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18.隣室の女

「ああぁぁ! ご主人様♡!! ご主人様♡!! もっと!! ああっ♡♡! ああっ♡♡♡!」



 うるッさーーーーーーーーーーーい!!



「すぐ隣でイチャイチャしやがって……」


 こちとら部屋を出るのが怖くて、もう三日も部屋に籠もってるんだぞ!


 どこの誰だか知らないけれど、イヤラシい声が丸聞こえなんだよ!!


 しかも、微かにご主人様とか言ってるのが聞こえるし!


 隣で主従プレイやってんじゃねぇよ!


 今何時だと思ってんのよ! 深夜の一時近ぇんだぞ! もう三時間以上喘ぎっぱなしじゃないか!!


「……私も、彼氏が欲しい……」


 私を守ってくれるような、頼れる彼氏が……。


 ……あいつは、もう先に進んだのかな?


 あいつと一緒なら……な、なに考えてんの、私!!


 ……あいつは、私の胸をほとんど見てこなかったし、隣の盛りがついた獣共とは違って、きっと澄まし顔浮かべながら……一人で先に進んでいるんだろうなー。


 これから……私はどう生きていけば良いの?


 そんな事を考えながらも、槍の男が怖くて部屋から出られずにいた。


 当たり前のように、人間を殺した異常者。


「ご主人様、もう一回♡! もう一回だけ♡♡!」


 いい加減にしろーーーーーーーー!!


 などと思いながら、抗議に行くわけでも無く、毛布を頭に被って夜を明かした。



●●●



「だ、ダンジョンに行くぞ」


 ちょっと、昨夜はハッスルし過ぎた。


 一昨日の夜にトゥスカと結ばれた俺は、昨日は朝から色々感情が込み上げて何も手に付かず、ダラダラ過ごしてしまった……アイテムの整理とかしてたけれど。


「今夜も、たっぷり可愛がってくださいね♡」


 トゥスカさん、性欲強過ぎです。


「あ、これを装備してくれ」


 チョイスプレートを操作し、トゥスカに“彷徨う者のマント”を渡す。


「ご、ご主人様のお下がり♡」


 トリップしているかのように喜ぶトゥスカさん。


 そんなに、お、俺の事好きなんだ。


 大切にしよう、絶対に。


 俺は“彷徨う者のマント”の代わりに、槍の男が使っていた“武器隠しのマント”を纏う。


「お似合いですよ、ご主人様♡」

「おう、ありが…………」

「ご主人様?」


 昨日の反省を生かし、トゥスカさんの露出を下げようとマントを送ったのに…………ま、前が全然隠れていないどころか……マントから覗く魅惑的な脚やヘソ、胸元なんかが余計に如何わしく見えてしまう!


 昨日、俺はあのエロい身体を……か、考えないようにしよう!


「フフフフ、こうすれば見えないですよー♡」


 俺の考えはバレていたらしい。


 昨日のように腕を組み、昨日以上に胸を密着させてくるトゥスカ。


 俺の理性を飛ばしに来てません?


「行きましょう、ご主人様♡」

「……はい」


 贅沢な悩みだ。



             ★



「――パワーキック!!」


 トゥスカが”格闘術”を発動し、リザードマンの顔面を蹴り弾く!


 Lv5になったとき、彼女はサブ職業選択で拳闘士を選択していた。


『ぐおおおおおおおおっ!!』


 大型の熊、ネイルグリズリーと呼ばれるモンスターが腕を振り下ろしてくるも、身を捻って躱すトゥスカ。


 俺達二人は、以前来たときよりも深い場所まで潜っていた。


「パワーブーメラン!!」

『ぎぁおおおおおおおお!!』


 トゥスカの放ったブーメランにより、ネイルグリズリーの振り上げていた左腕が飛んだ。


 俺は跳躍し、戻って来たブーメランを掴み――ネイルグリズリーの頭に振り下ろす!


