169.古生代モンスター
「“ニタイカムイ“!」
ザッカルが緑の神気を纏って、蔦や苔が付いた二メートル程の石像、”古生代コング”を爪で斬りつける!
「全然斬れねー!」
「“光輝剣術“、シャイニングスラッシュ!!」
神代文字を三文字刻んだ状態で、“ヴリルの聖剣“を振るうルイーサ。
ザッカルよりは“古生代コング“の身体を削ったけれど、大したダメージは与えられていない。
「だったら、パワーニードル!」
防御力無視の“針術“か!
「く!!」
シャイニングブレイクよりは効果があるも、威力は五分の一に抑えられたようだ。
元々の威力が低い上、無機物系モンスターは生物系モンスターよりもタフだからな。
「”光輝剣術”――シャイニングブレイク!!」
剣を突き刺した状態からの衝撃波により、今までで最大の損傷を与えることに成功した。
と言っても、右肩を半壊させた程度。
「硬すぎないか!?」
「下がって! “磁力“!」
ジュリーが金星球を上空から撃ちだし、古生代コングにぶつける。
その背には、レギオン戦で手に入れた黄昏色の八翼が。
「「おお!」」
重力と重量を利用した事でダメージを増加させたのは解るけれど……一発で頭を潰した?
「もしかして、斬撃よりも質量による圧壊の方が効果的か?」
「まあ、表面が崩れやすいみたいだし、逃げ場のない上からの攻撃が一番効果がありそうだね」
メルシュさん、そういう情報も寄越して!
その後、三人による連続攻撃を受け続け、古生代コングは倒された。
戦闘能力は高くないって聞いてたけれど、本当に為す術無く倒されたって感じだったな。
ちなみに、スゥーシャとクマムには古生代系以外のモンスター、ゴブリンやブラックボアという大蛇と戦って貰っていた。
どうやらこのステージ、古生代モンスターを倒そうとさえ思わなければ、対した障害は無いようだ。
古生代モンスターはあまり経験値をくれないらしく、Lvの低い二人には積極的に他のモンスターを狩ってもらっている。
「じゃあ、タマ! お願い!」
「はい!」
タマが、刃のない黒の大剣を手に、別の古生代コングに向かっていく。
「――“終末の一撃“!!」
“滅剣ハルマゲドン”から放たれた黒炸の暴威により、古生代コングの身体が半ば消し飛ぶ!
「……うそ」
それでも、動きが止まらない。
「“黒精霊“、インフェルノ!」
煉獄の炎を黒銀の大剣、“シュバルツ・フェー“に宿す!
「――ハイパワーブレイク!!」
残りの半身を吹き飛ばして、二体目を撃破。
「さすがです、コセ様!」
「タマが、大分削ってくれたおかげだよ」
「はにゃ~♡」
気付くと、タマの頭を撫でてしまっていた。
年は変わらないけれど、レギオンメンバーの中ではスゥーシャに次いで小柄だからな。
髪、サラサラだなー。
「二体倒すだけで、かなり消耗しちまうな」
ザッカルがそう口にした時、木々の間から四足獣の古生代モンスターが現れる。
「“古生代タイガー“!? ヨシノ!」
「お任せを! “植物操作“」
機敏に動いて飛び掛かってきた古生代タイガーを、そこらの草花が瞬時に絡め取り、動きを封じた!!?
「マイマスター、火の魔法を願います!」
「分かったわ! “煉獄魔法“――インフェルノブラスター!!」
ユリカが放った紫の炎が直撃し、激しく炎上!!?
