187.魔神・銛人魚
「魔神・銛人魚は、その名の通り銛を使う巨大人魚だよ。危険攻撃は“銛術”のハープーンブレイク。弱点属性は雷。有効武器は銛だよ」
銛を使う相手なのに、有効武器も銛なのか。
「空中を自在に泳ぎ回るし、ステージの中央が水槽になってるから気を付けて」
中央部分が水槽ってどういう感じなんだろう? 昨日のうちに図で説明されたからおおよその察しはつくけれど、イマイチ感じが掴めない。
「じゃあ、お先に」
ジュリーをパーティーリーダーとする、サキ、サトミさん、リンピョン、メグミさん、クリスの六人がボス部屋の中へ。
雷に特化したジュリーが居るし、もっとも楽に突破出来るパーティーだろう。
サキが“シュメルの指輪”を装備しているため、隠れNPCが二人でもパーティーを組める。
「今回の隠れNPC、エスパーもダメだったか」
メルシュが呟く。
「地下八階のモンスターを全滅させるんだったな」
「そうすれば、“紫の水晶玉”って言うのが手に入る予定だったんだけれど、条件的に偶然発見されててもおかしくないからなー」
これまでの入手条件の中では、かなり楽な方だったな。
モンスターの数も死角も多いから、大変っちゃ大変だったけれど。
頑張ったのは、クマムとスゥーシャの居るパーティーだけれど……二人のLvは、レギオン内ではまだまだ低いからな。
「昨日はあれで時間を使いましたが、スキルカードがドロップしたから良かったじゃないですか」
トゥスカがメルシュを励ます。
「アイツから手に入るスキル、結構便利だったからさ」
「敵として遭遇した場合の心配じゃないんだ」
「まあ、そっちも心配っちゃ心配だけれど」
先に進めば進むほど、このゲームの先駆者と戦う事になるかもしれない。
幾ら強い装備やスキルを手に入れても、常に引き締めていかないと。
例のごとく、お役目に預かれない碧い妖精に手を合わせた。
「……マスターはなにをしてるの?」
●●●
ボス部屋の奥で、碧く発光し始める魔神・銛人魚。
「ワー、あんなにおっきいぃですか。ビッグ、マーメイド!」
クリスが怯え……るどころか興奮している様子。
「クリスちゃんは、感じを掴むためにも今日は見学ね」
「ハーイ! 分かりまーした!」
サトミさんが手綱を握っているようだから、取り敢えず安心……かな?
……アメリカ出身の日本留学生をわざわざ隠れNPCに……もし私の予想が最悪の方に当たってるなら……彼女はデルタ側の人間かもしれない。
数日掛けて色々説明したとはいえ、早々に現状を受け入れ過ぎている気がするし。
確証がない以上、コセ達にはまだ秘密にしておこう。
「“二重魔法”――サンダラスヘブン!!」
白い爪の生えた雷を二柱迸らせ、動き出した銛人魚の両肩に突き刺した。
「金星球、“回転”、“磁力”!」
動きを止めたところに金星球を当て――壁にめり込ませながら削っていく!
「サトミさん!」
「分かったわ!」
二人で四つのヘブンスプランターを発射して、金星球を強化!!
『ギャアアあああああああああああああああッッッ!!!!』
開始一分足らずで、勝負が付いた。
●●●
ジュリー達が終わったあと、俺、トゥスカ、メルシュ、クマム、スゥーシャの五人でボス部屋に入る。
「“二重魔法”、“万雷魔法”――サンダラススプランター!」
開始早々にメルシュが雷を浴びせると、銛人魚が猛スピードで部屋の中央へ移動。
次の瞬間、真ん中の溝から、一面を塞ぐ形で水が噴き出た!
「これが水槽か。スキルや武具効果の威力を半減させるんだっけ」
「どうする、マスター?」
「私が行きます!」
「私も!」
クマムとスゥーシャが突撃してしまった!
「大丈夫かな……」
「Lv的には余裕なくらいかな」
「では、ひとまず任せてみますか」
装備もスキルもそれなりに充実したはずだし、大丈夫かな?
ジュリーが譲ってくれた新しいスキルを試したかったけれど、まあ良いか。
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「“一角水魚”」
数日前に私が殺した、人魚の腕輪を使用。
水のカジキの背鰭に掴まり、水槽の中に飛び込みます!
真っ白なトライデント、”天の白河は流れる”を握りしめながら――突撃!
巨大な灰黒石の人魚が、石の銛に光を纏わせて投擲してきた!
メルシュさんが言っていた――危険攻撃!
「“渦の障壁”!」
“天の白河は流れる”の力で、前の持ち主よりも強化された状態で発動!
三つ叉の石槍を押し留め、その隙に水のカジキでお腹部分に突撃!!
「”深淵槍術”――アビスブレイク!!」
石の人魚の一部を破壊し、大きな亀裂を入れた状態で――コセ様達が居る方に水槽から押し出す!
「きゃあああああああッッ!!」
地面にぶつかった反動で弾かれて、空中をグルグルと回ってしまう!
「スゥーシャさん!」
クマムさんが、花のようなデザインの脚甲から竜巻を放ちながら……私を受け止めてくれた?
○○○
「“竜巻噴射”!」
一昨日にいただいた“白百合の竜巻脚甲”の靴底から緑の竜巻を発生させて、スゥーシャさんを抱き止める!
「スゥーシャさん!」
勢いが止まったのち、スゥーシャさんを離す。
人魚って、みんな空を泳げるんですよね。不思議です。
「ぅぅ……目が回って……」
「あとは私が!」
『ギエエエエエッッ!!』
魔神が浮かび上がり、空中を泳いで迫ってくる!
「“疾風迅雷”、“尖衝武装”!」
雷と風を脚から迸らせながら“伸縮のレイピア”に赤い光を纏わせ――突撃!!
「ハイパワープリック!!」
何度目かのフェイントののちに眉間に突き刺すと――激しく暴れられる!
「パワーニードル! “伸縮”!」
パワーニードルで防御力を無視しながら刀身を伸ばし、深々と突き刺す!
新しく手に入れたスキル、ここで試させて貰います!
「――“共振破壊”!」
相手に突き刺した武器が深く入り込んでいればいるほど、ダメージを増加させるというスキル!
『ギャあああああああああああああああああッッッッ!!!!』
レイピアが強く震え、それ以上に魔神が強く震えだし――――粉々に弾けた。
「や、やった……」
●●●
「……二人とも強くね?」
あっという間に倒しちゃったよ?
「“共振破壊”を上手く使ったね。最初はどうなるかと思ってたけれど、スゥーシャもいつの間にか凄く強くなってる」
「神代文字もSランク武器も無しでこれですから、大した物だと思います」
Lv差が埋まったら、俺より強いんじゃないか?
○おめでとうございます。魔神・銛人魚の討伐に成功しました。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★銛人魚の三つ叉銛 ★銛術のスキルカード
★サブ職業:氾濫魔法使い ★遊泳の下半身
「この”遊泳の下半身”ていうのが、擬似的に人魚になれるんだっけ?」
「私達は全員、“潜水”スキルのおかげで水中呼吸出来るから、必要無いけれどね」
「でも、空を泳げるんですよね?」
クマム達が戻ってきた。
「お疲れ」
「お疲れ様」
「二人とも、やるじゃん!」
「「ありがとうございます!」」
初めて会ったときと違い、二人とも良い笑顔を見せてくれる。
「ま、今回は好きなのを選んで良いよ」
俺は、“氾濫魔法使い”のサブ職業にしておくか。
○これより、第十二ステージの機織りの町に転移します。




