159.砦城
「おっきー!」
モモカが、ヨシノとスゥーシャと手を繋ぎながら、ジュリーが購入した家を見てはしゃいでいる。
いつの間にか仲良くなったようだ。
ルイーサが家を購入するための参考と、レギオン戦に備えての下見もかねて全員で見学に来た。
……大砲まで備えられている外壁付きの城とは。
外壁周りには水が流れる堀があり、正面の橋を通らないと敷地内に入れない。
この城の攻略には、飛行能力が必須かもな。
「スタンピードラットの討伐クエストでとんでもない額が貯まってたから、一番高い城を買えたよ」
石造りで冷たい印象。
煌びやかな王城というより、ほぼ要塞だな。
「この城に敵を誘い込んで、数を減らしてから攻め込むって戦術もありか?」
「ルールで制限時間を無しにも出来るけれど、お互いに動かなかったら時間切れで引き分けになっちゃうかも」
メルシュが答える。
時間制限か。ゲームなら当たり前の要素。
天井が高くて広い食堂や、質素だが沢山の部屋を見て回る。
「ジュリーは、今後はこの城で暮らすの?」
「「へ!?」」
アヤナの言葉に、俺とジュリーが同時に驚く!
自然と見つめ合ってしまう俺達。
「いや……コセさえ良かったら、これからもあの家で寝起きしたい……かな」
「もちろん、構わない」
ジュリーと会えなくなるのは……嫌だしな。
「私達四人は、ルイーサが家を買ったらそっちに住むつもりだから」
「そっか」
ルイーサ、アヤナ、アオイ、フェルナンダは出て行くのか。
まあ、人が増えてきたし、俺も人が少ない方が落ち着くから助かる。
ただ、ルイーサも居なくなるのは……。
そう考えていたら、自然と彼女と目が合った。
あ、目を逸らされた!
「住み分けるのは構わないけれど、基本的に朝食と夕食は一緒に取るようにお願い」
メルシュが皆に向かって話す。
「どこかで足並みを揃える必要があるから、当然だな」
ルイーサが同意を示すだけでなく、必要性も説いてくれた……さすがだな。
●●●
城の見学を終えた後、私はLvが低い者を連れて北西の狩り場へとやって来た。
メンバーは私とサキ、ユリカとヨシノ、サトミパーティーの三人とナオ。
そして、新入りのスゥーシャとクマムに、二人の能力を見極めるためについてきたメルシュ。
「ここの狩り場は広いけれど、獲物を取り合わないようパーティーごとに離れよう。ユリカ達も、プレーヤーに気を付けて」
コセがアテルと接触した際、ボス戦に挑むと言っていたそうだから、サキ姉さん達はもう居ないとは思うけれど。
「分かった」
私をパーティーリーダーに、サトミさん達三人とサキの五人メンバーで、半ば砂漠化した荒野の奥へと進む。
●●●
ユリカをリーダーにヨシノとスゥーシャ、クマムとナオの五人でパーティーを組んで貰う。
私はLvも高いし、今回は五人の見学とサポートに撤するつもりだ。
「じゃあ、二人の実力が見たいから、まずは二人だけで戦ってくれる?」
「「分かりました」」
さっそく、全長二メートルはある”大ムカデ”が十匹ほど這いずってきた。
「スゥーシャさん、お願いします」
クマムの得物は、レイピア一本だけ。
「“氾濫魔法”、リバーバレット!!」
スゥーシャのLvは20。
この辺のモンスターを相手にするにはLvが低いのに、低威力になる分散系の魔法を選択しちゃったか。
傷は負わせてるけれど、一匹も倒せていない。
「”水魔法”、ウォーターバレット!!」
こういう場合は、一匹ずつ着実に倒す方に切り替えた方が良いのに。
”水魔法”の上位互換である”氾濫魔法”で大したダメージを与えられてないなら、”水魔法”じゃ役不足。
「“瞬突”!」
攻撃の隙を狙って、クマムがムカデの目に深々と剣を突き刺した。
“疾風のレイピア”、Bランク。
服はAランクだし、割とランクの高い装備、スキルが多い。
それに……。
「”氾濫魔法”、リバーバイパー!」
スゥーシャが放った水の大蛇が、ムカデ四匹に命中。
でも、先頭に居た一匹を外して急接近された。
けれど、スゥーシャに注意を払っていたクマムが急いでカバー。
躊躇無くムカデの頭を蹴り、間接部を切り裂いて仕留める。
ゲーム慣れしてる異世界人は効率的に動こうとはするけれど、クマムは現実をよく考慮した上で動いてる。
Lvは26と私達よりも低いけれど、視野の広さや判断能力、容赦なくムカデを仕留める度胸は大した物。
思いがけない拾い物だ。
隠れNPCとの相性次第では、あの子に優先して契約させても良いかもしれない。
「それにしても……問題はスゥーシャか」
「ありがとうございます、クマムさん!」
「怪我は無いですか、スゥーシャさん?」
スゥーシャとクマム、暫くはセットでパーティーに組み込んだ方が良いか。
●●●
「コセさんて……結婚してるんですか?」
「ああ、うん」
夕食の際に明日の結婚式の話をしていたら、クマムが驚いたように尋ねてきた。
「婚姻の指輪の効果は地味に強力だから、基本的に皆一緒に結婚してもらいたいんだけれど、それで良い?」
――メルシュの発言に、心臓が止まりそうに!
「メルシュ……いくらなんでも……」
俺は忘れてないぞ。善意で七重婚したら、メルシュに責任を取るべきと言われたあの時のことを!
「俺は良いぜ! むしろ望む所だ!」
ザッカルが賛同してしまう。
「もちろん、メグミちゃんも良いわよね♪」
サトミさんの有無を言わせぬ圧が、メグミさんに向けられている。
「ああ……まあ、相手がコセなら」
メグミさんのその発言が、嬉しいような怖いような……。
「コセと結婚した方が高位の指輪を貰えそうだし、むしろ最良の選択だろうな。というわけで、仕方ないから結婚してやる」
基本偉そうなフェルナンダが、率先して了承してきた。
「私は遠慮しとくわ」
「私も……いい」
アヤナとアオイはやめてくれるらしい。
……少しだけ、気が楽になった。
「本当に良いの、アヤナちゃん? アイテムのためだって割り切っちゃっても良いのよ?」
サトミさんが尋ねる。
「ゲーム上の結婚だって言うのは分かるけれど、私は……なんか嫌なの」
「私も」
二人減ってくれただけでも、俺はありがたいです!
それでも、明日には十九重婚者……嫌だな。
ナオやユイとは、もちろん真剣に結婚するつもりだけれど。
それに……ノーザンとも。
「スゥーシャとクマムは良いのか? 嫌なら断っても……」
「へ? 私も良いんですか!?」
「ぜ、是非お願いします!」
二人共、それで良いのか!?
「じゃあ、今夜は早めに眠って、朝早く教会に行きましょう!」
「「おーーッ!!」」
サトミさんが仕切ると、余計に怖い!