「メルシュ、これは?」
「蔦に絡まった状態の敵は、火属性ダメージを多く受けるんだよ。更に、蔦から脱出するまでは持続ダメージも発生するんだよね」
見る見る崩れていく古生代タイガー。
「もしかして、持続ダメージは軽減されていないのか?」
「そうそう。“古代の力“の対象外になるんだよ」
ゲームならではの抜け穴か。
本来あり得ない法則を、無理矢理現実に当てはめた事による歪さを、強く感じる。
ただ、神代文字を操るときに感じる感覚は、歪さのような物はないんだよな。
文字によって引き出される力はともかく、あの……人類を否定するような感覚には。
……俺自身が一番、アテルの言っていた事を理解してしまっている。
ただ、それだけが真理じゃない……気もする。
ただただ俺が、俺やトゥスカ達の存在を否定したくないからそう思おうとしているだけかもしれないけれど。
でも、だからこそあの時……アテルと剣を交えた時、十二文字まで文字を引き出せた気がするんだよな。
「あ、倒した」
ユイの言葉に、思考が引き戻される。
時間は掛かったけれど、“植物操作“と“煉獄魔法”一発の組み合わせで倒すのが、一番コストパフォーマンスが良さそうだ。
その後、古生代モンスターが現れなかったため、俺達は村へ引き返すことにした。
●●●
「誰も居ないわね」
モモカちゃんと手を繋ぎながら、アオイとアヤナの二人と一緒に遺跡村を回る。
一応、ボディーガードにサタちゃんを呼びだしておいた。
黒ピカはって? ……アイツはダメだ。
「誰か居たら居たで、ちょっと怖いわね」
「なんか……人間を警戒する癖が付いちゃったよ」
私達のレギオンの中では、この二人は人間を盲目的に信用していましたっけ。
まあ、別にそれを悪いとは思いませんけれど、ルール無用のこの世界に放り込まれた人間の倫理観は、大小の差はあれ、本来の姿を剥き出しにされる。
……だからこそ、デルタはこのゲームを使って素質を腐らせようとしているのです。
下手に神との親和性が高い人間に手を出そうとすると、手痛いしっぺ返しを受けかねないからだろうな~。
「NPCすら居ないのは……むしろ不気味」
「一応、宿なんかの最低限の設備はあるはずですけれど」
他の町や村にはある、そこでしか手に入らない料理のレシピなんかはないですけど。
『町中に、何故モンスターが居る?』
突然響いた変声機声に、鞭を抜いて警戒!
『驚かせたようだな。一応、謝罪しよう』
六つの穴が開いた、フルフェイスタイプの白面に、黒と紫のローブ服。
背には、コセさんの得物よりも遥かに巨大な剣斧。
身長二メートルくらいあるのに、大剣は身の丈よりも大きい。
「この子は、私の契約モンスターです」
『指輪で呼びだす類いか? いや、悪い。それより、なぜこんな場所に子供が居る?』
呼吸の仕方、佇まい……堂々としながら、落ち着きのある様子。
それに加え、“殺戮者のマスク“Aランクに、”紫紺の抗体ローブ”Sランク。
あの黒手袋は“豪腕のグローブ“Aランクと、高ランク装備で身を固めている!
私達のように、突発クエストや大勢で手に入れた物を最適な者に渡したりしているならともかく、第十ステージ時点で高ランク装備で身を固めるのは本来不可能なはず。
「この子は、この世界で生まれた娘なのです。今はこの子の両親を探しています」
『捨て……そうか』
捨てられたわけではないはずだけれど、実際のところはどうなのかな。
「貴方は一人?」
ここに来るには、レギオンを組まなければならないはず。
『反りが合わなくてな。この遺跡村で何人か殺した』
――アヤナとアオイから、警戒心と恐怖心が強くなったのが伝わってきた。
進んで誰かを殺していれば、自分に合った高ランク装備で身を固める事は可能か。
『無作為な殺しをするつもりはない。降り掛かる火の粉を払ったまでだ。ちなみに、俺に仲間は居ない』
そこまでバラすなんて……自信の現れか、もしくはフェイクか。
『怖がらせたようだな。詫びに、コレをやろう』
男はチョイスプレートを操作し……可愛らしいゴスロリ幼女人形を差し出してきた?
モモカちゃんと同じくらい大きい。
確か、バトルパペットって言う武器扱いのアイテム。
『それと、コレだな。ユニークスキルだから念の為手に入れておいたが、俺の趣味には合わん』
更に差し出してきたのは、掌サイズのメダル。
サブ職業を実体化したさいの形態。
レッドメタリックカラーということは、ユニークスキルの証だったはず。
ただ、入手法に関してはメルシュですら知らない。
「ちょ、モモカ!?」
アヤナが慌てるなか、モモカちゃんが恐る恐るメダルを受け取った。
「……」
不安気ながらも、無事に戻ってくるモモカちゃん。
『……では、俺は失礼させて貰う』
男が背を向けて遠ざかっていくまで、私達はその場を動けなかった。
「お礼……警戒するあまり、言いそびれてしまいました」