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176.猫と人魚の殺意

「ネコ獣人ちゃん、きゃわゆ~い!! ねえ、私のペットになってよ!」


「嫌です!」


 転移前の集団の中にいた女性が、レイピアを振るって襲い掛かってくる!


 剣先が不自然に伸びてくるため、間合いで完全に負けていた。


「こんな暗い部屋で二人きりなんだもの……仲良くしましょ♡」


 私達が転移させられていたのは、ベッドと僅かな家具が置いてあるだけの無駄に広い部屋。


「獣人の女の子ってキュートよね! 私、ネコカフェって好きなの! 知ってる、ネコカフェ? ネコちゃんがね~、もうニャンニャンニャンニャンしてくれるのよ~♡」


 ――よく分かりませんけれど、凄くバカにされている気がする。


「そうですか」


 なかなか間合いを詰めさせてくれない。


 かといって、攻撃の挙動が小さくて速いため、投擲しようとした隙を突かれてしまいそう。


「最近飼ってたネコちゃんが天国に行っちゃったから、お姉さん寂しいの。だから、私の新しいペットになってちょうだ~い!」


「へ?」


 飼っていたネコの代わりってこと?


「私はペットじゃありません! ……最近死んだペットって……――まさか!」

「貴女よりもちょっと無愛想で~、年も上っぽいかも~。でも、普段は無愛想だったけれど、鞭で打つとすっごく可愛くニャンニャン泣いてくれたの!!」


 狂ってる!!


「異世界に来て怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて仕方なかった私を、あの子だけが癒してくれた。なのに……私ったら、パーティーメンバーにイライラしてつい考え事しながら鞭を振るっちゃっててね。気付いたら動かなくなってたの~。マジメンゴって感じ~~」


 ――ビリビリと肌で感じる狂気に、頭が腐っていく感覚に陥る。


 最初の村で、みんなで力を合わせて戦ったあの赤い目の化け物に感じたような、取り返しのつかない歪さをこの人からも!


「ね~、ネコちゃ~ん――――いつまで私に逆らう気よ!! “絡め取り”!」


 腰に吊していた鞭を使われ、“蒼穹を駆けろ”に絡み付けてきた!


「ネコちゃんの物はね、ぜーんぶ、お姉さんの物なの。だから――抵抗しちゃダメでしょうがッ!!」


 伸びるレイピアを横に回転しながら躱し、奪われそうになる槍を必死に掴み続ける!


「これは、絶対に渡さない!」


 この槍が無いと、文字の力を使えない! コセ様達の後を追えなくなっちゃう!!


 それだけは……絶対に嫌だ!!


 そのためなら――――闇の中だって!!


「――あああああああッ!! “ホロケウカムイ”!!」


 青いオーラを纏って、正面から駆ける!


「脚に穴を空けて、大人しくさせてげる!」


 レイピアの方向を見定め、左肩を貫こうとした刃を掠る程度に留めた!


「チ! “瞬足”!」


 顔面を蹴ろうとしたら、躱される。


「勘の良い――生意気な子猫ちゃんねッ!!」


 この人に慈悲は向けない。必ず殺します。


「“噴射”!!」

「ちょ、やめ――ぅげべふッッ!!!」


 槍の柄上部、十字部分の先の四つの球体から勢いよく”噴射”させ――女の人のお腹に、深々と突き刺した。


「ずっと……疑問に思ってました。どうしてコセ様はあんなに優しいのに、時に容赦なく人の命を奪うんだろうって」


 きっと、その度に傷を負っているのだと……私はようやく理解できた。


 初めて、人を殺したことで。


「ネコの分際で……なに……してくれてんのよ……」

 

「私はネコ獣人のタマ。貴女のペットじゃない」


挿絵(By みてみん)


 優しさと、非情なまでの厳しさの二つが合わさることで生まれる、尊い強さ。


 これが、コセ様達が持っている強さの一端。


「楽にして差し上げます――“古代槍術”、オールドチャージ!!」


「やめて――助けッッッッ…………」


 女性の血肉が弾けて、すぐに光に変わっていく。


 青い死光が煌めく中で、“蒼穹を駆けろ”が……一瞬輝いたように見えた。



●●●



「や、やめてください!」

「黙ってろ、泣き虫!」


 柄の長い斧で、同じ人魚族に襲われる!


「知ってんだよ。お前、王族のスゥーシャだろ? 姉と違って外に顔は出して無かったみたいだけれど、()()()がお前を気にしてた事、同じ牢に居たから分かっちゃった♪」

 

 あの人が……私を気に掛けてくれていた?


 真実は分からない……だけど、やっぱり会いにいかなくちゃ!!


 “人魚のトライデント”を振るい、彼女を払う!


「お飾り王女が、生意気な!!」

「私は……無力で、無知な人魚です」


 デルタの支配の下、私達王族は無力で、姉さんだけが……。


 私は早々に諦めていた……ううん、そもそもそれ以前に、私は敵に向き合おうともしなかった。


 姉さんの強弁を野蛮と両断する両親の言葉を、鵜呑みにして受け入れていた自分。


 今でもまだ、姉さんが正しかったとは思えないけれど……少なくとも、今までの私は間違っていたと――認める事は出来る!


「“氾濫魔法”、リバーバイパー!!」


 水の大蛇を出現させて、ぶつける!


「ここが湯場だからって! “渦の障壁”!」


 水を使って作り出す、渦状の守り!


「……貴女は、王族に対して刃を向けました」


挿絵(By みてみん)


「な、なによ……ここでは関係ないでしょ! どうせ、私達はこの迷宮から出られないんだから!!」


「貴女は、最奥に進むことを諦めてるんですね」


 でも、コセ様に似た雰囲気の()()()は、最奥に行くと言っていた。


 その言葉を、姉さんは信じたようだった。


「だったらなによ!」

「王族の権威を振りかざすつもりはありませんでしたが、刃を向けた以上、貴女は私に刃を向けられても文句は言えない」


 トライデントを向け、見据える。


 今から私が、殺す人魚を。


「たとえ貴女が勝ったとしても、私は貴女を恨まないと誓います」

「……良いところのお嬢ちゃんが、イキがってんじゃないわよ――“一角水魚”!!」


 水で出来たカジキを、腕輪を使って出現させた!?


「あの女をぶっ殺せ!!」


 猛り、急加速して突っ込んでくる水のカジキ!!


「逃げてばかりじゃ、前に進めない!」


 タマちゃんとの特訓を思い出して!


「なんですって!!」


 ――空中を螺線状に泳ぎ、水カジキを回避!!


「“深淵槍術”、アビスストライク!!」


 躱したまま突っ込み、メルシュさんからいただいたサブ職業で攻撃!!


 長柄の斧を弾き飛ばし、彼女のお腹を……貫いた。


「わ、私は……許さない」

「……」

「私は絶対にッッ! ――お前を許さないからなぁぁぁぁぁッッッッ!!!」


 怨嗟の声と、狂気に染まった目が……私の心を殺そうと蝕んでくる。


「それで……構いません」


 この痛みは、無視して良いようなものじゃないから。


「……なんで……そんなにずっと……綺麗で居られるのよ……アンタら……は…………」


 私が殺した人が、光となって消えていった。


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