179.氷と炎と雷の邂逅
「ぐはッ!!」
やたらデカい異世界人を、“レーザーソード”で注意を引きつつぶん殴った。
「や、やるな! “瞬足”」
距離を取ったかよ。
「仕掛けてきたって事は、俺を殺す気って事で良いんだよな?」
戦闘音を聞きつけてやってきたら、いきなり目の前の黒鎧に襲われた。
「その強さに装備、レギオンの幹部と見た!」
「は?」
いや、下っ端だけど?
「俺にコイツを使わせたこと、誇るがいい! 獣人の女!!」
なんか、勝手に盛り上がってんな。
「武器交換――”アルテミスの魔弓”!」
手にしていた木製の弓を、バカデカい黒と銀の弓に変え……弓弦代わりの金属部を引いた?
「“聖水弓術”――セイントブレイズ!!」
図体に似合わず色々女っぽいなと思っていたら――俺の知る武術スキルとは比べ物にならない程の攻撃が飛んできた!!?
「――“四連瞬足”ッ!!」
”瞬足”一回じゃ躱しきれない程の水光矢を、なんとか躱しきる!!
「……危な」
このふざけた威力……もしかしてSランク武器って奴か!?
それでも、直撃したはずの壁は傷一つないんだから、変な世界だぜ。
「武器交換――“滅剣ハルマゲドン”」
“レーザーソード”を、刃の無い黒の大剣に持ち替える。
コイツを握ると、心強いっつうか……コセを近くに感じるっつうか。
さっきの光矢への恐怖心が鎮まっていく。
「随分大仰な大剣に持ち替えたな。貴様を殺して、このダイスケ様が使ってやる!」
「喋れば喋るほど小者クセーな、お前」
「はぁ?」
コセは理知的だし、こっちが理解出来ていない事に気付くと、すぐに言葉を変えて説明し直してくれるんだよな。
「むしろ、俺らがその弓を貰ってやるよ――“宵闇瞬足”!」
薄暗いこの部屋なら、見失いやすいだろう!!
「せ、“聖水弓術”」
「――“終末の一撃”!!」
矢が放たれるよりも早く、異世界人の男を黒の暴威の中に消し去った。
○“アルテミスの魔弓”を手に入れました。
○“アールヴの風弓”を手に入れました。
○“ストームブリンガー”を手に入れました。
○“ブラックオリハルコンの大剣”を手に入れました。
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「色々手に入ったな。弓はともかく、レギオンに貢献できそうな物が結構あるぜ」
……いつの間にか、誰かの事を考えて生きるのが当たり前になっている。
「アイツらに出会ってそんなに経っていないのに……変わったな、俺も」
○“巨悪を穿て”を手に入れました。
○“天の白河は流れる”を手に入れました。
「んん?」
●●●
「“煉獄爪術”――インフェルノネイル!!」
「おわぁぁぁぁぁッ!!」
神代文字を刻んだ“煉獄は罪過を払いけり”で、襲ってきた男達の剣を切り折る!
「クソ! 化け物女が!」
「ちょっと胸がデカいからって、調子に乗りやがって!」
関係ないでしょうが!!
「命まではって思ってたけれど――ぶっ殺してやろうかしら」
「「「ヒ!!」」」
みっともなく尻餅を付いて、後ずさりする三人組。
……よくここまで生きて辿り着けたな、コイツら。
『『『ギシャアアアアアああああ!!』』』
赤いレギオンナイトが、男達の背後から殺到してくる!!?
「あんたら、早く逃げなさい!」
「「「へ?」」」
ダメだ、間に合わない!
「た、助け!!」
「ゴブッ!!」
――二人を盾にした男が、一人で私の横を駆け抜けていった。
「……クズめ! “煉獄魔法”――インフェルノブラスター!!」
通路を塞ぐように紫の炎線を燃え荒らし、赤いレギオンナイトを一掃。
「ユリカ!」
「メルシュ? シレイア達も」
隠れNPC四人組が、階段下側から現れた。
「ハイレギオンナイトの数が急速に増えてる! 急いで地下から脱出しないと!」
窓が無くて暗いと思ってたら、ここ地下だったんだ。
「ここはまだ地下六階だから、最上階の十階までまだまだあるよ!」
「そんなに!?」
十六階分あがるとか、気が滅入るんだけど。
●●●
「みんな……どこ行ったのよ~」
すっっごい寂しいんですけどぉ……。
転移してからずっと、誰にも遭っていない。
「最近、やけに音とかに敏感になってきたのよね……ぅう」
そのせいか、小さい音にビックリしたり、不快感を覚えることが増えてきた。
でも、逆に相手がなにを考えているのか、察しがつく事も増えてきたのよね。
だからこそ、私のこれまでの発言が、結構無責任というか……相手を傷付けてたかもって思うようにもなってきてる。
「……そろそろ出て来たら? いつまでも上に居られると、気になって仕方ないんですけどー」
「チ!」
天上のシャンデリアに隠れるように移動していた女性の人魚が、トライデントを持って縦横無尽に泳ぎ出す!
