183.再会と新たな出会い
○戦士.Lv42になりました。特殊アイテム、”リングリング”をお受け取りください。
「“リングリング”……確か、モモカが持ってたよな」
後でメルシュかジュリーにでも聞いてみよう。
それにしても、久しぶりにLvが上がった。
最後に上がったのがアテルと出会う前だから、数ステージ丸々上がらなかった事になる。
『……突発クエストクリア。勝者はレギオン、《龍意のケンシ》』
突然、そんな放送が聞こえてきた。
「誰かが屋上に辿り着いたようだな」
「良かったです」
神代文字を限界以上に引き出した反動でろくに動けなくなっていた俺を守ってくれていた、メグミさんとクマムが呟く。
翠の竜を模した鎧に茶髪のポニーテールが印象的な長身のメグミさんと、長い茶髪の細剣使いである元アイドルのクマム。
二人が来てくれて、本当に助かった。
「全員、無事だろうか……」
『特典として、集めた鍵の数×100000Gが持ち主に授与される。これにて、突発クエスト、古城遺跡での特殊レギオン戦は閉幕だ!!』
なんか投げ槍だな。
「もう少し取り繕ってもいいんじゃないか?」
自分の感情に正直か。
「……で、この後はどうすれば良いのだろう? 屋上に行って、皆と合流すれば良いのか?」
「それが、もっともレギオンメンバーに会えそうな方法ですね。道中、襲われる心配はまだありますけど」
突発クエストが終わったとはいえ、遺恨を持った相手に襲われる可能性もあるし、合流を急いだ方が良いのだろうか?
――などと思っていると、身体が不自然に硬直し……光に包まれていく。
★
光が収まると、そこは転移前の橋の上。
「戻ってきたのか」
見渡すと、レギオンメンバー二十三人全員が居た。
「……あれ、リーダー……達は?」
戸惑っていたのは、俺たちに取り囲まれていた《攻略中毒》の男女三人。
「ま、まさか……俺達以外……全員…………GO?」
「そんなんありかよ!」
「良いから逃げるわよ! “飛行魔法”、フライ!!」
空を飛び、三人が逃げていく。
「ようやく、終わったって気がしてきた」
「ご主人様!!」
トゥスカが、慌てた様子で抱き付いてきた!
「おわ!!」
黒髪の美しい犬獣人……俺の最愛の人のぬくもりが伝わってくる。
「ご無事ですか!? どこか痛いところはありませんか!?」
「大丈夫、大丈夫だから。メグミさんとクマムが守ってくれたし」
実際に助けてくれたのは、キクルという白い面の男だけれど。
「で、“薔薇騎士”のクリスティーナっていうのはどこ? 誰か知らない?」
長い緑味を帯びた白髪と碧眼、緑のローブドレスを着た美少女隠れNPC、ワイズマンのメルシュが尋ねる。
「彼女なら魔法の家に送られた。契約者が決まるまでは、あっちの空間から出られないらしい」
メルシュの問いに答えたのは、イギリス人と日本人のハーフであるジュリー。金髪緑眼の、女神を彷彿とさせる程の美貌の持ち主。
「なら、まずはクリスティーナに会いに行こうか」
橋を渡り終えた所で、俺達は俺達の家が並ぶ異空間の土地へ転移した。
★
「コセさん、彼女です」
青い着物と黒い具足を身に付けた黒髪ポニーテールの凄腕の剣士、ユイが教えてくれる。
俺の“神秘の館”の庭を、物珍しそうに観察する美女……彼女が、例の隠れNPCらしい。
「クリスティーナさん!」
ユイが声を掛ける。
「ハーイ、初めま~して皆さん。私はぁ、アメリカ産まれのクリスティーナでぇす!」
赤紫の薔薇模様のドレスを着て、金髪をポニーテールにしている美人が握手を求めて来た。
「隠れNPCなのにアメリカ人? あ、すいません。俺の名前はコセです」
よく分からないまま、握手を交わす。
「このぅ、不思議な場所はぁ、どこでぇすか? 私、大学の発掘手伝いでぇ、岩手県に居たはずなのにぃ……どこ、ここ?」
「メルシュ……彼女は……」
「……うん、システム的な繋がりを感じない。少なくとも彼女は、トライアングルシステムとは関係のない存在みたい」
それを隠れNPCと称してクエストの景品にするなんて……どういうつもりなんだ、デルタ側は?
