208.魔神・死回転鰐
「魔神・死回転鰐の弱点属性は氷。有効武器は爪。危険攻撃は、両腕を回転させるデスロール。ステージギミックは、途中から水が流れ込んで来ること。水深は最大三メートルにもなるから、飛ぶ準備をしておくように」
濃い翠の妖精の前で、いつものごとく解説してくれるメルシュ。
今日は、昆虫村で購入した虹色ハチミツをお供え。
カラフルだけれど、どこか毒々しいハチミツを。
……正直、自分では食べる気になれない。
「コセ……またなんか置いてるし」
「あ、あああれ、い、いつもなんですか?」
ザッカルとカナがなにか言っている。
「な、なにしてるんです?」
「なにって……お供えだけれど」
口に出してみると、もの凄く恥ずかしい事をしている気分に!
「そ、そうなんですか……偉いですね!」
パンパンと手を鳴らし、拝んでしまうカナ。
……ここは神社じゃないぞと指摘したくなったけれど……やめた。
「ジュリーさんのパーティーがボス戦を終えたようです、ご主人様」
トゥスカが教えてくれる。
「よし、行くか」
俺、トゥスカ、メルシュ、ザッカル、カナの五人でボス部屋に入る。
●●●
「装備セット2!」
”アシストクローアーマー”という、赤い鎧と鉤爪が一体化した装備を纏う!
「行くぜ!」
有効武器が爪なら、コッチの方が有利だろう!
「来そうだな」
濃い翠のラインを発光させた、両腕と頭がワニの太っちょ魔神が、奥からのっそのっそと歩き出しやがる。
「危険攻撃のデスロールを封じるため、ザッカルは両腕に集中して攻撃して」
「おうよ!」
コセの前で、良いところ見せてやる!
『ギュルウウウワアアアアアアアアアアアッ!!』
俺が前に出ると、魔神が左腕で薙ぎ払いを仕掛けてきた!
「”ニタイカムイ”――”双爪”、”古代爪術”――オールドブレイク!!」
腕の薙ぎに合わせてジャンプと同時に横回転し、宿した両腕の爪のエネルギーを――ワニ頭の腕に炸裂させる!!
「意外と脆いじゃねぇか」
有効武器だからなのか、腕を一発で粉々に破壊できたぜ!
まあ、この”アシストクローアーマー”の特殊効果、”双爪”のおかげで、同時に二発放てたのも大きいかもな。
消費一発分で済むから、燃費も悪くない。
『ギュルウウワアアアッッ!!』
――斜め上から尻尾が!
「”影魔法”、シャドーガード!」
背後から黒い液体みたいなのが飛んできて、尻尾の振り降ろしを防いでくれた?
「今よ!」
「サンキュー、カナ!」
アイツ、普段はウザったいけれど、めちゃくちゃ気が利くじゃねぇか!
あのエロい格好になると、そのウザったさも消えるしよ!
「”跳躍”、”逢魔爪術”――オミナススラッシュ!!」
『ギャアアアアアアアッッ!!』
チ! 当たり所が悪くて、半分くらいしか切れなかった!
「”禍鎌切”、”暗黒鎌術”――ダークネススラッシュ!!」
鎌を振るとジグザグ刃が直線上に伸びて――半壊していた右腕のワニを完全に破壊したぞ!
「アイツ、なかなかやるじゃん!」
前に所属してたってレギオンは、なんでこんな気が利く奴をわざわざ追い出すような真似をしたんだ? 理解出来ねー!
「”裂光爪”、”四連瞬足”!!」
橙色の大爪を”アシストクローアーマー”の右爪に纏わせるように出現させ――”瞬足”の速度に合わせて足首を切り刻む!
「――ハイパワーサイズ!!」
また刃が直線上に伸び、俺が動きを止めたタイミングに合わせて、カナがワニの頭を切り貫いた。
「フー……なんとかなったわね」
魔神の身体が、光に変わり出す。
「おい、カナ!!」
「ヒ!! な、なに!?」
お? この格好の時でも、ビビりな部分は残ってんのか。
「マジで助かったぜ、カナ! これからもよろしくな!」
「へ? ……ええ、よろしく」
俺、コイツのこと気に入ったかもしんね!
●●●
「たった二人で、それも文字の力無しで倒したか」
「パワー重視のザッカルが、有効武器を最大限に生かしたからね。カナのサポートも的確だったと思うよ」
「援護に入ろうと思ってましたが、カナさんの動きがとても良かったので、必要ありませんでしたね」
実際、ザッカルの危機を救ってくれたしな。
あの時、尻尾の振り降ろしが見えたときは……一瞬、本気で焦った。
「カナを追放してくれた人間達には、感謝しなくちゃな」
的確なサポートが出来たって事は、彼女なりの信があるのだろう。
信がない人間なら、高度な連携、サポートを訓練無しでは出来ない。
ある程度情報があったとはいえ、初見である魔神の攻撃に対し、ほぼ初めて連携するザッカルを、的確にサポートしたのだから。
逆に、カナが大勢に排斥された本当の理由が見えてきたかも。
信があるって事は、意に沿わない相手には従わないということ。
能力的には優れているし、彼女に協調性が無いわけじゃない……気に入らないから追い出したってところかな?
潜在的に他人を支配しようとする人間にとって、俺やカナ、このレギオンのメンバーの大半は目障りだろうからな。
そういう人間ほどグループのリーダー、まとめ役になりたがるもの。つまり、出世して人の上に立ちたいという人間は、十中八九潜在的な支配欲、利己主義に取り憑かれている。
たぶん、俺がサトミさんとアヤナを好きになれない理由なんだろうな。
メルシュやジュリーは、その辺を意識してみんなに情報を開示している気がする。
○おめでとうございます。魔神・死回転鰐の討伐に成功しました。
「どうした、コセ。辛気くさい顔をして」
ザッカルがカナの肩に手を回しながら、こっちに戻ってくる。
「いや、そろそろ選ぼうか」
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★鰐頭の牙甲 ★回転術のスキルカード
★回転のスキルカード ★回転鰐尻尾
「選ぶなら”回転術”か”回転”かな。”回転”は地味に便利だし、”回転術”は”転剣術”とかの投擲攻撃と組み合わせて強化出来るよ。武術と組み合わせる場合は、”二重武術”が必須になるけれど」
「それだと、私は”回転術のスキルカード”が良さそうですね」
トゥスカは決まりだな。
「”回転”を適用出来る武具って結構多いし、特に理由が無ければ”回転”をお薦めするかな。円形、正方形、正五角形とかの偏りの無いタイプの盾には適用出来るし、空中を漂うタイプにも使えるよ。体術にも応用出来るけど」
俺は大地の盾を使うこともあるし、”竜剣”とも組み合わせられそう。
「そう言えば、ジュリーは体術に組み込んでたな」
良い一発を貰ったから、よく覚えてる。
「どれも必要無いなら、”回転術のスキルカード”を選んで欲しいかな」
「私は”回転”を」
「俺もだな」
俺とカナは”回転”を選択。
「この”回転鰐尻尾”って言うのは?」
ザッカルが尋ねる。
「”回転”の効果がある、先端がドリルみたいな尻尾だよ」
「私の”蠍の鋼鉄尾”みたいな物ですか?」
「面白そうだけれど、やめとくかな」
「だったら、ザッカルは尻尾を選んで。私は”鰐頭の牙甲”を選ぶから」
メルシュ、やっぱり魔神系の武具を一通り揃えようとしている?
○これより、第十四ステージの荒野の貧村に転移します。




