盾から撃ち込んで貰えれば!
「ダメだ、近すぎてモモカに当たる!」
ローゼちゃんとマリアちゃんが持ち堪えているうちに、前に出るしかないか!
「待ってください! 気配が複数あります!」
リンピョンちゃんが教えてくれた瞬間――モモカちゃんを囲むように同じサイズの花蛇が次々と出現した!!?
「“可変”」
クリスちゃんが“砲火剣・イグニス”の柄部分を逆手に持つと、刀身部分が下側になるようにL字に変化し、刀身部分に付いていた持ち手が動いて掴めるように!
「“火炎大砲”――ファイア!!」
両手で構えた赤黒の剣の先端部分から、炎の弾丸をドン!! ドン!! ドン!! と撃ち込み、全て頭を撃ち抜いて、一発で光に変えてしまうクリスちゃん!!
「……フー、全部片付いたみたいでぇす」
「さすがクリスちゃん」
訓練でもフリスビーみたいなのに々と命中させていたけれど、あの状況でも百発百中だなんて凄いわね!
私だったらテンパっちゃいそう。
「モモカ……私が言いたいことは分かるか?」
メグミちゃんが駆け寄って安全を確認したのち、モモカちゃんに声を掛けた。
「勝手なことしてごめんなさい……」
「分かってるなら、わざわざ私から言う必要は無いな」
モモカちゃんの言葉を聞くと、すぐに屈んで頭を撫でてあげるメグミちゃん。
「なんか……羨ましいな」
「サトミ様?」
私が幼い頃、私がなにかミスをするたびに母が豹変し、劈くような声で怒鳴られ、口汚く罵られた。
その異常とも取れる態度は、癌により余命宣告を受けていたから故だったと……私は後から知ったのだけれど……。
私の記憶の中の母は、優しさを取り繕った歪で情緒不安定な女でしかない。
……そんなんだから、感情的になると私も変な行動を取ってしまうのかもしれないわね。
あの……弱い女の娘だから。
「サトミさぁん、リンピョンさぁん……これ見てくださぁい」
クリスちゃんが、恐る恐るチョイスプレートを見せてくる?
○“甘い花弁の刹那”を手に入れました。
「「……あ」」




