149.煉獄は罪過を払いけり
赤い光の中へと歩き始めて数十秒後、突然光が消えて真っ暗……というより、夜空が三百六十度広がっている?
ゆっくりと煌めく星々の動きに、まるで自分が宇宙空間に放り出されたような気分にさせられる。
重力はあるみたいだけれど。
『よく来たね、小娘。私がここから動けないのを良いことに、この私そのものである木を焼いてくれおって!』
暗がりの奥、かろうじて木のようなシルエットが見える。
どうやらそれが、邪悪な魔女の本体らしい。
『こんな封印さえ無ければ、こちらから出向いて八つ裂きにしてやったものを……まさか、本当に自ら飛び込んで来てくれるとは!』
封印されてるから、自分が居る場所に私を招いたっていう流れなわけね。
『私を倒さない限り、お前はここから出られないよ! フェッフェッフェッフェ!!』
身体がさっきから動かない。イベントを邪魔しないための仕掛けってやつ?
盗賊の頭領の時もそうだったわね。
『死ね、生意気な魔法使い!!』
「お」
ようやく動ける!
「“煉獄魔法”、インフェルノバレット!」
先手必勝!
『ギぁぁあああああ!! 熱い! 熱い! 熱い!!』
“煉獄王の指輪”と“煉獄のネイルステッキ”により、私の煉獄系の攻撃はかなり強化されているらしい。
今の私なら、二発か三発まともに”煉獄魔法”を当てれば倒せるって、メルシュとジュリーが言ってくれた。
大丈夫、独りでもやれる!
『小娘ぇえぇぇぇぇぇぇッ!!』
シルエットしか見えなかった木が燃え上がり――醜い老婆と木が融合した姿が飛び込んできた!!
『ひよっこ魔法使いが、偉大なる私にぃぃぃッ!!』
黒い巨大な枝で出来た腕を振るってくる!
「――“拒絶領域”!」
透明な柱状の衝撃波によって、枝の腕が潰れながら弾かれた!
「終わりよ! “煉獄魔法”――インフェルノブラスター!!」
紫の巨大な炎線が、魔女に直撃。
「フー、問題無かったわね」
“拒絶領域”でも削ったし、トドメのインフェルノブラスターは”煉獄魔法”の中でも高威力。
二人の情報通りなら、これで終わったはず。
「それにしても、この地面ってどうなってるのかしら?」
しゃがんで触れようと手を伸ばした瞬間――頭上をなにかが薙いだ?
『避けるなぁ……小娘ぇッ!』
「な!?」
まだ生きてる!!
身体の炎が消え、黒い樹木の身体を再生させていく!
『本物の魔女の魔法を見せてくれる! ”暗黒魔法”、ダークランス! ”光輝魔法”、シャイニングレイ!』
HP半分以下で魔法を連発してくるから、早く倒せって言われてたのに!
走って躱しながら、杖を翳す!
「インフェルノブラスター!!」
『インフェルノブラスター!!』
「嘘でしょ!?」
同じ魔法で押し負けた!!
『”深淵魔法”、アビススプラッシュ!!』
紺色の水鉄砲!?
「アビスウォール!」
同じ色の水の渦で、なんとか防ぐ!
「“潜伏”!」
仲間が居るときには滅多に使わないスキルで、身を隠す。
「ハァー……ハァー……」
なんとか隙を突いて、もう一度インフェルノブラスターを……。
『臆病者が!! すぐに炙り出してくれるわ!! ”大地魔法”、グランドウェーブ!!』
見た目宇宙みたいな場所なのに、地面が揺れる!
でも、身動き取れなくなるだけでダメージは――
『”星屑魔法”、スターダストシャワー!!』
頭上に白銀の巨大な魔法陣が出現して、そこから銀色の流星が!?
ジュリー達が言っていた、邪悪な魔女の一番強力な魔法!! しかも、全域への攻撃!!
「“拒絶領域”!」
動けない状態である以上、防ぐしかない!
『そこかぁぁぁッ!!』
“拒絶領域”を使用した事で、“潜伏”がキャンセルされてしまった!
