166.八翼のレギオンジェネラル
「レギオンジェネラルに……あんな翼は無いはず」
剣を手にしているようだけれど、レギオンナイトの大剣を大型化した物だ。
となると、あの翼がハード選択によって出現したAランクアイテムか。
只でさえ二メートルを軽く越える巨体なのに、その巨体を余裕で包み込んでしまえそうな程の、大きな橙光の四対八翼。
私も知らないアイテム。
広すぎる玉座の間が、狭く感じてしまう。
「厄介そうだな」
『グルルルルル、フレイムカノン!』
そう言えば、ジェネラルも魔法を使うんだっけ。
「”魔炎”!」
紫の炎で出来た、宙を舞う蛇に魔法の炎を食らわせる。
「”万雷魔法”、トワイライトスプランター!!」
黄昏色の雷を放ち、直撃させる!
「……倒せない? それどころか……」
今の私のLv、装備による雷属性の強化率で放った単一属性の上位魔法……間違いなくオーバーキルだったはずなのに。
「ジェネラルがオリジナルよりも強力な設定になっているのか……それとも、あの翼の特殊効果か」
おそらくは後者。微かにだけれど、ジェネラル接触直前に雷が小さくなったように見えた。
ダメージを与えられていないわけではなさそうだし、威力減衰系の能力だとは思うけれど。
「”魔力弾”!!」
黒い玉を放つも、やはり小さくなったうえ、剣で防がれた。
『フレイムバレット』
「”魔力障壁”!」
炎の散弾を全て防ぐ。
「”避雷針”、”雷光”!」
魔光剣に、甲手から発生させた雷を吸わせる!
「――”雷光斬”!」
また威力が減衰し、剣で防がれるも――玉座に向かって吹き飛ばすことに成功した!
ここだ!!
「”天雷魔法”――ヘブンスプランター!!」
白い爪を纏ったような黄白色の雷を、レギオンジェネラルに直撃させる。
『グルルル……ルルルルルル』
「まだ倒せない」
あの翼、魔法や特定の属性に関係なく、ありとあらゆる攻撃の威力を低下させるのか。
『グルアアアアアアアアアア!!』
飛翔した!?
「見た目通りの飛行能力まで!」
ちょっと本気で欲しくなってきた!
「金星球!」
”金星球の指輪”から黄金の巨大玉を呼び出し、”磁力”で反発させ――レギオンジェネラルにぶつける!
『グウうええええ!!?』
見た感じだけれど、威力が減少しているようには見えない。
今のところ、武器による直接攻撃が一番有効か!
「”磁力”!」
金星球を左手に引き寄せると――レギオンジェネラルが一緒にくっ付いて来た!?
「だったら!」
”磁力”を消して、敵の剣の降り下ろしを”跳躍”で躱しながら――天井を蹴って急降下!!
「”大拳術”、ハイパワーナックル!!」
ぶつかった衝撃によって金星球から弾き飛ばされたレギオンジェネラルの顔面を、左腕の”轟雷竜の剣甲手”でぶん殴る!!
「ザマー見なさい」
『ギギ……ガ……グ』
レギオンジェネラルの首が、変に曲がっていた。
肘の球体部分を動かして、剣甲手の刃を甲手から垂直にし――股を潜りながら魔光剣と共に太股を切り付ける!
「”跳躍”!」
すぐに反転し、”跳躍”の勢いで突撃しながら背後の翼の付け根部分に向かって――”避雷針の魔光剣”を突き刺した!!
『グギュルブおう゛ぇえええええええッッッ!!』
苦し紛れに暴れられる!
「――”魔力砲”!!」
総魔力量の半分を消費し、肩甲骨の間、ゼロ距離からピンクの閃光を放射!!
「ハアー、ハアー!」
胸から上を消し去り、レギオンジェネラルが転倒。
やがて、光となって消えていく。
『レギオンの大将、レギオンジェネラルが敗れた事により、レギオン戦は終了! 《龍意のケンシ》の勝利!』
私達の勝利宣言と共に、部屋の奥にあったエンブレムが砕け散った。
「つ、疲れた」
まさか、こんなに手こずるなんて。
「いったい、どんなアイテムだったの?」
○レギオンジェネラルから、”明星の遣いの嘆き”を手にいれました。
「出た!」
神代文字対応であろう、厨二病名アイテム!!
「でも、私にピッタリかな」
そうこうしているうちに、転移が始まる。
◇◇◇
『これでよろしかったですか、オッペンハイマー様?』
『手に入れたのは、オリジナルを開発した娘か。ククククク、これも因果だね~』
注文通りに作製したアイテムを、言われた通りレギオンジェネラルに装備させて投入したわけだけれど……。
『煩わせて悪かったね、エリカくん』
本当、奴等が選んだ難易度に合わせてアイテムのランクを決める必要があったから、細かな能力値調整などを急ぎで設定する羽目に。
『それより、そちらから提供されたブラックボックス化された情報体……言われた通り組み込みましたけれど、アレはなんです?』
『いつ芽が出るかも分からない爆弾さ。詳細は、事が起きたときにでも確認してくれ。クハハハハハハ!! それでは失礼、エリカくん』
私の作業部屋から消える、オッペンハイマー。
『……なにを考えているのやら』
ま、私が奴等に手を出すのは、ここまでにしてあげますか。
ミハエルが、なにかあくどい事を企んでいるようだしね~。
●●●
「レギオン戦初勝利、おめでとう~♪ カンパーイ!!」
「「「カンパーイ!!」」」
昼、早めの食事をパーティー風にしてしまったサトミさん。
こういうノリは好きじゃないから、俺からはなかなか提案できない。
そういう意味では、サトミさんにはちょっと感謝だな。
こういうこと言い出すの、彼女くらいだから。
……まあ、度が過ぎるようなら、魔性の女と言えど絞めるけれど。
それにしても、この料理の数々……昨日から仕込んでやがったな。
「コセはなにを飲んでるの?」
モモカが尋ねてきた。
「緑茶だよ」
「モモカも飲む!」
と言って手を伸ばしてくるけれど、俺のを飲むつもりなのか?
「ま、いっか」
モモカにコップを渡すと、嬉しそうに飲む。
「…………もういい」
「ハハハハハハハ!!」
意気消沈している様子が可愛い!!
「「「ハハハハハハハハハハハハ!!」」」
少し離れた場所から聞こえる、大きな笑い声。
「なんだ?」
「ご主人様、アレ……ブフッ! アハハハハハ!!」
トゥスカがバカみたいに笑ってる!!?
「お前ら、いい加減にしろよ!!」
声の主であるザッカルを見ると……その背から八枚の天使の翼が!?
「――ブアハハハハハハハハハ!!」
だ、ダメだ……に、似合わなすぎる!!
「おい、コセ!! テメーまで!!」
顔を赤くし、ちょっと涙目になっているザッカルが可愛い!
「ご、ごめん。お詫びに、一つだけ言うこと聞いてあげるから、ブフフ!」
「おい、この野郎ー!!」
ダメだ! 不意打ち過ぎてツボった!!
「ガハハハハハハハハハハッ!!」
厳つさと女性らしさを持つ黒尽くめのザッカルが、神々しい翼を八枚も生やしてるって……ブフフフフフフッ!!
「か、覚悟しろよ、コセッ!!」
……その夜、俺は自分の迂闊な言動を後悔することになる。