「異世界人が、調子に乗るな!」
「なんの話よ!」
トライデントを突き立てて来たから、”氷炎の競演を観よ”で掴み止め、思いっ切り通路の窓に叩きつけた!
「ああああッッ!!」
「争う気はないわ。お互いに、仲間と合流するのを優先しない?」
「仲間? ――私に仲間などいないッ!!」
凄い剣幕で怒鳴られる!
「私を買って……弄ぼうと!! 異世界人共は、絶対に許さないッッ!!!」
人の怒気に当てられるのが、以前よりも格段に恐くなったな。
「色々あったんでしょうけれど……私や私の仲間を狙うつもりなら、容赦しないわ」
「異世界人風情が、生意気だと言っている!! “帯電”!」
翠の人魚が、トライデントの穂先に緑色の雷を迸らせ始めた!
「いっツ!」
思わず手を離し、飛び退く!
「異世界人は――みんな死ね!!」
穂先を”栄光の杖”で払うたびに雷が迸って、手を中心に身体がだんだんと痺れていく!
痛みと痺れで、意識が遠退く感覚が……。
「くのっ! ――“魚群”!!」
水で出来た魚達を出現させ、翠の人魚に殺到させる!
「鬱陶しい!! ――“雷撃”!!」
トライデントから黄雷が放たれ、“魚群”が全て弾き飛ばされた!
「くたばれ、異世界人!! “緑雷槍術”――グリーンサンダーチャージ!!」
こんなところじゃ、まだ死ねない!!
「――“氷炎乱舞”!!」
無数の炎と氷雪が、私の周りから舞うように飛び出た!!?
突っ込んできた人魚が前面にシールドのように展開していた雷に直撃し、爆発が起きる!!
「おのれ! ……まさか、神代文字?」
「へ?」
爆煙が消えていく中で“氷炎の競演を観よ”を覗くと、文字が……三つ刻まれていた。
ボス戦の時もだったけれど、また無意識に発動させていたみたい。
それに――噂に聞いてた、引っ張られるような感覚が!
「神代文字を刻める者……チ!! 貴様は見逃してやる」
「へ? なに急に!?」
どういうこと?
とか思ってたら、人魚女の背後からなにかが近付いてくる!
白い荒々しい長髪に、一本の角と赤い瞳が印象的な、露出の多いアグレッシブな格好の少女?
「翠の人魚。お前がグダラ?」
「そういうお前はなんだ、獣人か?」
あの子、まさか!
「私はバロンのミレオ。隠れNPCって奴さ」
この古城に、バロンのマスターがいるのか……。
「で、私のマスターの使いで、お前を捜してたってわけ」
「私を? 誰の命令でだ!」
グダラが殺気立つ。
「キクルって言えば分かる?」
「……彼か。用件は?」
あれ? 殺気が綺麗に消えた?
隠れNPCと契約してるって事は、異世界人のはずじゃ……?
「良ければ、パーティーを組まないかってさ。今のレギオンは抜けて」
バロンの隠れNPCを入手したキクルって奴が、グダラを仲間に誘ってるってこと?
「……面子は他にも居るのか?」
「今のところは、私とキクルだけ」
「良いだろう。さっそく、彼と合流するとしよう」
「ちょっと待ってよ!」
思わず声を掛けてしまった!
「聞いていただろうが、私の名ははグダラ。さっきのことなら、謝罪するつもりはない」
「わ、私はナオよ! なんで文字を使えたってだけで見逃すのよ!」
「真に神と敬うべき方に、力を振るう許可を与えられし者。私はそう聞いて育った。だから今回は見逃す。それだけだ」
「こっちだよ、グダラ」
「ああ、すぐに行く」
二人の姿が、あっという間に消えた。
「真に神と敬うべき方……か」
少しだけ感じた、誰かの意志に引っ張られるような感覚。
「あれが……神ってこと?」
――やばい。凄い調子に乗っちゃいそう。