222.レギオン加入面接
「この“ファンタズムハープン”Sランクだけれど、これは銛だから、スゥーシャが適任だね」
メルシュがスゥーシャに勧めたのは、藍色と銀の混ざった不可思議な色合いの銛。
スゥーシャが使っている、“天の白河は流れる”よりも一回り大きいか。
「銛は複数あっても……使い分けをどうしたら良いのでしょう、コセ様?」
スゥーシャが、困り顔で尋ねてくる。
いや、なぜ俺?
一昨日の晩、スゥーシャ達と関係を持ったあの晩辺りから、どことなくスゥーシャの雰囲気がサトミさんと被る。
「ジュリーかメルシュに、その銛の特殊能力を尋ねてみたらどうだ?」
「なるほど、さすがコセ様です」
なんか、無理に持ち上げようとしてない?
……アピールしてんのかな。
「こんな所かな」
「おい、この剣は? あの蜥蜴野郎が使ってたんだから、さぞ強力なんだろう?」
ザッカルがアイテム分配を終わらせようとしたメルシュに尋ねたのは……アルファ・ドラコニアンが使っていた、先端が丸味を帯びた鮮やかな赤い大石刀。
「ああ、”愚劣な無我の境剣”か……」
名前からして、神代文字対応っぽい。
「Sランクだし、強力っちゃ強力なんだけれど……それと引き換えに、装備するだけで全てのスキルを発動できなくなっちゃうんだよね」
そうなると、アイツが使っていた見えない力はスキルじゃなくて、元々持っていた力ってことになるのか?
欧米の映画だと、よくあんな感じの力を使う人間が出て来たりするけれど。
特に、アメリカンコミック原作のヒーローとか。
そう言えば、アメリカのヒーローはキャラ一人一人に対し、会社側に著作権があるんだっけ?
「スキルが使えない状況なら、使う価値があるってわけだ……って、そんな状況、滅多に無いよな」
俺の場合、スキルキラーとの戦いがまさにそうだったけれど。
“制限廻廊”も……あの時は、武具の効果も無効化されてたか。
「あれ? アイツ、“瞬間再生”っていうスキルを使ってなかったっけ?」
ジュリーがメルシュに尋ねる。
「たぶん、使い捨てのアイテムを使ったんだと思うよ。それらしいアイテムはドロップしていないし」
使い捨てか……モモカにだけでも持たせてやりたいけれど。
「追い詰められた時の予備武器としてならともかく、トゥスカの”凶狼の腕輪”のような、スキルに制限を掛ける装備が揃うまでは、使用はお薦めしないかな」
「とぅ、トゥスカさんの腕輪?」
「身体能力を強化してくれる代わりに、上級魔法を使えないという制限が掛かるそうです」
気になった様子のカナに、トゥスカが答えた。
Sランク武器が手に入っても、持て余してしまう場合が少なくないな。
結局、”愚劣な無我の境剣”はメルシュ預かりとなった。
★
約束の時間の少し前、俺達はモモカとヨシノだけを館に残し、白いアーチ状の建物がある庭園へと移動していた。
アーチ状の建物の中央には、館の物と同じコンソールが。
建物の外には白い花がそこかしこに咲いており、冷たい風により強く揺れる。
夜空のように暗い空間なのもあって、その光景は幻想的。
「コンソールを使って、こんな場所に来られたんだ」
「あくまで、他のステージに居る人間と会うための空間だがな」
アヤナの言葉に対し、マクスウェルの隠れNPCであるフェルナンダが解説。
「来たみたい」
目の前の空間が揺らぎ、十人の男女が現れる。
獣人四人に人魚が一人、異世界人が五人か。
「「お久しぶりです、ギルマス!!」」
なぜか俺を慕っている様子のリョウと、見覚えがあるようなないような白髪っぽい金髪の少女が前に出て、満面の笑顔を向けてきた!
「リョウは久しぶり……悪いんだけれど、君は?」
「コトリと言います、ギルマス! 突発クエストではお世話になりました!」
第一ステージ、始まりの村での事を言っているのかな?
