143.マクスウェルのフェルナンダ
家にコセとユイだけを残し、私達は四源の洞窟に向かっていた。
途中でタマとシレイア、モモカは別行動。
「ここだね」
村の外れ、暗がりに洞窟への入口があるようだ。
入口の周りを、皺が走るように四色の光が明滅しているため、かろうじてそこになにかがあると理解出来る。
「“閃光魔法”、フラッシュ」
ジュリーが光球を作り出し、先頭へ。
すぐに道が二つに別れる。
「私は左に行く」
「じゃあ、私達は右で」
ジュリーとメルシュのやり取りのち、右の光りの皺がある方にメルシュ、トゥスカ、ノーザン、ナオ、ザッカル、サトミ、リンピョン、メグミ、ユリカがついていく。
彼女達は右側に出て来るというモンスター、ミミック狩りが今日の目的だ。
「ルイーサ、パーティーを組もう」
「ああ」
ジュリーに促され、私とアヤナ、アオイ、ジュリー、サキの五人でパーティーを組む。
そして私達は、光源が無ければ何も見えないほど真っ暗闇な通路へと踏み出す。
ジュリーの魔法と、最後尾のサキが持つ松明を頼りに進む。
「不気味ね」
アヤナが、耐えられないとばかりに口を開く。
「階段だよ、気を付けて」
道幅は少しずつ狭くなり、圧迫感が強くなってくる。
階段を降りた先には、この場に似つかわしくない豪奢な扉。
「ここも違う」
一昨日の件で、私達はジュリーが、このゲームのオリジナルを作った夫婦の娘であることを知った。
アヤナはなにか言いたそうだったが、さすがに空気を読んで自重してくれたようだ。
実際、私達がこの世界に送り込まれたことに対し、ジュリーに責任はないからな。
ジュリーが触れると、扉が開いていく。
部屋に全員が踏み入れると扉が閉まり、暗闇に火が灯された!
明るくなった部屋の床は、綺麗な石畳。
ただし、壁や天井からは岩が突き出ている。
「来るよ!」
ジュリーの警戒の声ののち、奥の祭壇のような物の前に光が立ち昇り――黒メタリックカラーの騎士が現れた!!
黒光りした曲刀と、赤、黄色、青、緑のタワーシールドを持つ巨軀の騎士。
「エレメンタルガーディアン。アイツには魔法が効かない。だから、アヤナは回復に専念!」
指示を出していくジュリー。
「サキ!!」
「はい、マスター!! ――来て、サタちゃん!!」
赤い魔方陣が地面に広がり、そこから黒いドラゴンが現れる!
これが隠れNPC、テイマー独自の能力!
「サンダラススプランター!!」
「“鞭打ち強化”!」
ジュリーが魔法を放つと、盾を構えて受けきるエレメンタルガーディアン。
その隙を突き、サキによって強化されたサタちゃんが突っ込んで、エレメンタルガーディアンに体当たり!
祭壇に向かってダイブさせてしまう。
魔法は効かずとも、牽制には使えるのか。
「“大鬼の手”」
アオイが昨日手に入れたスキルを使用。
”メイルブレーカー”を持たせ――エレメンタルガーディアンの右腕を突き刺して押さえ付ける!
鎧の防御能力を無視する凶悪な効果があると、この前メルシュに教えて貰った武器。
「押せ押せ押せ押せサーターちゃん! 行け行け行け行けサーターちゃん!!」
運動会で聞いたことがあるような”応援がテイマーのサキから聞こえてくると、サタちゃんの圧力が増す。
『グォォォォッ!!』
エレメンタルガーディアンに再び突っ込むサタちゃんだが、盾で叩き伏せられ、そのまま蹴り飛ばされてしまう!
「“魔力砲”!」
「“白骨火葬”!」
ジュリーによる攻撃を、盾で受ける黒騎士!
だが、そのバカげた威力により腕はもげ、一瞬遅れて私の白い熱煙が到達! 奴の黒鎧を徐々に溶かしていく!
『ギ……ガ……』
「コイツ、まだ動くぞ!!」
「――”轟雷龍”!!」
ジュリーの左腕の甲手から金色の雷龍が放たれ、エレメンタリガーディアンの左腕に盾ごと食らい付いた!!
「奴は光属性の耐性だけは低い! ルイーサ!!」
「任せろ!! ”闘気剣”!!」
”ヴリルの聖剣”に青いオーラを纏わせ、更に――文字を三文字刻む!!
「行くぞ!!」
その瞬間、盾に食らい付いていたはずの雷龍が吹き飛び、接近する私に向かって叩き付け――
『――グォォォォッ!!』
サタちゃんの咆哮の直後、背後から放たれた光の玉により、迫る盾の軌道が外れた!