「パワーブレイド!」


 頭と喉を通り、鎖骨下まで切り裂いた。


「ご無事ですか、ご主人様?」

「ああ。それにしても、思っていたより使えそうだな、”連携装備”」


 ”転剣術”を互いに修得している俺達には、とても有用かもしれない。


「そうですね♡ ご主人様が私のブーメランを掴んで技を繰り出した瞬間、強い絆を感じてしまいました♡」


 幸せそうな顔をするトゥスカ。


 下ネタを並べられた気がするのは、きっと気のせいだろう……自意識過剰が過ぎる。


「先へ進もう」


 ここまで、一切選択肢は出ていない。宝箱もないし、経験値とリザードマンが手にしている武器くらいしか旨味が無い。


 第二ステージの洞窟は上も横も第一ステージより広く、十分にブーメランを投げる余裕がある。


 俺も思いっきり大剣を振り回せるし、第一ステージよりも戦いやすい。


 その分、四方八方からモンスターに襲われる心配もあるけれど。


 ただ、俺達にとっては大した問題ではなさそうだ。


 巨大な門が見えてくると、門の周りから翼長五十センチくらいありそうな巨大蝙蝠の大群が飛び立ち、襲ってきた!


 数は多いけれど、魔法があれば楽そうな状況。


 そのうち魔法が必要になってくるだろうけれど、この程度なら問題無い!


「「パワーブーメラン!」」


 ”武器隠しのマント”の中から”ビッグブーメラン”を取り出し、トゥスカと同時に”転剣術”を発動。


 示し合わせたように二人で同時に駆け――互いが放ったブーメランを掴み、再び”転剣術”を発動する!


 近付いてきた蝙蝠には、俺は”グレートソード”で、トゥスカは”雷の斧”と蹴りで応戦。


「ハイパワーブレイク! ……あれ?」


 そっか! パワーブーメランを発動しているから、他の武術系スキルを発動出きないんだ!!


「ご主人様、シールドバッシュ!」


 ”ビッグブーメラン”を掴み取り、俺の前に出たトゥスカが”盾術”のシールドバッシュを発動し、蝙蝠達を吹き飛ばす。


 大きいブーメランだと、腹部分から”盾術”を発動することが可能らしい。


「大丈夫ですか、ご主人様?」

「ありがとう、トゥスカ」


 眼鏡女の時と違い、トゥスカには素直に、自然に感謝を伝えられる。


 未だかつて、こんなに素直に感謝を伝えられた事は無い!


「ハイパワーブレイク!!」


 “獣人の伝統ブーメラン”を掴んでから”大剣術”による衝撃波をぶつけ、数十匹まとめて葬り去った。


 少なくなった蝙蝠を、一匹ずつ作業のように減らしていく。


「トゥスカ、TPはまだ残ってるか?」

「連発したので、三分の一まで減りました」

「俺も半分以下だ。今日はここまでにしよう」


 あの黒い門の向こうから淡い橙の光が発せられており、逆光でより門を黒く染め上げている。


「明らかになにかありそうだな」


 例の、奴隷が居ないと先に進めないという地点だとすると、この先に進んだら二度と村には戻れない。


「明日、この先に進むんですね」

「ああ」


 この先、俺はトゥスカと二人で生き残れるのだろうか?


 いや、必ず二人でこのダンジョンを越える!


「ご主人様、Lvが8に上がりました」

「俺も10に上がった」


○戦士.Lv10になりました。スキルの最大数がプラス10になります(全部で20)。


「……最大数、一気に増えたな」


 でもこれで、これまで保留にしてきた二刀流を修得出来る。


「ご主人様、属性付与スキルを修得と出たのですが、どれを選択すべきでしょうか?」


 俺も、まだ選択して無いんだよな。


「トゥスカのスキル数は9だし、Lv9で予備スキル欄”が使用できるようになってからでいいんじゃないか?」


 トゥスカには”水魔法”を覚えてもらったため、スキルの修得可能数に余裕が無い。


「なるほど、敢えて選択しないでおくという選択もありますか」


 間違っているわけではないけれど、なんかバカにされているように聞こえてしまう。


 耐え忍ぶとか虎視眈々という言葉もあるんだし、別に優柔不断と切って捨てられる覚えは無いですよ。


 誰に訴えているんだ、俺は!


