163.レギオン戦開始
「レギオン戦と言っても、今回はNPCが相手だし、チュートリアルのためのイベントだから、本来とはちょっと勝手が違うよ」
朝から《龍意のケンシ》を結成した冒険者ギルドを訪れ、メルシュの説明を受ける。
「用意されている敵も、軍団長であるレギオンジェネラル以外はレギオンナイトとレギオンソーサラーのみで、半々に分かれてる。一体一体は弱いよ」
「問題は、難易度設定か」
イージーがこちらの二倍の敵、ノーマルが五倍、ハードが十倍となる。
レギオンジェネラルの数は変わらないらしいけれど。
「こっちは二十三人ですから、十倍だと二百三十体。ナイトとソーサラーが百十五体ずつに、ジェネラルが一体ですか」
クマムが分かりやすくまとめてくれる。
「更に言うと、ジェネラルにはランダムで武具が持たせられるよ。イージーならC、ノーマルならB、ハードならA」
唯一と言って良いほど、俺達にとって未知数な部分。
「ハードはクリア報酬として、ランダムにAランク報酬が出るから、やっぱりハードをやるっきゃないよ、マスター!」
レギオンジェネラルのAランク装備も手に入るだろうしな。
「まあ、私達ならハードくらい問題ない。さっさと始めよう」
メルシュが勧め、ジュリーが太鼓判を押してくれる。
「だな」
ハードを選択すると、全員が光に包まれる。
★
「ここが向こうの陣地か」
俺達の陣地の向かい。昨日連結させた三つの家と半球状の土地と同じように、三つの黒い館が建っている半球状の土地。
互いの陣地の間には横長の中立地帯があり、今回はただの野原になっている。
この部分は、色々ギミックのある土地に変更できるらしい。
中立地帯と陣地は横に連なる壁で区切られており、上は見えない障壁がどこまでも展開されているそうだ。
この障壁は、土地の外周全体を覆っている。
よって、一度中立地帯に侵入してからでないと敵陣地には乗り込めない。
その中立地帯に入るためには、左右と真ん中にある三つの出入り口を使う必要がある。
というのを、待機場所の暗い空間で、立体映像を見ながら確認していた。
「ここで全員の転移先、エンブレムとパーティーの契約設定をするんだよ、マスター」
「やること多いな」
エンブレムの配置場所、“神秘の館”の分は俺の寝室か。
俺のパーティーは、今回は“神秘の館”に設定。
自分の転移先も寝室にしておく。
全員が転移先を選択し終え、OKを押すと……転移が始まった。
★
「ふむ」
自分の寝室と同じ場所に転移。
一応、昨夜ユイと寝た部屋とは違うらしいけれど、首の無い女の天使のエンブレムがある以外は同じだな。
「さて」
俺は大将だから、前に出るわけにはいかない。
「外の状況を確かめようにも、ここを動くわけにもいかないし……」
わりと退屈だな、レギオン戦の大将。
テラスから戦況を見たい所だけれど、これが本当のレギオン戦なら大将が顔を出すだけで色々情報を与えてしまうことになる。
「本番だと思って、大人しくしてるか」
取り敢えず、ベッドに横になる。
……ユイの匂いはしないか。
●●●
『レギオン戦開始、十秒前。八、七……』
一つ130000G払って設置した櫓から、相手陣地を見渡す。
こういう物を設置するため、レギオン戦はお金が幾らあっても足りない。
「あの黒い城のどれかにあるエンブレムか、レギオンジェネラルを倒せば良いんですよね、ジュリー?」
トゥスカが尋ねてきた。
「ええ。開始と同時に動き出しますよ」
トゥスカと二人きりって……なんか緊張する。
「もう少し気安く話さない? ジュリー」
彼女からの、意外な提案。
「私としても、その方が良いけれど……」
なんだろう……ちょっと怖い。
「もし私が死んだら、次の一番はジュリーだろうから。その時はコセをよろしく」
「へ? ちょ、なにを言ってるの!?」
わ、私がコセの一番に♡!?
「ま、もしもの話しだから。譲る気ないし」
「ぐ!!」
トゥスカって、こういう奴だったのか!?
『一、零! レギオン戦、開始!!』
「来る」
三つの黒い城から、紫の鎧やローブを着込んだ人型の怪物がゾロゾロと出て来た。
「全然人っぽくないんですね」
「まあね。でも、下級魔法に下級武術は使ってくるから、基本的な戦い方は人間相手と同じだよ」
槍や剣と、レギオンナイトの武器は様々。
特に効果は無いけれど。
暫く、その進軍を監察する……やっぱり、オリジナルよりも迫力がある。
「真ん中の扉を、自分達で攻撃して破った?」
数十体で魔法を飛ばして、破壊された。
「中立地帯に出るには、自分達で扉を破壊する必要がある。だから、自分達側の扉は一カ所だけ開けるのが得策」
逆に、敵側の壁は三カ所全て破っておいた方が攻めやすい。
「これを見せて理解させるために、全員を櫓に上らせて、最初は様子見にしたんだ」
「まあ、レギオン戦の一部始終は持ち家内部で後から見られるから、今無理に見せる必要は無いんだけれどね」
「実際の空気感は、あの画面越しじゃ伝わらないわ。良くも悪くもね」
確かに。
オリジナルの時には感じなかった、爆発による空気の震えや、剣戟の殺伐とした音。
戦争の迫力というか……生の震えというか。
オリジナルを知っている私でも、最初のゴブリン戦は一瞬戸惑ったな。
「さて、そろそろ行くか」
「ジュリーは攻める側だったわね」
「と言っても、今回は敵を全滅させるつもりだから、結果的に攻防両方を担当することになるだろうけれど」
その方が、最終的に良い経験になりそうだし。
「さあ、楽しい祭りを始めよう」
百を超えるレギオン戦限定モンスター達がこちら側の壁を三つとも攻撃し始めたところで、私は皆に合図を送った。