「それに、まるで私達と同じ世界から来たかのような言い草ね」
「訛も凄い……本当にアメリカ人なんじゃないの?」
黒髪サイドテールで輪っかを作っている魔法使いのアヤナと、その双子の妹の戦士であるアオイが、彼女をNPCではなく人間ではないかと指摘してきた。
「NPC? ノンプレイヤーキャラのことでぇすね……そういえば、この妙な格好はなに? それに、この変な剣はなぁんですかぁ? 日本じゃ銃刀法違反で、捕まってしまいまぁす!」
「アメリカでも捕まるだろ」
薔薇のガードが付いた、細身の長剣なんて持ち歩いてたら。
「お金ぇ渡せば、アメリカではどうとでもなりまぁす。特に、私の住んで居た場所の警察官はぁ、賄賂でぇなんでもやる人バッカリです」
今、とんでもないことを口走らなかったか?
「そういえば、私がアメリカに行ったとき、日本人だと知った途端、銃を触らせてやるから3$くれと言われたな」
メグミさんから意外な情報が!?
「向こうは銃社会だから、銃が一般的じゃない日本人なら興味を持つとでも思ったんでしょうね」
イギリス人のハーフだからか、訳知り顔で補足するジュリー。
「だから、日本はとても安全! 大麻は強く規制されてるし、薬物キメてる若者ほとんど居ません! 私、日本のそういうところぉ、素敵だと思いまぁす!」
俺からすると、言うほど素晴らしいとは思えないんだけれど。
空腹が最高のスパイスというのと、似た理屈だろうか?
「つまりクリスティーナは、この世界の事を何も知らないわけね」
「ハーイ、全然わかりませぇん! 色々教えてくーださい!」
「良いわ、たくさん教えてあげちゃうから♪」
緑のローブ服に身を包んだ、大和撫子を地で行く長い黒髪の女性であるサトミさんが、クリスティーナの手を取る。
「オー! 和製人形みたいな人でぇす! ベリーベリービューティフォー!」
この二人、なんかノリが似てるなー。
「サトミ様の浮気者!」
如何わしいピッチリ青服を着た、青髪ツインテールのウサギ獣人であるリンピョンが……悔し涙を流してる?
……あれ、なんかいつもと違って可愛く見える気が……?
「コセ……疲れた」
ピンクドレスを着た茶髪ローツインテールの七歳児、モモカが俺の指を引っ張って訴え掛けてきた。
「そうだな」
ボス戦の後、休む間もなく特殊レギオン戦に巻き込まれたもんな。
「どこか、怪我したりしてないか?」
お姫様抱っこしながら尋ねる。
「うん、大丈夫! アオイとアヤナが守ってくれたから!」
「そっか」
無理してる感じいもないし、二人のお陰でモモカは怖い思いをせずに済んだようだ。
ノリで無理してモモカを助けに行けなかったとか、さすがに反省しないと。
「ありがとな、アヤナ、アオイ」
「フフ、せいぜい感謝しなさい♪」
「そうだ。珍しく、うちの姉ちゃんがまともに活躍したんだからな! ドン!」
自分で効果音を口にしたよ、この無表情器用娘。
「ジー……」
「ん?」
……俺達を、先程までの元気はつらつな空気を消して窺っているクリスティーナ……さん?
「あの……なにか?」
「…………小児性愛者でぇす」
俺、この人嫌いだわ。