「もう少しTPが回復したら、今日は戻ろうか」

「そうですね」


 “二刀流のスキルカード”を使用し、俺達は帰路に就いた。



            ★



「おお、アンタか。注文の品なら出来てるよ」


 村に戻ってくる頃には夜になっていた。



○”グレートオーガの短剣”を受け取りました。



 早速、チョイスプレートを操作して実体化。


「おおー!」


 あの灰色のオーガの角と同じ、漆黒色の刀身と柄。


「振ったときの感覚は似ているけれど、前のより握り心地が良い!」


 切れ味までは分からないけれど、良い買い物をしたと確信出来る。


「ありがとうございます、おじさん!」

「なにか用か?」


 NPCのバカヤローー!! 最初に店を訪れた時と同じ返しをしやがって!


 お礼を言ったのがバカみてーじゃねぇか!!


「帰りましょうか、ご主人様」

「……うん」


 さり気なく手を握ってくれるトゥスカの優しさに、溺れそうだ。


 店を出ると、昨日の光景が蘇った。


 両手を合わせる。


 罪っていうのは、一時的に忘れることはあっても、いつまでも心を苛むものらしい。


 でも、目を背けてしまったら、トゥスカと未来を歩めなくなる。そんな気がする。


「ご主人様、あの人……」


 トゥスカが指摘した方向から、同い年くらいの金髪の女性が歩いてくる。


「よかった、ちゃんと起きたんだね」


 金髪の女性が、目の前まで来て声を掛けてきた。


「……もしかして」

「ご主人様を助けてくれた方です」


 この人が、俺の命の恩人。


「危ないところを魔法で助けてくださったと聞きました。ありがとうございます」


 深々と頭を下げる。


 今日は、やたらと素直にお礼が言える日だ。


「いいよ、私に責任が無かったわけじゃないから」

「責任?」


 マントの中に金色の甲手が見えた。左腕にだけ装備しているらしい。


「ボス部屋の前でね、奴とパーティーを組んでこの村に来たんだ。直後に私も殺されそうになったけれど」


 そういう経緯があったのか。


「それでもお礼がしたい。なにか欲しい物があったら言ってくれ」


「ああー……じゃあ、お言葉に甘えて。ブーメランって持ってない? 槍でも良いんだけれど」

「奴隷用の武器ですか」

「さすがにバレたか」


 槍男から手に入れたスキルカードの中に、”転剣術”は無かった。


 それだけ、”転剣術”を手に入れられる確率は低いのだろう。


 俺も、”盗術”を持っていなければあのルートは選ばなかったし。


 それに、この村でブーメランはおそらく手に入らない。


「ご主人様」

「良いよ」


 トゥスカが“獣人の伝統ブーメラン”を差し出す。


「良いの?」

「これも貰ってくれ」


 槍男の“水の槍”も手渡す。


「出ておいで、タマ」

「はい……」


挿絵(By みてみん)


 女性のマントの中から、小柄な白髪の獣人が出て来る。


 白い短パンとインナーという格好で、トゥスカの服に似ていた。


「彼女はタマ。私の奴隷だ。タマ、挨拶とお礼を」

「ね、猫獣人のタマです……ぶ、武器を恵んでくださり、ありがとうございます」


 タマちゃんに、二つの武器を手渡す。


「本当にありがとう。リザードマンからブーメランが手に入らないから、ここで作って貰おうと考えていたんだ」


 だからここで会ったのか。


 というか、この人もダンジョンに入ってたのかな?


「俺はコセだ」

「私はジュリー」


 握手を交わす。


「困った事があったら言ってくれ。俺達は、明日には村を出る予定だけれど」

「なら、またどこかで会った時にでも」


 そうして、俺達は別れた。


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