153.魔神・跳弾兎
「迷路で見付けたこれ、”アシッドダガー”。私が使って良いかな?」
「Aランクの強力なのだね。アオイ自身か、ザッカルが良いと思うよ?」
アオイの武器を見て、メルシュが提案。
「俺にはコイツがあるから、アオイが使って構わないぜ!」
腰に差した機械短剣、”レーザーソード”を見せながら、そう言うザッカル。
よっぽど気に入ったんだな。
「そう言えば、シレイアとサキは?」
俺が尋ねると、シレイアが髪を掻き出す。
「ああ、隠れNPCは対象外らしくてね。以前はそんなことなかったはずなんだが」
「へ? そんなはず……あれ? 設定が変わってる? 今朝は問題なかったはずなのに……」
シレイアもメルシュも、かなり混乱しているようだ。
「昨日と良い、このステージの観測者は私達に積極的に横槍を入れてくるみたいだね」
もしかして……俺がアテル達の前で、メルシュに世界を終わらせられるのかどうか尋ねてしまったのが原因なのか?
いや、それならアテル達から一方的にもたらされた情報の方が問題か。
奴等にとってマズそうな情報が多かったしな。
「ちょっと良い? 私が迷路で見付けたアイテムなんだけれど」
アヤナが割り込んでくる。
割と深刻な話しなのに、自分の話をしたいらしい。
「なんと、”氷炎の競演を観よ”! っていうガントレットなのよ!
出た。
でも、今回は親父ギャグっぽい。
……親父ギャグって、基本的に面白いと思ってるの……言ってる本人だけなんだよな。
「氷と炎でガントレット……まるでナオのための武器みたいだな」
氷と炎特化で、左拳による接近戦も行うナオ。
ナオに合わせて用意されたんじゃないかって疑いたくなるレベルだ。
「じゃあ、ナオに上げるわね」
「やった!」
綺麗な青と赤が入り交じった、綺麗な甲手。
「メルシュ、これって神代文字対応よね?」
「うん……確かにそうだね。でもなんで……」
ナオが確認して喜ぶ反面、メルシュは疑問顔を浮かべていた。
ルイーサとノーザンは、特にはなにも手に入れてないのか。
「あれ? そういえば、モモカは精霊の村でなにを手に入れたんだ?」
聞く前に外に遊びに行っちゃったから、分からないままだ。
◇◇◇
『ナオちゃん、喜んでくれたかしら?』
私がこの世界に誘ってあげた、綺麗な子。
彼女には生き残って欲しいから、彼女のためになる神代文字対応の武器を創造して、システムの審査も通して、なんとか捻じ込んだ。
『アヤナとかいう魔法使いには合わない装備だし、お願いだから、ちゃんとナオちゃんに渡しておいてよ~!』
『――君の女好きには困った物だね、エリカ』
『オッペンハイマー様!?』
うわっ、ビックリしたぁぁ!
『脅かさないでくださいよ!』
『サトミという女に神代文字対応の武器を与えたのも、君の好みだったからかい?』
『冗談! いかにも倭人って感じの女に、興味はありませんわ』
最近のナオちゃんはますます綺麗で、良いわ~♡
『君が好きなアイドル文化は、日本発祥だと思ったがなね
『だとしても、関係ありませんわ。私は倭人のアイドルよりも、もっとエロティックなアイドルが好みなのですから!』
『あ、そう。これ、バウンティーハンターシステムと隠れNPCの追加分に関する資料だから……』
紙の束を受け取ると、オッペンハイマー様がなにかを逡巡しておられる?
『君に、あるアイテムを創造して貰いたい。頼めるかな?』
『神代文字対応ですか?』
それが私の、このゲームの管理以外での主な担当。
『ああ、構想は出来てるが、イマイチ良い名前が浮かばなくてね。明星という単語を入れて欲しいんだが』
『……はぁ』
頼まれて作るの、あんまり好きじゃないなー。
●●●
「コセ、これあげる」
今日も俺と寝たいと言ってきたモモカが、突然小さなペンダントを差し出した。
「俺に?」
「うん」
黒っぽいペンダントを、そっと受け取る。
「ありがとう、モモカ」
なんか、胸にジワッと来た!
チョイスプレートにしまい、さっそくその他の欄に装備する。
「”剣王のペンダント”か……」
剣に関係ありそうなアイテムだな。
さっそく、装備状態で実体化してみる。
「大切にするよ」
効果は分からないけれど、性能の低いアイテムではなさそうだ。
使わないことで、モモカを傷付けてしまうという事態は避けられそう。
「未来の旦那様に、死んで欲しくないからあげたんだからね!」
顔を赤くしている気がするけど、多分気のせいだ。
「あ、ありがとう」
これは、一時的な子供の気の迷い。一時的な子供の気の迷い!
「二人とも、早く寝ましょ。明日はボス戦なんだから」
「そうだな」
「分かった、ユリカ!」
モモカを真ん中に、三人で眠りにつく。
すぐにモモカの寝息が聞こえてきて、心がホッコリして来た時だった。
「このロリ誑し」
「ぐ!!」
ユリカが意地の悪い笑みを浮かべながら、そう言ってきたのだ。
多分ユリカは冗談で言ってるんだろうけれど……俺はちょっと、胸が痛かった。
●●●
「ボスは、魔神・跳弾兎。高速で縦横無尽に駆け回るから、かなり危険だよ。とにかく広範囲に攻撃して、動きを止めて」
いつも通り、ボス部屋前でメルシュが攻略法を解説してくれる。
万全の準備を整えてから挑むようにしているため、ボス戦は大抵早朝になりやすい。
昨日の午後は、新装備の使い心地をメルシュとジュリーの監修のもと試して習熟訓練に励んだし、順当ではあるんだけれど。
「防御能力はそんなに高くないから、バレット系の魔法で攻撃して、動きが鈍ったところに強力な攻撃で畳み掛けるのが良い。それと、今回は弱点も有効武器も無いよ。危険攻撃は、その縦横無尽の高速移動そのものだから、最初から使ってくるからね」
同じ兎として、負けられない戦いだ。
「じゃあ、私達から先に行くわね」
サトミ様と私、メグミ、ユイ、シレイアと、昨日と同じ面子で進む。
「ご主人様……なにしてるんです?」
「へ? ああ、ちょっとな」
いずれ私とサトミ様の伴侶となるべき男が、なぜか白い妖精の足元に小さな蜜瓶を置いていた。
確かに私達の世界では、妖精に蜜入り小瓶を上げる風習があるけれど……その妖精は作り物でしょうに。
一度はコイツに惚れて、責任取って貰おうと思ったけれど……どうしよう。
楽しいという感情は、一番幸せを遠ざける。
という持論を話してみたら、まったく理解を得られませんでした。
幸せと楽しいは別物で、楽しい事は依存しやすく、身の破滅につながると思うのですが。
テレビとかだと、幸せと楽しいは一緒くたにされていることが多いです。