172.魔神・爪虎
「魔神・爪虎は、俊敏な低身移動をしながらの爪の強襲が基本攻撃だよ。両腕を覆っている爪甲が厄介で、攻防に優れてる」
「十体目のボスっていう事もあって、ここまでの魔神の中でもかなり手強いよ」
メルシュとジュリーからもたらされる情報が、気持ちを引き締めてくれる。
「有効武器は無し。弱点属性も無し。一瞬の挙動を見逃さないように。前線に出る者は、後衛に被害が出ないようボスを引き付けて! 控え目に言って、本当にヤバいから!」
メルシュのアドバイスが、いつもより具体的な気が。
「危険攻撃は、一瞬のタメから繰り出されるエネルギーを纏った爪撃。両手両脚、左右のどの爪から繰り出してくるかは一瞬で見極めて!」
この二人の警戒ぶりが、ヤバさを物語っている。
「じゃ、私達から行くわよ」
ユリカ率いる、ヨシノ、タマ、スゥーシャ、クマム、モモカの六人が、最初にボスに挑む。
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ボス部屋が閉まると、奥でレッドオレンジ色の光が灯るのが見えた。
濃い橙色の石のボディーに、爪部分に特に集中しているレッドオレンジの光のライン。
『――グアオオオオオオオオオオオオオオ!!!』
気のせいかな? 今までで一番、威圧感が凄い。
「来ますよ、皆さん!」
ヨシノの合図に従い、私とヨシノとモモカ以外の全員が、各々の飛行手段で空へ!
モモカは、走金竜に乗って壁スレスレで待機している。
「“二重魔法“――”星屑魔法”、スターダストシャワー!!」
スターダストシュートにはある程度の追尾機能はあるけれど、素早い敵にはむしろ当たらないというジュリーのアドバイスを信じ、指定した一点を中心に一定範囲内にランダムで白銀の星屑を落とすスターダストシャワーを選択!
『グオオオオオオオオッ!!!』
「速い!?」
瞬発的にジグザグに動いてあっという間に距離を詰めてくるも、一部のスターダストシャワーが命中して動きが止まる!
「ヨシノ!」
「お任せを! “植物魔法“、バインバインド!!」
魔法陣から現れた蔦が、魔神・爪虎を拘束!
「今よ!!」
「“二重魔法“、”氾濫魔法”、リバーバイパー!!」
「“咎槍“、パワージャベリン!!」
「“竜技“――ドラゴンブレス!」
スゥーシャとタマ、モモカの攻撃が命中!
『グオオオオオオオオオオオ!!!』
蔦を引き千切って――モモカを狙って跳躍した!?
「“疾風迅雷“! “尖衝武装“!!」
“紫雲の靴“で靴底から紫の雲を噴出して空中を駆けながら、クマムが超スピードで爪虎の脇にレイピアを突き入れた!?
「クマム!!?」
飛び掛かろうとしていた爪虎の巨体が、衝突の衝撃で押され、モモカに向けられた爪は大きく外れる!
「私とコセのモモカに、なにしようとしてんのよ!」
モモカの傍で浮いているローゼが鎖を振るうと、ドリルが爪虎の頭を削り穿つ!
「“雲魔法“、クラウドアーム!」
「“植物魔法“、バインバインド!」
クマムの雲の腕とヨシノの蔦により、再び拘束!
「全員、離れて! マスター!!」
「――“煉獄鳥“!!」
私の新スキルによって生み出された紫炎の鳥が、魔神・爪虎に激突――凄まじい爆発を引き起こす!!
『グオオオォォォォ……ォォ……』
ようやく、ボスが光に変わりだした。
「疲れた」
予想以上の速度に、想定以上の精神力を持っていかれた。
「メルシュが言っていた危険攻撃、なんとか出させずに済んだか」
「お疲れ様です、マイマスター」
「ヨシノも、ありがとう」
私、自然に心からのお礼を言えてる。
「ありがとう、クマム! ローゼ!」
「モモカちゃんが無事で良かったです」
「この程度、全然大したことないわ♪」
モモカとローゼが、両手を繋いでクルクル回りながら踊り出す。
「若い子は元気だなー……」
……私はおばさんか!
●●●
「“拒絶領域“!!」
メグミちゃんが一人で突っ込んで、魔神・爪虎の動きを止める!
「“刃脚“!!」
ホロケウカムイを発動した状態のリンピョンちゃんが、“跳弾の刃甲石脚“から発生させた青白い刃を纏わせた右脚で、魔神の右腕を二の腕部分から切り落とした!
さすが、私の可愛いリンピョンちゃん!
「“抜刀術“――紫電一閃」
「ハイパワーアロー!!」
ユイちゃんが文字を刻んだ剣で胴を薙ぎ、シレイアちゃんが弓で頭に風穴を空けた。
あの二人は、さすがね~♪
「トドメ、行っくわよーー!! “魔法玉“」
「全員、離れろ!」
メグミちゃんの合図で、四人がボスから距離を取ってくれるの♪
「“颶風魔法“、ストームダウンバースト!!」
嵐の超圧が凝縮された玉が高速で、下半身とお別れした虎さんに直撃!!
『――グルォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!』
魔神・爪虎は跡形もなく消え、青の残滓となって一瞬だけ輝いた。
「思ってたより、楽に片付いたわね♪」
メグミちゃんが作ってくれた隙を、皆が生かしてくれたおかげかしら。
●●●
『グウオオオオオオオオッ!!』
身を屈めながら、素早く突撃するような跳躍を繰り返し、前に出た私に狙いを定めて爪を振り下ろす魔神。
「“闘気剣“!」
“ヴリルの聖剣”に三文字刻み、更にオーラを纏わせる!
聖剣と鋭い三つの爪がぶつかり合い――圧倒的な膂力の差で押される!?
「ならば! “瞬足“跳躍”!!」
魔神・爪虎と同様、勢いよく真っ直ぐに跳び――動きを止めてやった!
「今だ!」
「“光線魔法“、アトミックレイ!」
「“氷炎魔法“、アイスフレイム!」
アヤナの”光線魔法”が左腕を二の腕部分から破壊し、ナオの魔法が脚を凍らせる!
「”ニタイカムイ”! “古代属性付与“!」
緑の神気を纏ったノーザンが、氷の刃を持つ斧と、古代属性を附与した黄金の斧を左へと振りかぶる!
「“二重武術“――ハイパワーブレイク!!」
氷と黄金の斧が同時に炸裂し、魔神の左脚を破壊!
「逃がさない!」
アオイが、“大鬼の手“に掴ませた“法喰いの金棒“を上から叩き付けさせ、魔神の動きを牽制!
「“白骨火葬“」
剣盾を持っていた左手から白煙砂を放ち、持続的に魔神の顔を燃やし続ける!
「“精霊魔法“、サラマンダー!」
フェルナンダの魔法によって現れた炎のトカゲが、赤い光線を吐いて爪虎の右脚を融解させた!
「”氷炎の共演”――おおおおおおおおおおお!!」
ナオの甲手から、火花と氷粉が吹き荒れた?
「あれは!?」
赤と青の美しい甲手に、神代文字が三文字刻まれている!!
「――紅蓮拳!!」
甲手から噴出していた氷と火の粉が紅蓮の拳に焼べられ――増大した!!?
『グオオオオオッッッッッッ!!!?』
腹に拳が命中した数秒後……魔神は砕け散って、光となった。
「後は、コセとジュリー達だけか」
二人のパーティーは人数が少ないけれど、果たして大丈夫なのか?