136.蠍と魚と猿
「クソ! 試練とやらが始まったと思ったら、十分間逃げ切れだ~!?」
どこかの寂れた暗い町の中を、障害物を跳び越えたり屋根に駆け上がったりしながら、俺は多種多様なモンスターから逃げ続けていた。
「いったい何百体居るんだよ!」
獣型のモンスターが大半で、人型は武器の類いを所持していない。
倒す旨味がねぇな。
「お、なんだありゃ?」
デッカい蠍みたいな……鉄屑?
「おわ!?」
蠍の尾や鋏の部分から、光を撃ってきた!?
「攻撃力……半端ねぇな」
一撃で、木造のボロ小屋が吹き飛びやがった。
攻撃が”光線魔法”に似てんな。
「なにか面白いもんがドロップしそうだ――装備セット2」
刃の無い、黒の大剣を装備する。
俺の装備が一番貧弱っていう理由で、コセから借りたままになっていたヤベー剣。
「おら! これでも食らえ!」
スタンピードラット避けに作って置いたあまりの液体を、モンスターの群れに投下して動きを止めてやる!
そのまま光りを掻い潜って、俺よりデカい蠍のパチモンに接近!
「――“終末の一撃”!!」
頬に掠りながらも、胴部分にバッチリブチ込んでやったぜ!
蠍が光に変わり、倒したのを確認。
「……逃げんの、性に合わんわ。装備セット1」
装備を両手鉤爪状態に戻し、追い掛けてきたモンスター共に向き直る。
「時間いっぱいまで殺し合おうぜ!!」
だけど、百も仕留めないうちに試練は終わっちまった。
○クリア報酬を一つ選択してください。
★”四連瞬足のスキルカード”
★“超域探知のスキルカード”
★“宵闇瞬足のスキルカード”
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「面倒い」
魔法を駆使して、河から飛び上がった魚モンスターを倒していく。
「全部魚なのに、モンスターによって弱点属性が違うのかしら?」
“万雷魔法”じゃ一撃で倒せないのに、“氷塊魔法”では倒せる個体も居る。
「ていうか、河なのにカジキみたいな奴も居るし」
川魚とか海魚とか、関係無いんだ。
「あと四分ちょっとで六十二体……六分で三十八体しか倒せてない」
十分以内に魚モンスター百体を倒さないといけないのに!
「こうなったら!」
河の真ん中から顔を出している、平たい石の上に飛び乗る。
魔法でチマチマ狙い撃とうとしたのが間違いだった!
「装備セット2」
近接戦闘特化装備に変更。
バチャン! と飛び跳ねてきた二メートルくらいの魚モンスターの突撃を紙一重で回避し、右手の“大猩々の石籠手”で裏拳を見舞う!
「ハイパワーブレイク!」
裏拳から発生した衝撃波に魚肉を撒き散らせて吹き飛び、光に還る魚。
「次!」
私の声に応えたわけじゃないでしょうけれど、さっきのより一回り小さい魚モンスターが群れで迫ってきた!
「――竜連拳!!」
昨日のボス戦でLv37になったとき、思い切って魔法系じゃないサブ職業、”竜拳使い”を選んだ!
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
左手に装備したメリケン、“ドラゴンナックルバスター”で打つべし! 打つべし! 打つべし! 打つべし!!
十匹中、八匹は仕留められた!
「ハアハア、ハアハア」
メルシュ……これ、結構キツいんだけど。
「サンダラススプランター!!」
遠くで跳ねた魚モンスターも仕留める!
「また来たわね」
河の中に魚影。
河に入った途端、よく跳ねて来るようになったじゃな――――
「うぅッ!!!?」
カジキみたいな奴に――肩を貫かれた!!!
「負けるかぁぁぁッッ!!」
せっかくコセと繋がれたのに、こんなところで死ねるかぁぁぁぁッッッ!!
「“超竜撃”ッ!!」
河に落ちないように、身体を捻って突撃の威力を去なし、”ドラゴンナックルバスター”の効果で密着状態からブッ飛ばす!!
「いッッッッッたーいッッ!! ハイヒール!」
カジキが飛散して消えたあと、すぐに肩の穴を塞ぐ!
全快させてる余裕は無い!
「……来なさいよ!」
騙し騙し、やってやる!
★
○クリア報酬を一つ選択してください。
★”水歩法のスキルカード”
★“青光吻のスキルカード”
★“魚群のスキルカード”
「あと四秒……あっぶな――いった! ハイヒール」
肩が熱くて痛い!
「でも、なんとかクリア出来た」
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「もうちょっと」
まさか、山頂を目指せという内容とはね。
「傾斜が厳しめだけれど、兎の獣人である私にはなんの問題もない!」
ただ……ちょっと暗すぎ。
”ホロケウカムイ”を発動したままじゃないと、暗すぎて進めない。
「キキ!」
「なにか居る」
さっきまで、生き物の気配なんて全然無かったのに。
ソイツはこちらへと急接近してきて――腕を振るってきた!
「く!」
近付かれたときに毛むくじゃらの腕は見えたけれど、よく分からない。
「あんまり大きくはないし、多分人型のモンスター」
「キキ!」
――気配がした方へ、左腕の“殺人鬼の円鋸”を”回転”させて翳す!
「ぎぇぇあぁぁぁッッッ!!!」
派手に血を撒き散らし、ソイツは絶命したようだ。
やがて光が立ち昇った先に居たのは……猿のモンスター?
「もしかして、ナイトモンキー?」
コイツは夜行性で……集団で行動するはず。
「まずい!」
気配がアチコチから!!
急いで山頂を目指すも、気配は増えながらずっと追ってくる!
傾斜を走りづらい“瞬馬の蹄甲脚”は外してるから、スキルと効果による連続の“瞬足”は出来ないし!
『ギギ!』
突出して速い気配が、私の横に!
「くのッ!!」
横合いから、私より大きな猿がいきなり蹴りを入れてきた!
しかもコイツの脚、なんか氷に覆われてる!
そういうスキルか、装備って事ね。
「せっかく“無名のスキルカード”を使ってるんだし、アイツは仕留めてやる!」
『ギギギ!』
また走り出した私に並走してきて、氷の脚で攻撃してくるモンキー。
「“回転”」
“殺人鬼の円鋸”を再び回転させ、その蹴り付けてきた氷の脚を削っていく!
『ギギィィィイィッッ!!』
氷を削って脚を負傷させたら、動きが止まった!
手早く仕留めないと、他のに追い付かれる!
「“大転剣術”、ハイパワーブーメラン!!」
猿の首を刎ね、投げた円鋸を回収したのち、私はひたすら山頂を目指す!
「また!」
段差を跳び越えて硬直した瞬間、木の上からなにかが落下してくる!
間一髪で跳んで躱すと、さっきまで居た場所に細い短剣を突き立てている猿モンスターが居た。
さっきのと同じだけれど、脚は氷で覆われていない。
「あの武器、リスの子が使っていた奴だ」
昨日襲ってきた、いけ好かない奴等の仲間。
目の前の猿は、一本しか持っていないようだけれど。
『ギギ!』
後ろからも!
同じ武器を持った二体の猿に挟まれた!
『『ギギ!』』