『“光線魔法”、アトミックレイ!!』
「インフェルノブラスター!!」
また私の魔法が押し負けたため、横に跳んで躱す!
――ただし、アトミックレイの余波によって地面を転がされた!!
「ぅ……」
余波だけでも、左腕が焼けるように熱い!
『死ね――小娘ぇぇッ!!』
――這いつくばった地面の夜空が、あの日の光景に重なる。
お盆の日、おじいちゃんと迎え火をしたあの夜と。
煉獄の炎は、魂の罪を浄化する。
この宙の世界に漂う憐れな魔女は、煉獄の炎に焼かれなければならない。
焼いてあげるのは――私だ。
「……これは」
心が研ぎ澄まされ、感情が眠っていく感じ。
でも、奥底には……熱く消えることの無い火が灯っている。
罪だけを焼き尽くす――浄化の火が!
『“煉獄魔法”、インフェルノブラスター!!』
――“煉獄のネイルステッキ”が形を変え、より禍々しい形状に――――私の魂に馴染んでくれるように変化。
「“煉獄魔法”――インフェルノブラスター」
同じ魔法同士をぶつけるも、今度は押し負けなかった。
『生意気な、アトミックレイ!』
変化した杖に、コセの剣と同じ文字が三つ浮かんでいる。
その事が、とても誇らしい!
「“魔斬り”!」
杖の爪部分で、迫る青白い光線を斬り消す。
『ば、バカな!』
「身体痛いから、さっさと終わらせるわ」
左腕の痛みを無視して前へ!
『こ、来ないでよ!』
枝の腕が、また襲ってくる。
「“塵壊”!!」
槍男が使った紅の鉤爪の効果で、切り付けた枝を塵に変える!
「“瞬足”」
『わ、私は人間なの! だから殺さないで!!』
槍男みたいに、死んでモンスターにされたパターンか。
「あ、そう」
私を殺そうとした時点で、だからなに? としか思えない。
「”竜爪術”――ドラゴンスラッシュ!!」
老婆の腹を、巨大な樹の幹ごと杖で両断。
『がああああッ!! ……一年! 一年頑張れば、人間に戻してくれるって言われたの! あと二ヶ月で私は!!』
倒れた樹木から、醜い老婆が喚く。
「でも、貴方を倒さないと私はここから出られない」
『それは!!』
何よりコイツは……私を殺すことを躊躇わなかった。
「当たり前のように他人の犠牲の上に生きて、貴女は幸せになれるの?」
この領域に踏み入ってみて、分かった気がする。
出会った頃、どうしてコセが私を拒み続けたのか。
『お願い! お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いッ!!』
「きっと、私と貴女は大差のない人間よ」
コセと出会う前の私と。
「貴女の魂を、この場所から解き放ってあげる」
『お願い! お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い! 私を殺さないでぇぇぇぇッ!!』
「さようなら――インフェルノ!!」
『この――人殺しぃぃぃぃぃぃ……ぃ…………』
煉獄の炎に焼かれ、女の罪は青い燐光となって……消えたのだろうか?
「……気持ち悪い物ね、コセ」
人を殺す感覚って。
「でも、馴れちゃいけないのよね」
命を軽視する人間に、生きる権利なんて無いんだから。
だから、この罪を忘れない。
○邪悪な魔女の討伐報酬を、一つお選びください。
●”星屑魔法のスキルカード”
●”星屑魔法使い”のサブ職業
●”スターダストロッド”
神代文字を消した瞬間、チョイスプレートが現れた。
「付け替えが出来るサブ職業の方が良いか」
○邪悪な魔女の強化体を倒しましたので、特別報酬をお選びください。
●“混沌魔法のスキルカード”×3
●“煉獄魔法のスキルカード”×3
●“冥雷魔法のスキルカード”×3
●上記のカード一枚ずつ
「強化体? どういうことよ?」
それに、同じ魔法のスキルカードを三枚も手に入れる意味あんの?
煉獄は炎そのものではなく、浄化の炎がある地獄の場所を差す言葉のようです。