「そうか、あの時の」
雰囲気がやたら子供っぽい子だ。
あの時、こんな派手な髪の色をしている女子が居た憶えはないけれど。
ナオの髪も青いし、もしかして髪を染める物でも存在するのかな?
「トゥスカさんも、お久しぶりですぅぅぅ!」
「……どうも」
あの様子だと、トゥスカもこの子のことは憶えていないのだろう。
人の事言えないけれど、トゥスカも意外とコミュ障な気がする。
まあ、一般的にコミュニケーション能力が高いと言われる人間は、共感能力はあまり高くないと思うけれど。
自分が言いたいことだけ言って、相手の話や気持ちを理解しようとしていない人間の方が圧倒的に多いし。
むしろ、共感能力が高いがために強い態度で接することが出来ない人間が、陰キャ呼ばわりされる風潮すらあった。
サイコパスって、基本的にみんな陽キャなのにな。
「自己紹介はその辺で。早速、レギオンに加入する件について話そっか」
コンソールを操作し、長方形の大きなテーブルを出現させるメルシュ。
「「分かりました!」」
コトリとリョウが並んで座り、対面に俺が座って、それぞれのリーダーの後ろに皆が控える形となる。
「まず二人は、レギオンに加入を申し込むデメリットは理解しているの?」
メルシュが尋ねた。
「デメリットですか?」
「ああ、自分達の意思では抜けられなくなるってやつ? 別に、私は気にしないよ。ギルマスは信用できるだろうし」
「自分も、ギルマスを信じてますから!」
そんなに信頼されるような真似、俺はした覚えが無いんだけれど。
まさか、突発クエストの作戦を考えたからなんて言わないよな?
「それとは別に、もう一つ問題がある……俺達はこのゲームを仕掛けた奴等に目を付けられていて、モンスターを強化されたり、突発クエストを嗾けられるなど、数々の嫌がらせを受けている」
「「……はあ」」
あ、これ伝わってないな。
「つまり、私達の仲間になれば、今まで以上に死ぬ危険性が増すってことだよ」
「黒幕に狙われてるなんて……さすがギルマスです!」
……へ?
「やっぱり只者じゃないね、ギルマスは!」
あっけらかんとしている様子の二人のリーダーに対し、リョウの背後の六人は明らかに暗くなっているぞ。
「そう言えば、ギルマス達は現在、第なんステージに居るんですか?」
「十四ステージに辿りついたばかりだ」
「「へ?」」
なんか、二人がショックを受けている?
「で、出来る限り急いでここまで来たのに」
「せいぜいニ、三ステージくらいの差だと……ていうか、ギルマスは意外と仲間が多いし!」
意外とってなんだ、意外とって。
まあ、俺達はメルシュとジュリーという情報源があったからな。
本来なら村や街中を回って集めなければならない情報以上の事を、ステージが上がった瞬間にメルシュは全て知り得る上、ジュリーはオリジナルの知識を有しているから、その分早く次の攻略に移れる。
そう考えると、この二人のパーティーが既に第九ステージに居るのは……むしろ凄い事のような気が。
「じゃあ、加入は取り敢えず問題無いと」
最低限の確認は終わったけれど、本当にこのままレギオンに入れて良いのだろうか。
「それで、人殺しの経験はある?」
メルシュの言葉に、場の空気が一気に重くなった。
「勘違いしないで欲しいんだけれど、人殺しをダメとか良いとも言う気は無いよ。ただ、先に進めば進むほど、容赦なく相手の命を奪わざるを得ない状況に遭遇しやすくなるからね」
「俺達は、なにがなんでもこのゲームをクリアして、デスゲームそのものを終わらせる。その覚悟がない者に、手を差し伸べている余裕は無いんだ」
その覚悟が必要だったって事を、俺はいつの間にか忘れていたのかもしれない。
このダンジョン・ザ・チョイスを終わらせないという選択肢が、俺には無いから。