ナイス、サタちゃん!
「”光輝剣術”――シャイニングブレイド!!」
黒騎士の巨軀の胸を、大きく切り裂いた!!
『ギガ……ガ………』
やがて、沈黙した騎士から青白い光が立ち昇り始める。
「チャンス! ――“魔物契約”!!」
「へ?」
サキが鞭を振るうと黒騎士の首に巻き付き、消滅の際の青い光が黄金の光に変わった!!?
光が収まると、そこには傷一つ無い黒騎士が。
「成功です、マスター!」
「本当に……エレメンタルガーディアンをテイムしちゃった」
どうやら、サキの能力でエレメンタルガーディアンを手に入れるつもりだったらしい。
「聞いていないぞ、ジュリー」
「ゴメン。チャンスが無ければテイムしないつもりだったから。テイムしようとして皆を危険に晒すのは避けたかったんだ」
光に変わり始めても、襲ってくるモンスターは何度かいた。
その辺の危険を考慮し、私達に気を遣わせないようにしたわけか。
どっちの方が良かったとは、なかなか言えない所だな。
「貴方の名前は、エレちゃんにしよう!」
サタンドレイクのサタちゃんと同じく、最初の二文字で名前を付けようとするサキ。
「ええー、もうちょっと格好いい名前を付けましょうよ!」
アヤナの抗議。
「ええ、エレちゃんって可愛いじゃないですか!」
サキ、本気なのか?
「カズトにしましょう! どうよ?」
「姉ちゃん……却下」
「私も、それならエレちゃんの方が良い」
「私も、人名はちょっと」
アヤナの意見を否定する、アオイとジュリーと私。
「じゃあ、もっと良い意見出しなさいよ!」
「ハナちゃんで」
「アオイ! それじゃあエレちゃんとなにも違わないじゃない! ていうか、ハナってどっから出て来た!?」
「シンプルに黒騎士で良いだろう?」
「そんな堅いのはダメよ!」
アオイと私の意見を、バッサリ不採用にするアヤナ。
「ジュリー、なにかあるか?」
「黒光り……というのは?」
「「「「却下で」」」」
全員の気持ちが一つになった。
『我はアーサーなり!! 勝手に変な名前を付けるでないわ!!』
「「「「「へ?」」」」」
黒騎士が……喋った?
『テイマーよ。仕方ないから仕えてやるが、我に変な名前を付けようとしたら許さぬからな!! 解ったか、小娘共!!』
そう言いきり、青い魔方陣の中に消えていくエレメンタルガーディアン。
「「「「「……アイツ、喋るんだ」」」」」
★
黒騎士が消えると祭壇が修復され、そこに四つの台座がある事に気付く。
「あの台座、玉を置くのにちょうど良さそうですね!」
サキの、半ば投げやりな振り。
「……ルイーサ」
「ああ」
祭壇に近付くと勝手にチョイスプレートが出て来て、四つの宝珠が飛び出す!
宝珠……自分で置かなくても良いのか。
なら、さっきの振り要らなくね?
「今度はなんだ?」
宝珠が台座に置かれると祭壇が揺れだし……真ん中に少女の像が生えてきた!?
○以下から一つを選択出来ます。
★マクスウェルをパーティーに加える。
★精霊使いのサブ職業を手に入れる
★精霊魔法・四源強化のスキルカードを手に入れる。
「これが、隠れNPCとの契約……」
予定通り、マクスウェルをパーティーに加えるを選択。
○隠れNPCを入手したため、ジュリーとサキをパーティーから強制排除しました。
少女の像へと、四つの宝珠から赤と黄色、青と緑の光が吸い込まれていく!
「すご!」
珍しいアオイの驚き声。
「……フン! 小娘、お前が私のマスターか」
背の低いトゲトゲとした長い金髪の少女が、鋭い翠の瞳で私を睨む。
祭壇から飛び降り、金糸で刺繍された黒マントを靡かせ、指の空いた手袋を直しながら近付いて来た。
「貴様には特別に、この私に名を贈る栄誉を与えよう」
「不遜な物言いだな、お前」
○名前を入力してください。
「……じゃあ、フェルナンダで」
「ほう、ドイツ語で危険を恐れぬ者か。良いじゃないか! 気に入ってやったぞ!」
気に入ってやったぞ?
「まあ……よろしく」
「フン!」
手を差し出すと、意外にもすんなり握手してくれるフェルナンダ。
こうして、隠れNPCの魔法使い、マクスウェルが私達の仲間となった。




